『LUCY/ルーシー(字幕・TCX)』

TOHOシネマズ日本橋、通路脇に掲示された巨大タペストリー。人通りを気にしながら撮ったので上が欠けたのしかなかった。

原題:“Lucy” / 監督&脚本:リュック・ベッソン / 製作:ヴィルジニー・ベッソン=シラ / 製作総指揮:マーク・シュミーガー / 撮影監督:ティエリー・アルボガスト / プロダクション・デザイナー:ユーグ・ティサンディエ / 編集:ジュリアン・レイ / 衣装:オリヴィエ・ベリオ / キャスティング:ナタリー・シェロン / 音楽:エリック・セラ / 出演:スカーレット・ヨハンソンモーガン・フリーマンチェ・ミンシク、アムール・ワケド、アナリー・ティプトン、ジュリアン・リンド=タット、ピルー・アスペック / ヨーロッパ・コープ製作 / 配給:東宝東和

2014年フランス作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

2014年8月29日日本公開

公式サイト : http://lucymovie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/08/29)



[粗筋]

 ルーシー(スカーレット・ヨハンソン)の災難は、留学先の台湾で、リチャード(ピルー・アスベック)という男と出逢ったことに始まった。

 出逢って一週間後、リチャードは自分に代わってブリーフケースを届けて欲しい、とルーシーに懇願した。ルーシーは拒絶するが、リチャードはブリーフケースと彼女の手首を手錠で繋ぎ、無理矢理に送りこむ。不安におののくルーシーの目の前で、リチャードは殺害され、恐慌に陥ったまま彼女はマフィアのボス(チェ・ミンシク)の許に引き出された。

 ブリーフケースの中身は、青い粉末状の薬品だった。それを確かめたボスは、更に頼みたいことがある、とルーシーを昏倒させる。目醒めたとき、ルーシーの腹部は包帯が巻かれ、血が滲んでいた。マフィアたちは彼女をはじめとする数人の人物に、腹部に粉末を詰めたバッグを埋め込んだ、と告げ、そのままでそれぞれの郷里に帰るよう命じる。

 だが、次にルーシーが目醒めたとき、中国人たちに囲まれていた。男達はルーシーに暴行を加え、腹を蹴られた拍子に、皮膚の下に隠されたバッグが破裂し、体内に流出する。ほんの僅かに粉末を摂取した男の末路を目撃したルーシーは恐懼し、全身を襲う衝撃に悶絶した――

 数分後、ルーシーは冷静を取り戻す。やがて現れた男を誘惑するふりをしてあっさりと叩きのめすと、自分を拉致した中国人たちを抹殺し、その荷物を奪って脱出する。

 青い粉末は、間違いなくルーシーの命を蝕んでいた。だがそれと同時に、彼女の頭脳を、人類が達したことのない領域へと導きつつあった――

[感想]

 公開前、ちらほらと目にした評を、ごく大雑把に要約すれば、「リュック・ベッソン、勘違いしすぎ」というものだった。

 私自身は、本篇をけっこう愉しく鑑賞出来たのだが、それでもごく冷静に判断する限り、これは“トンデモSF”ぐらいに呼ぶしかない。よく言えば予測不能、悪く言えば強引でハチャメチャな展開に彩られた作品なのである。

 予告篇の印象では、最近『アベンジャーズ』サーガにおける〈ブラック・ウィドウ〉のイメージが色濃いスカーレット・ヨハンソンが現実離れした活躍を繰り広げるアクション、という趣なのだが、実際にはそうした場面はさほど多くない。早い段階で頭脳が人智を絶した活動を始めて、序盤から人間離れした行動で敵を制圧してしまうので、アクションは予想するよりは控えめだ――とは言い条、そこはフランス映画のイメージを一新させたリュック・ベッソン監督らしく、アクションシーンはユニークな趣向に彩られているし、パリの街を舞台に、反対車線の逆走や舗道の走行、といった過激なカースタントも盛り込まれていて、ちゃんとある程度、期待には応えている。

 しかし、話が進むにつれ、ルーシーの起こす騒動はどんどん非人間的なものに変質していき、現象も物理を無視したトンデモないものになっていく。普通に考えれば、頭脳が無駄を排して機能するようになったとしても、人間の肉体、物理的接触が可能な範囲を逸脱して影響を及ぼすことは不可能なはずで、他人の意識や記憶にアクセスするくらいはまだしも、あんな風に物質をコントロールする、なんてのは無理がありすぎる。それが大前提で話が進むものだから、ここで理解できない、拒絶反応を起こしてしまうと、もう一切受け付けようがなくなる。

 だから本篇は、これはリュック・ベッソン独特の感性で裏打ちされたSFなのだ、という前提で鑑賞したほうがいい。リュック・ベッソンが製作した諸作に接してきたひとならそれだけでピンと来るものはあるはずだし、もし彼の作品にまったく接したことがなくても、ここまでの表現で惹かれたのなら観てもいいだろう――想像以上に話が明後日に転がっていって唖然とするかも知れないが、それもまた一興。

 ぶっちゃけ、同じようなテーマなら過去に幾つも名作があるし、本篇における大きな趣向のひとつはつい先日に日本でも公開された『トランセンデンス』がより洗練された、深遠なかたちで物語を構築しているので、本篇に納得がいかないならあっちを鑑賞したほうがいい――モーガン・フリーマンだってほとんど同じような役回りで、もっと複雑に立ち回っている。

 ただ、少しぶっとんだSFは観たいけれど、あまり持って回った理屈に接するのは面倒だし、派手なアクションや外連味はあったほうがいい、というひとなら、本篇は愉しめるはずである。とりわけ、スカーレット・ヨハンソン演じるタイトル・ロールの序盤におけるごく平凡な若い女性の佇まいから、一瞬にして人間性を超越した姿の振り幅の広さと、そんな彼女が軸として繰り広げられる奇想天外なヴィジュアルの数々はなかなか見応えがある。何だかんだ言いつつ、フランスから始まり国際的に活躍するようになったリュック・ベッソン監督の画面作りや見せ場の組み立ては巧みで、「なんだこりゃ」と呆気に取られつつも惹きつけられてしまうのも確かなのだ。

 主題はわりと有り体だし、同じ趣向でもよく出来た作品は思い浮かぶ。だが、そういう趣向をこの豪華なキャストと優れたヴィジュアルで、こんな風にまとめてしまえるのも一種の才能だろう。リュック・ベッソン監督ならでは、の怪作である。

関連作品:

アンジェラ』/『クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち

アベンジャーズ』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ヒッチコック』/『グランド・イリュージョン』/『オールド・ボーイ』/『砂漠でサーモン・フィッシング』/『ウォーム・ボディーズ』/『ラッシュ/プライドと友情

2001年宇宙の旅』/『ツリー・オブ・ライフ』/『トランセンデンス

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