『マチェーテ・キルズ』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン1前に掲示されたチラシ。

原題:“Machete Kills” / 監督、撮影&特殊効果スーパーヴァイザー:ロバート・ロドリゲス / 原案:ロバート・ロドリゲス、マルセル・ロドリゲス / 脚本:カイル・ウォード / 製作:ロバート・ロドリゲス、リック・シュウォーツ、サルゲイ・ベスパロフ、アレクサンドル・ロドニャンスキー、アーロン・カウフマン、イリアナ・ニコリック / 製作総指揮:ボリス・テテレフ、ジェリー・ハウスファター、マーク・C・マニュエル、パリス・カシドコスタス・ラトシス、ラリー・ダガス、アンソニー・グダス、サム・イングルバート、ウィリアム・D・ジョンソン、アルフォンソ・バラガンJr.、ジョン・ポール・デジョリア / 編集:ロバート・ロドリゲスレベッカ・ロドリゲス / 衣装:ニナ・プロクター / キャスティング:マリー・ヴァーニュー,CSA、リンゼイ・グレアム,CSA / 音楽:カール・シール、ロバート・ロドリゲス / 出演:ダニー・トレホミシェル・ロドリゲスソフィア・ベルガラアンバー・ハードカルロス・エステベスa.k.a.チャーリー・シーン)、レディー・ガガアントニオ・バンデラスジェシカ・アルバデミアン・ビチルアレクサ・ヴェガ、ヴァネッサ・ハジェンス、キューバ・グッディングJr.、ウィリアム・サドラー、マルコ・サロール、ウォルトン・ゴギンズトム・サヴィーニメル・ギブソン / クイック・ドロー製作 / 配給:FINE FILMS

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:安本煕生 / R15+

2014年3月1日日本公開

公式サイト : http://www.finefilms.co.jp/machetekills/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/03/14)



[粗筋]

 いまや“伝説の男”となっているマチェーテ・コルテス(ダニー・トレホ)の身に悲劇が起きた。メキシコとの国境で行われていた、麻薬カルテルと軍との闇取引を阻止する任務の最中に、恋人のサルタナ(ジェシカ・アルバ)を失ったのだ。

 失意に打ちひしがれる間もなく、現地の保安官に捕らえられ、麻薬カルテルら大勢を殺したかどで処刑されかかったマチェーテを救ったのは、何とアメリカ大統領(カルロス・エステベス)であった。麻薬カルテルのもと用心棒であり、組織を裏切ったのちはクレイジーな手段で革命を試みる“マッドマン”として名を馳せるマルコス・メンデス(デミアン・ビチル)がメキシコに潜伏しているのが確認されたという。大統領は、マチェーテアメリカの市民権と前科の抹消を条件に、マルコスの暗殺を命じる。だがマチェーテはその条件よりも、麻薬カルテルに恋人を殺した仇がいる、と直感し、この依頼を引き受けた。

 国境を越えたマチェーテは、ミス・サンアントニオ(アンバー・ハード)の手引でアカプルコに赴き、マルコスの行方を知る可能性があるという女セレーサ(ヴァネッサ・ハジェンス)を訪ねる。セレーサは、過酷な生活で二重人格となったマルコスを救って欲しい、とマチェーテに懇願し、自ら進んで彼をマルコスのアジトに導いたが、狂気に触れたマルコスはセレーサを殺害、招いたマチェーテに対して、己の異常な計画をひけらかす。マルコスは自らの心臓と、弾道ミサイルのスイッチを連動させ、自分が死ぬと同時に、ワシントンが攻撃されるように仕向けたのだ。

 スイッチを解除できるのは、装着した医師と、設計した人物のふたりだけ。マルコスがその場で医師を殺害したので、残るは設計者しかいない。マチェーテに残された道は、マルコスを設計者のもとに連れていくだけだった。

 しかし実は、このマルコスの異常な計画の背後には、更に恐るべき陰謀が蠢いていたのだ――

[感想]

 作り手が何より愉しんでいるのは間違いないこのシリーズだが、しかしそれ以上に、多くのファンに望まれて生まれた、稀有な作品と言える。そのあたりの経緯について、前作の感想で既に触れているので、ここでは省く。前作までで充分に幸運な経緯を辿っていたものが、そのラストにジョークで掲げた続篇のタイトルがファンの期待を呼び、とうとう本篇に結実した。

