『サンブンノイチ』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン通路に掲示された巨大タペストリー。

原作:木下半太(角川文庫・刊) / 監督&脚本:品川ヒロシ / 製作統括:井上伸一郎、岡本昭彦 / プロデューサー:水上繁雄、仲良平/ 撮影監督:相馬大輔(J.S.C.) / 照明:三善章誉 / 美術:相馬直樹 / 編集:須永弘志 / アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太 / 監督補:西山太郎 / テーマ音楽:→Pia・no-jaC←『Triad』 / 出演:藤原竜也田中聖小杉竜一(ブラックマヨネーズ)、中島美嘉窪塚洋介池畑慎之介☆、木村了哀川翔壇蜜赤羽健一(ジューシーズ)、HG(レイザーラモン)、増田修一朗、ぼんちおさむ(ザ・ぼんち)、河本準一(次長課長)、松田大輔(東京ダイナマイト)、海原ともこ(海原やすよともこ)、庄司智春(品川庄司)、ワッキー(ペナルティ)、YASU-CHIN、ケン(水玉れっぷう隊) / 配給:KADOKAWA×吉本興業

2013年日本作品 / 上映時間:1時間59分 / PG12

2014年4月1日日本公開

公式サイト : http://www.sanbunnoichi.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/03/25) ※誰に会えるか確率1/3!?上映イベント



[粗筋]

 私、まりあ(中島美嘉は殺された。

 殺したのは清原修造、通称シュウ(藤原竜也)だ。シュウは私に向けて引き金を引いた拳銃を持ったまま、自分が雇われ店長を務めているキャバクラ“ハニーバニー”に逃げこんだ。現場に一緒にいた小島一徳、通称コジ(田中聖)、金森健、通称健さん(小杉竜一)もいる。

 3人の手が“ハニーバニー”に持ち込んだのは、ボストンバッグだ。中には1億6千万の現金が詰まっている。つい先刻、シュウたちが銀行を襲撃して強奪してきたものだった。3人はそれぞれ、金銭的に追いつめられる事情があり、シュウの呼びかけで決行に至ったわけだ。

 無事に現金を奪い、あとは分け合うだけ、のはずだった。けれどここで、3人のあいだで議論が始まる。運転手だけを務めたコジの取り分を減らす、という密談をシュウと健さんが交わしたが、そのあとでコジが暴力的な側面を顕わにし、拳銃を片手に抗議した。もともと格闘家であるコジは“ハニーバニー”でもボーイ兼用心棒を務めていたほどで、怒り出したら手がつけられない。そのために、シュウと健さんは自分の取り分を放棄して、譲歩した――という体だった。

 でも、そうじゃない。この事件には込み入った背後関係がある。とりあえず、シュウが計画に踏み出すきっかけになった、競馬場での出来事から話そうか……

[感想]

 お笑い芸人でありながら映画監督に挑む、というのは近頃さほど珍しいことではない。国際的に高く評価されている北野武ことビートたけしが代表格であることは言うまでもないが、ダウンタウン松本人志爆笑問題太田光板尾創路、のちに桂三度として落語家に転身した世界のナベアツなど、映画に思い入れのある芸人が売れっ子になるとにわかにメガフォンを取る、という傾向にあるのかも知れない。

 ただ、一作のみで終わったり、継続して挑んでいても評価が低かったり、興収的に恵まれない、といったパターンをよく聞く中で、数少ない成功を収めているのが本篇を手がけた、“品川庄司”の品川祐こと品川ヒロシ監督だ。

 ……と、紹介は出来るものの、芸人としての彼にあんまり思い入れがない私は、これまで彼の映画には接してこなかった。今回鑑賞したのは、新しい劇場のオープン直後に催された、誰が登壇するか解らない舞台挨拶、というイベントに興味を惹かれたからに過ぎなかったが――その意味では、望外の収穫、と呼べる良質の仕上がりだった。

