『サード・パーソン』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン5入口に掲示されたチラシ。

原題:“Third Person” / 監督&脚本:ポール・ハギス / 製作:ポール・ブルールズ、ポール・ハギス、マイケル・ノジック / 撮影監督:ジャン・フィリッポ・コルティチェッリ / プロダクション・デザイナー:ローレンス・ベネット / 編集:ジョー・フランシス / 衣装:ソヌ・ミシュラ / 音楽:ダリオ・マリアネッリ / 出演:リーアム・ニーソンミラ・クニスジェームズ・フランコオリヴィア・ワイルドエイドリアン・ブロディキム・ベイシンガーマリア・ベロ、モラン・アティアス、デヴィッド・ヘアウッド、ロアン・シャバノル、オリヴァー・クラウチ / 配給:Presidio×東京テアトル

2013年イギリス、アメリカ、ドイツ、ベルギー合作 / 上映時間:2時間17分 / 日本語字幕:小森亜貴子

2014年6月20日日本公開

公式サイト : http://third-person.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/06/20)



[粗筋]

 処女作でピューリッツァー賞を獲得したマイケル(リーアム・ニーソン)は、パリのホテルに滞在し、新作の執筆に勤しんでいた。芸能雑誌の記者であり、自らも作家志願である恋人のアンナ(オリヴィア・ワイルド)もやって来て、傍目には華やかで充実した暮らしを送るマイケルだが、しかしその心の中は苦渋に満たされていた……。

 ファッション・デザインの情報を得るためにはるばるローマまで赴いていたスコット(エイドリアン・ブロディ)は首尾よく仕事を片付けたあと、何気なく訪ねた場末のバーで、妙なトラブルに巻き込まれた。しばし言葉を交わしたロマ族の女モニカ(ロラン・アティアス)が置き忘れていった荷物に気づいたために、やがて回収しにやって来た彼女に「金を盗んだ」という疑いをかけられたのだ。しかもその金は、娘を攫った男に支払うために用意した金なのだ、という……。

 もともとはメロドラマで主要人物を演じるほどの女優だったジュリア(ミラ・クニス)がようやく見つけた仕事は、ホテルの客室係だった。息子を事故で危うく死なせるところだった、という嫌疑がかけられ、別れた夫リック(ジェームズ・フランコ)との親権争いのために莫大な裁判費用を用意しなければならなかったジュリアは、食うにも困るところまで追いつめられていたのである。担当弁護士のテレサ(マリア・ベロ)は、せめて調停を有利に進めるために、再度の精神鑑定を受けるようにジュリアに勧める……。

[感想]

 ネタばらしなしで語る、というのがそもそも非常に難しい作品である――この書き方でさえ、別の言い方が出来ないものか、としばし首をひねったほどだ。

 とりあえず言えるのは、この発想は如何にも脚本家らしい、ということだろう。演出畑やカメラマン畑から監督になったひと、俳優から転向したひと、でも考えられないわけではなかろうが、ここまで趣向を徹底させるのは、何よりも観客に“情報”を提供することを考慮し、それが観客に喚起するものをある程度まで狙える作り手ならではだ。

 ただ、本篇はその徹底ぶりがいささか過剰に過ぎた感がある。複数の場所、複数の視点で綴られる出来事はなかなか絡みあうことがなく、こうした作品に馴染んでいるひとはいずれ何らかのかたちで連携していくことを期待し、集中して鑑賞することは出来るだろうが、そうでないひとには序盤1時間ほどがいささかしんどいかも知れない。なにせ、どういう話が展開しているのかなかなか解らないのだから。1時間ほど経って初めて、奇妙なリンクをちらつかせるが、それは驚きと共に違和感をももたらすはずである。それが関心に繋がればまだしも、違和感ばかりが膨らむと、そのあとはなかなか乗れなくなるかも知れない。まして、細部にさほどこだわらずに観るひとなら、もうこの辺りで退屈していることだろう。その山を越えたとしても、本篇の結末は果たして苦労に報いてくれるかどうか。

 実のところ、監督自身、本篇については「明確な答を用意していない」と言っているらしい。実際、大きな仕掛けはあるが、むしろ本篇の勘所は、その仕掛けが仄めかす全体像の深遠さだ。あれが決着なら、ではあの描写はどんな意味があったのか? このエピソードはいったい何を象徴していたのか? 確かにそれらには明確な答は提示されず、恐らく無数の解釈が考えられる。だから、積極的に描写や細部の伏線に目を配って鑑賞し、それを解釈しながら観るような姿勢を持たないと、恐らく退屈だろうし、観終わってもスッキリしないはずだ。

 故に、内容を考察し、掘り下げて鑑賞するようなひとには極めて興味深い作品である、と言えるのだが、ただそれでも不満は残る。大元となる発想が主体になりすぎて、周辺の出来事や感情をきちんと描いているにも拘わらず、添え物のような印象を受けてしまう。観るひとがとことん意識的に考察を施すつもりであればともかく、そういう穿った見方を、関心のなかったひとにまで促すような力には乏しい。

 とはいえ、本篇がよく考えられ、前のめりに物語を吟味しようとする観客にとっては非常に歯応えのある作品であることは間違いない。出番の多寡に拘わらず、作品を彩る名優達が、決してストレートには伝わりにくい登場人物たちの心情に厚みを加え、余計に物語の解釈を複雑なものにしている。オリヴィア・ワイルドが意外なほど大胆な場面に挑んでいるが、それすら勘繰りたくなるほどである――事実、私の見方では、彼女のああしたどこか突飛な行動にも意味がある。

 読み取り方が多彩、という意味では間違いなく見応えがある。ただ、そのうえで確実に理解できる、評価出来る、とは言い難いところが厄介だ。驚きを味わうのではなく、細かに埋め込まれた要素を汲み取り、自分なりにああでもない、こうでもないと解釈を転がすことから楽しみ、観終わったあともその世界に戯れるつもりで臨むべき作品だろう。

関連作品:

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96時間 リベンジ』/『オズ はじまりの戦い』/『ラッシュ/プライドと友情』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『あの日、欲望の大地で』/『プリズナーズ』/『サスペリア・テルザ―最後の魔女―』/『ブラッド・ダイヤモンド

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