『デビルズ・フォレスト〜悪魔の棲む森〜』

デビルズ・フォレスト 悪魔の棲む森 [DVD]

原題:“The Barrens” / 監督&脚本:ダーレン・リン・バウズマン / 製作:リチャード・サパースタイン、ブライアン・ウィッテンダーレン・リン・バウズマン、ジョン・M・エッカート / 共同製作:スティーヴン・モイヤー / 撮影監督:ジョセフ・ホワイト / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ハックル / 編集:エリン・デック / 衣装:ローラ・モントゴメリー / キャスティング:ステファニー・ゴリン,CSA,CDC / 音楽:ボビー・ジョンストン / 出演:スティーヴン・モイヤー、ミア・カーシュナー、エリック・ヌードセン、アリー・マクドナルド、ピーター・ダクーニャ、アシーナ・カーカニス、ショーン・アシュモア / 映像ソフト発売元:Transformer

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:ブレインウッズ

日本劇場未公開

2013年3月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2013/08/24)



[粗筋]

 リチャード(スティーヴン・モイヤー)はヴァケーションに、キャンプを計画する。シンシア(ミア・カーシュナー)と再婚したはいいが、いまひとつうまく行っていない家族関係を修復するとともに、思い出のある川に父の遺灰を撒くのが目的だった。

 だが、計画はリチャードの思惑通りには運ばなかった。シンシアとのあいだに生まれた息子ダニー(ピーター・ダクーニャ)は退屈しているし、年頃の娘サディ(アリー・マクドナルド)は不平たらたらだ。目的地であるファインバインズは、リチャードの幼少時代は人気のないキャンプ場だったが、いまはキャンプ用地に多くのテントが密集して、自然の静けさなど味わいようもない。

 それでも若者たちに誘われキャンプファイアーに参加したが、そのなかのひとりライアンが語りはじめた怪談が、リチャードの忌まわしい記憶を呼び起こした。ファインバインズの森には悪魔の伝説がある。かつて森に暮らした娼婦が、街の人々との約束を破り身籠もった13人目の子供が悪魔となった、という――リチャードは子供の前で披露すべき話じゃない、と憤るが、シンシアはリチャードのそんな大人げのない振る舞いを非難する。

 その晩、リチャードは悪夢に魘された。眠れずテントから彷徨い出た彼の前に、ファインバインズに棲む悪魔が姿を現す――

[感想]

 邦題やジャケット・デザインはクリーチャーもののようだが、本篇は決して安易なクリーチャーものではない。もともと生死を賭したゲームを題材とするシナリオが評価され、それをシリーズの1篇にアレンジした『SAW2』で世に出た監督ダーレン・リン・バウズマンが手懸けているだけあって、そこにきちんとアイディアが組み込まれている。

 ただ、読み解くのが難しい、というほどのものではない。ホラーやサスペンスものに知識のあるひとなら、どういうアイディアをどういうふうに見せたいのか、そしてオチをどうつけたいのか、予測するのはわりと簡単だろう。未体験の衝撃を常に求めるようなひとにとっては、たぶん満足からは程遠い仕上がりだ。

 しかし、おおむね察しがついていても、最後まで疑念を抱かせ、登場人物もろとも観客を振り回す筋運びはなかなか巧い。序盤から着実に人物や伏線を配し、それをところどころにちりばめ、疑念や恐怖を掻き立てながら、複数の感情、思惑が絡んだクライマックスを生み出す。

 恐らく本篇はかなりの低予算で製作されているはずだ。著名な出演者がいない、という点からも察せられるが、舞台がほぼ森の中、という一点からも明らかだろう。意識してしまうと広がりがない、と思ってしまうが、しかし森という、時間帯ごとに表情を変える舞台装置をうまく活かして、画面に変化が感じられるような工夫を凝らしているのは評価したい。昼間の、登場人物同士が生み出す殺伐とした雰囲気と、陽が落ちたあと、キャンプ地やキャンプファイヤーの場で繰り広げられる脳天気さ。寝静まってからの、木陰に何かが潜んでいそうな剣呑な気配、そして早朝の、観ているだけで服がじとっと重くなりそうな朝靄が垂れこめ、迷宮のようなムードを醸しだした映像。折々の多彩な表情を活かし、緊張感と恐怖とを盛り上げる手腕は堂に入ったものだ。

 クライマックスの流れもおおむね察しはつくものだが、やはり予算を絞った撮り方の中で、サスペンスの面でも感情のドラマとしてもきちんとヤマ場を設けており、決して飽きさせない。個人的には、エンドロールのあとに添えられたエピローグは侮りがたいものだと思う――続篇に色気を残した、と揶揄する向きもあるだろうが、本篇のようなテーマの締め括りとして、絶望に力強さを添えるこの趣向は悪くない。発想としては手垢の付いたものだし、もっと優れた描き方をしている作品もあるが、変に背伸びをせず、作品の規模に合わせたタッチは、全篇のムードをいい意味で壊していない。

 如何せん、“低予算”という事実があからさまで、そこを突き抜けるようなアイディアや試みがないため、日本では映像ソフトに直行してしまったのも致し方ない、とは思う。しかし、規模の中で望まれるクオリティ、面白さをきっちり醸成している、という意味では、かなり上出来なのだ――背伸びしない佳作、というのもけっこう大切なのである。

関連作品:

SAW2

SAW3

SAW4

REPO! レポ

11:11:11

顔のないスパイ

ブラック・ダリア

キャビン

死霊のはらわた

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