 作中で映画好きを公言するシュウが随所で引用するように、本篇の語り口はクエンティン・タランティーノ監督の登場を契機に流行した犯罪ものの趣がある。暴力的な犯行の様子を描く一方で、過去の出来事を細かに織り込み、犯罪に背景があったことを窺わせる。『ジャッキー・ブラウン』やクリスチャン・スレーターへの言及があることからも、作り手がこうした犯罪ものを強く意識していたことは間違いない。

 こうした犯罪ものは、順番通りに事実を提示すればシンプルになってしまう事件の筋書きを、時系列をシャッフルして構成することで謎を作りだし、結末までの牽引力に昇華させているが、本篇の場合、そもそもはじめから登場人物に様々な目論見があって、それが複雑に入り乱れている。むしろ、本篇のような配置で語るほうが平明であると同時に、新しい事実が示されたときの意外性が強く表現される。原作者か、それとも脚色を担当した監督自身なのかは解らないが、恐らく前述したような犯罪映画への憧れが、その手法を必然的にするプロットを求めた結果、こういう物語になっていったのかも知れない。

 お陰で本篇のツイストっぷりと、それが生み出す牽引力の強さはただ事ではない。最初は単なる、取り分の奪い合う駆け引きで見せるのかと思いきや、次から次へと背後の事情が暴かれ、幾度も様相が変化していく。物語としての多彩な表情だけでも充分に見応えがある仕上がりだ。

 それ以上に作品に貢献しているのは、キャラクターの完成度の高さである。如何にも無能そうな3人組の造形も絶妙だが、彼らを結果的に動かすことになる“運命の女”まりあを筆頭に、“ハニーバニー”のオーナーであり哀川翔マニアのクレイジーな悪党・破魔翔(窪塚洋介)、簡単に金を貸すが取り立ても容赦のない“川崎の魔女”渋柿(池畑慎之介☆)という6人が裏で操り、或いは表に現れて事態を撹乱していく。その際の振る舞いの外連味だけでもお腹いっぱいになるほどだ。ある意味、あらゆる映画の悪党を凌駕するくらい素晴らしい才能を発揮した窪塚洋介も天晴だが、危険な匂いのする老婆をまさに“怪演”し、ところどころで作品を支配さえした池畑慎之介☆は必見とさえ言いたい。考えようによっては、誰よりも“彼女”が活躍している。

 他方で、監督がお笑いの出身だから、というのもあるのだろう、笑いを取るためのくすぐりも実に盛り沢山だ。メインの中では唯一のお笑い芸人である小杉竜一はもちろん、終始ボケ役に徹する田中聖もいい活躍ぶりだし、全篇に亘って“身体を張った”藤原竜也には本当に頭が下がる。ほか、多くのお笑い芸人たちが思いがけないところで登場し、気持ちよく笑いを取っていくあたり、何だかんだ言われつつも監督がお笑いに対して強い思い入れを抱き、仲間たちを活かそうとしていることが窺えて快い。

 全篇、一貫してテンポが良く、時間を意識する間もなくクライマックスへ――というより、ほぼ全篇、緩急をつけつつも盛り上がり続けるような仕上がりで、退屈という言葉とはまったく縁がない。そのくせ、前述したような犯罪映画への憧れを顕わにするスタッフらしく、一筋縄で行かない決着もいい。

 難点を挙げるとすれば、あまりに騙しや逆転にこだわりすぎるあまり、観ているあいだは感じないものの、冷静に検証すると裏読みが激しすぎて現実的に成立困難な計画になっている、という点だが、そういう指摘はヤボだろう。ここまで徹底して登場人物もろとも観客を翻弄し、“面白い映画を観た”という満足度を与えてくれるのだから、充分だ。

 もし、お笑い芸人が余技で撮った作品、と侮って本篇をチェックしていないひとがいるなら、はっきりと「損してますよ」と申し上げたい。日本では珍しい、歯応えのある犯罪映画の秀作を、そういう理由で観逃すのはあまりに勿体ない。

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