『大脱出』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

原題:“Escape Plan” / 監督:ミカエル・ハフストローム / 原案:マイルズ・チャップマン / 脚本:マイルズ・チャップマン、アーネル・ジェスコ / 製作:マーク・キャントン、ランドール・エメット、レミントン・チェイス、ロビー・ブレナー、ケヴィン・キング=テンプルトン / 製作総指揮:ジョージ・ファーラ、マーク・スチュワート、ザック・シラー、アレクサンダー・ボーイズ、ニコラス・スターン、ジェフ・ライス、ブラント・アンダーセン / 撮影監督:ブレンダン・ガルヴィン / プロダクション・デザイナー:バリー・チューシッド / 編集:エリオット・グリーンバーグ / 衣装:リズ・ウォルフ / キャスティング:アン・マッカーシー、ケリー・ロイ / 音楽:アレックス・ヘッフェス / 音楽監修:シーズン・ケント / 出演:シルヴェスター・スタローンアーノルド・シュワルツェネッガージム・カヴィーゼル、カーティス・“50 Cent”・ジャクソン、ヴィニー・ジョーンズヴィンセント・ドノフリオエイミー・ライアンファラン・タヒール、サム・ニール、マット・ジェラルド、ケイトリオーナ・バルフェ / 配給:GAGA

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:林完治

2014年1月10日日本公開

公式サイト : http://dassyutsu.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/01/10)



[粗筋]

 レイ・ブレスリン(シルヴェスター・スタローン)は民間の警備会社の幹部にして、脱獄のエキスパートである。囚人を装って刑務所に収監されると、警備の細かな欠陥を見出して脱出、警備態勢の見直しを提案することを生業としている。

 半年近く費やした仕事が片づくなり、レイのもとに新たな依頼人が現れた。経営パートナーのクラーク(ヴィンセント・ドノフリオ)によれば、間違いなくCIAから派遣された弁護士である、というその依頼人ジェシカ・ミラー(ケイトリオーナ・バルフェ)が持ち込んできたのは、政府が関知しない、重要な政治犯やテロリストを収容する、民間経営の名目による極秘刑務所への潜入任務だった。機密を保つために所在地さえ漏らすことが出来ない、という依頼人の話に、レイの同僚たちは不審を顕わにするが、レイはこの依頼を受けた。

 サポートを担当するハッシュ(カーティス・“50 Cent”・ジャクソン)とアビゲイル(エイミー・ライアン)は埋め込み式の発信機でレイの居場所を特定しておこうと試みるが、レイを拉致同様に連れ去っていった使者たちはすぐさま発信機を摘出してしまった。

 昏倒させられたレイが目醒めた場所は、想像を超える状況だった。監房はそれぞれが独立しており、全面素通しでほぼ全方位から監視の眼が光っている。自由時間は各ブロックの囚人の交流が認められているが、広大な空間には却って死角がなく、レイがこれまで挑んできた監獄とは訳が違う。

 しかも、護送される際に、看守らしき男が何者かを殺害する現場を夢うつつで目撃したレイは、予め用意してあった避難コードを所長のホブス(ジム・カヴィーゼル)に伝えたが、なんの話か解らない、と無視された。

 どうやらレイは何者かの罠に嵌められたらしい。だがそれ故になおさら脱出の必要に迫られたレイは、入所早々親しげに話しかけてきたエミル・ロットマイヤー(アーノルド・シュワルツェネッガー)の助けを借りて、懲罰房の内情を探ろうと試みるが……

[感想]

ランボー』のシルヴェスター・スタローンと、『ターミネーター』のアーノルド・シュワルツェネッガーである。映画好きでなかったとしても、これが“夢の競演”であることは解るはずだ。いちおうスタローンの旗振りによる『エクスペンダブルズ』シリーズで共演を果たしているが、アクション俳優勢揃いが売りのあちらと異なり、本篇はがっぷり四つに組んだ作品である。往年のファンなら否応なしに期待したくなるところだろう。

 ただ、恐らく往時のファンが、この共演に対して期待するものとは、恐らく違った内容になっている。どちらも作中では最強のキャラクターを貫くことがほとんどであるが故に、この両者の対決となれば“どちらが勝つか”という文字通りの正面対決か、ど派手な戦闘の中で共闘する姿を求めたくなる。だが本篇で披露するのは、拳のやり取りではない腹の探り合いに、目的があっての簡単な殴り合いぐらいである。いちおうクライマックスはちょっと派手な戦闘が繰り広げられるが、直接対決や並び立っての勇姿を拝む場面はない。

 とはいえ、この辺りは両者の年齢や、最近の出演作を考えると致し方のないところだ、というのが解る。いずれも六十代後半、鍛えているとはいえ、さすがにハードな撮影は堪えるのか、近作は決して初期ほど激しいアクションの連続を繰り出すような作品には出ていない。シュワルツェネッガーに至っては、カリフォルニア州知事就任のために俳優業を退いていた期間があり、『エクスペンダブルズ』のカメオ出演などがあったものの、アクションどころか映画そのものから遠ざかっていた。本篇に先駆けて公開された『ラストスタンド』での演技を見ても、シュワがスライと同じような路線での活動を考えていることは察せられる。

 とは言うものの、さすがにエンタテインメント大作に出演し続けてきた“スター”の共演である。エンタテインメントとしては実にきっちりと結構が整えてあり、約2時間、退屈することはまずない。

 意外――と言っては失礼だが、スライ演じる脱獄のプロが踏む、脱出のための過程が非常に理に適っていて、終始知的なスリルが横溢している。初登場の時点から主人公独自の観点から刑務所の警備の穴を見つけ出し、見事に脱出する。その大前提を踏まえて、本題となる“要塞”を見たときの難攻不落ぶりと、それでも懸命に抜け道を探すレイとロットマイヤーの果敢な姿が演出する熱さは、決してアクションに劣らない。

 そしてその端々で、ちゃんと引き締めるような暴力沙汰も仕込んでくる。直接対決ではない、とは言い条、かなりパワフルな殴り合いや、周囲との乱闘を披露する。一方で、ホブスの仕掛ける卑劣な罠や過酷な仕打ちの数々も物語に強いインパクトをもたらしている。

 しかし、率直に言えば本篇のプロットにはあちこち穴がある。一見論理的なレイの脱獄法にはしばしば跳躍が見られるし、中盤、閉じ込められた監獄がどこにあるのか、というのを炙り出すための論理には根本的な誤解がある。また、プロット上も随所に意外性が仕掛けられているが、“果たしてそこまでする必要はあるのか”という疑問や、そもそも伏線が不充分なので、あとあと考えると説得力が乏しい要素も見受けられる。

 だが、観ているあいだそうした問題点をあまり意識させない勢いは確かにある。各所に仕込まれた意外性にしても、ぎこちなくはあるが、物語の牽引力を高める役割は充分に果たしているのだ。作り込まれたセットに、派手すぎるクライマックスにしても、観客の関心を惹き続けよう、というエンタテインメント作品としての意欲に充ち満ちている。

 物語としてパーフェクトでは無いし、決して往時のファンが望んだ“2大アクション・スター夢の対決”ではない。しかし、彼らのキャリアには相応しい、爽快感のあるエンタテインメントに仕上がっている――逞しくもどこか老いを感じさせる役柄が少々寂しくはあるが、まだその意志の強さを窺わせる作品を繰り出してくれたことを素直に喜びたい。

関連作品:

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