『ハウンター』

ヒューマントラストシネマ渋谷、シアター2前に掲示されたポスター。

原題:“Haunter” / 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ / 脚本:ブライアン・キング / 製作:スティーヴン・ホーバン / 製作総指揮:ヴァンサン・マラヴァル、ヴィンチェンゾ・ナタリ、ジョン・レイモンズ、マーク・スミス / 撮影監督:ジョン・ジョフィン / プロダクション・デザイナー:ピーター・コスコ / 編集:マイケル・ドハティ / 衣装:パトリック・アントッシュ / 音楽:アレックス・カスキン / 出演:アビゲイル・ブレスリン、ピーター・アウターブリッジ、ミシェル・ノルデン、スティーヴン・マクハティデヴィッド・ヒューレット、ピーター・ダクーニャ、サラ・マンニネン、サマンサ・ワインスタイン、デヴィッド・ノル / 配給:KLOCKWORX

2013年カナダ、フランス合作 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:野中まさ子

2014年2月19日日本公開

ヒューマントラストシネマ渋谷にて初見(2014/02/28)



[粗筋]

 いつ頃からか、リサ(アビゲイル・ブレスリン)は自分の世界が狂っていることに気がついた。朝、目醒めてから眠るまでのあいだ、家族が何をしているのか、すべて解る。弟のロビー(ピーター・ダクーニャ)は毎朝、パックマンの同じところで失敗し、母のキャロル(ミシェル・ノルデン)は朝、昼、夜と同じ料理を作り、リサに洗濯機を回すように頼んでくる。父のブルース(ピーター・アウターブリッジ)は車の故障を直そうと、朝からずっとガレージに籠もっている。直ったところを、リサは見た覚えがなかった。

 夜、観るドラマの台詞さえ諳んじるほどに繰り返される毎日に、苛立ちと恐怖を募らせていたリサは、霧に閉ざされた我が家のなかに、別の人間の気配があることに気づく。それが屋根裏に向かっていったことに気づいたリサは、物置となっている屋根裏に置いてあったウィジャボードで、自分に見えない何者かと意思の疎通を図ろうとする。だが、思惑通りに動いたポインターに驚き、リサは逃げ出してしまうのだった。

 翌る日、突然事態は変化する。毎朝、トランシーバーから呼びかけるロビーの声が切羽詰まっており、慌てて階下に向かうと、父が母をなじっていた。車が動かないのは、スパークプラグが盗まれているせいだ、いったいどこに隠したのだ、と。

 ようやく訪れた待望、しかし予想外に不穏な変化に動揺するリサの耳に、日々が繰り返すようになってから初めての呼び鈴の音が聞こえた。訪ねてきた男(スティーヴン・マクハティ)は自らを電話会社の人間である、といい、ずっと止まっていた電話線のチェックと称していたが、リサの部屋に無断で上がると、「余計な詮索をするな。家族が辛い想いをするぞ」と警告して去っていく。

 いったい、リサと家族の身に、何が起きているのだろうか……?

[感想]

 ここの映画感想の恒例として、いちおう途中までの粗筋は記したが、しかし本当はこの作品、なるべく予備知識は持たない方が愉しめるのではなかろうか。

 そう考えて、実はかなり序盤で察しのつく趣向について、あえて伏せている。あまりに見え見えなので伏せておく意味はなさそうなのだが、しかしあれがあくまで“前提条件”に過ぎない、ということは理解しておいてもいいだろう。

 この設定自体は既存の映画でも見られるが、本篇のような活用の仕方はそれほど多くない。扱っているのが『CUBE』や『スプライス』といった、設定から導き出せる趣向を突き詰めたような作品ばかりを発表しているヴィンチェンゾ・ナタリ監督であるだけに、今回もその徹底ぶりは著しい。何故1日が延々繰り返すのか、という理由付けと、そこから脱出するための展開は、大枠だけなら定石通りといえるが、細かなパーツの組み込み方が絶妙で、サスペンスに満ちている。

 しかし本篇のより優れているところは、細部にまで行き渡った、映画としての造形美にある、と感じる。

 たとえば、恐怖の表現だ。本当に緊迫した場面では音楽を控え、環境音のみで異様な気配を伝えてくる。日本産ホラーの影響を感じる表現だが、ジャンルの手法を巧みに消化する監督らしく、堂に入っている。そしてそれを組み込むヴィジュアルの完成度は終始気品に富んでいる。実はかなり凄惨なテーマを設けているにも拘わらず、グロテスクな描写はほとんどなく、間の取り方と構図によって恐怖を膨らませている。

 俳優の好演ぶりにも注目したい。本篇で主演しているのは、『リトル・ミス・サンシャイン』でさほど容姿に恵まれていないのにミスコン優勝を目指す女の子を演じて高く評価されたアビゲイル・ブレスリンである。そもそも、充分に魅力的だったにも拘わらず、微妙な容貌、というキャラクターを演じて切ってしまったのだから演技力は推して知るべし、だが本篇では極めて複雑な状況に置かれる、性格的にはごく普通の少女を自然に表現している。親に対して反発を抱き現状に不満を覚える少女、という現代にも通じる人物像だが、終盤で見せる“時代錯誤”な振る舞いが程良くユーモアになるのは、本篇が如何に時代をうまく再現し、その要求に彼女が応えていることの証だ。

 かなり早いうちに一般的なサプライズの種明かしが行われてしまい、あとはひたすら異次元の戦いになるため、「何でもありじゃないか?」という印象を抱かれる恐れがある――それは誤解なのだが、そう言っても納得しづらいのも人情だろう。また、その世界観を許容したうえでも、クライマックスがもっと派手であって然るべきでは、とか、決着が妙に美談のように描かれていることに不満を抱く可能性もある。だが、定番のモチーフを応用し、その本質を突き詰めて組み立てられた本篇は、単純なサプライズで満足出来ないホラー、スリラー愛好家はチェックしておくべき怪作だろう。

関連作品:

CUBE』/『カンパニー・マン』/『NOTHING [ナッシング]』/『スプライス

リトル・ミス・サンシャイン』/『私の中のあなた』/『ランゴ』/『SAW6』/『デビルズ・フォレスト〜悪魔の棲む森〜』/『トールマン』/『キャリー

アザーズ』/『デビルズ・バックボーン』/『スケルトン・キー』/『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』/『インシディアス』/『インシディアス 第2章

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