 しかしこの展開は、監督がロバート・ロドリゲスであればこそ実現したものに違いない。他のどどの映画監督よりも極めてストレートな欲望に従って作品を撮っていた彼は、多くの作品において、何より“観客が望むもの”を提供し続けてくれた。緻密な伏線だとか、実感をもたらすようなリアリティよりも、如何に観客を驚かせ、ワクワクさせるか、に執心した作りは、賞レースや晦渋な映画を愛好するひとびとには無視されるが、嗜好がぴったりとハマったひとびとは熱狂的に受け入れる。クエンティン・タランティーノにもそうしたマニア寄りの発想で映画を撮っているが、より直情的に、そして良くも悪くも幼稚にやっているのがロバート・ロドリゲスである。本篇はまさに、そうした彼の作家性が存分に発揮された作品と言える。

 率直に言えば、筋はあまり通っていない。一連の出来事が決着してみてから振り返ると、序盤の経緯に多々、無理なところがある。マチェーテはある程度意図的に巻き込まれた印象があるのだが、そのわりには仕掛けが大雑把だ。そもそも悪党の計画自体、迂遠に過ぎるし、狙いのわりに結果的な振る舞いが行き当たりばったりだったりする。結局、作り手はその場のノリで話を作っているのではないか、と感じてしまう。

 だがしかし、本篇の面白さはまさに、“その場のノリ”で作られていることにある。場面場面の驚き、インパクト、マニアが口許を緩めてしまうような趣向を、その場の勢いに任せて次から次へと組み込んでくる。こんな面倒くさくて使い勝手の悪い趣向を本気で選ぶ奴があるか、と思うが、だからこそ非現実的な面白さが横溢している。

 男の子としてはまず、胸に装着するおっぱい型の武器に色んな意味でコーフンするところだし、もっと下らない武器を出すあたりにも歓喜してしまうが、この手の安っぽく、冷静に考えたら実用性がなく、現実的にあり得ないギミックがこれでもかこれでもか、とばかりに繰り出される。序盤でマチェーテが手渡される変な改造を施した手刀やスマートフォンになるとか、終盤で本格的に姿を見せる黒幕の用いるアイテムなど、往年のジェームズ・ボンドに憧れた子供が想像するそのまんまに近いもので、よくこれを本気で映画に出したな、と妙な感心の仕方をしてしまう。

 前述した通り、ほとんどのガジェットはその場のノリで組み込まれているようなもので、もし真面目に構成を練っているのなら伏線にしているはずの要素が、ろくすっぽ役立てられずに終わってしまう。それを稚拙さと捉えられても仕方がないが、むしろそこに籠められた、「こういうのが観たかったんだ!」というシンプルな衝動の面白さこそが本篇の魅力だろう。特に、レディー・ガガが扮するキャラクターなど、ほとんど無駄遣いと言っていいが、だからこそ贅沢で愉しい。その一方で、こんなものを伏線にするんじゃない、というのをあえて引っ張る感性も、好き嫌いは分かれるだろうが、そこを徹底しているのが天晴だ。

 実のところ、作品としては、細かなシチュエーションはロドリゲス監督作品で既出のものもある。アントニオ・バンデラスの退場の仕方は前作でも同様の趣向があったし、ミシェル・ロドリゲスが終盤で見せる立ち回りは、『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』でもやっているパターンだ。だが、だからこそロドリゲス監督の作家性を如実に感じさせる。こういう展開なら観客はきっとこういうものが欲しいだろう、或いは「俺はどーしてもこのシチュエーションでこれを見せたい!」という監督自身の願望を素直に体現しているあたりに好感を覚える――かどうかもやはり観る側の嗜好次第だろうが、少なくとも、そこに持ち込む流れが自然である、という点はさすがに巧い。基本、偏った嗜好のひとを対象に偏ったものを撮る、というタイプの監督であるのは間違いないが、そこに説得力を与える語り口の巧さこそ、彼が他の監督と一線を画する所以だろう。

 前作の結末にて、ジョークで添えた予告が煽った期待を、本篇はいい意味で裏切っていない。そして恐らく、ここまできちんとかたちにしてくれたのなら、もういちど応えてくれる――と信じたい。そう遠くない将来にもういちど、あの醜怪な面相のヒーローが帰還してくれるはずだ。そして出来るなら、本当にあの男を参加させて欲しい!

関連作品:

マチェーテ』/『グラインドハウス

エル・マリアッチ』/『デスペラード』/『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』/『フロム・ダスク・ティル・ドーン』/『シン・シティ

プレデターズ』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』/『ラム・ダイアリー』/『ウォール・ストリート』/『私が、生きる肌』/『アイズ』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『REPO! レポ』/『アメリカン・ギャングスター』/『ミスト』/『ジャンゴ 繋がれざる者』/『ランド・オブ・ザ・デッド』/『サイン

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