『フルスロットル』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン6前に掲示されたポスター。

原題:“Brick Mansions” / 監督:カミーユ・ドゥラマーレ / オリジナル脚本:リュック・ベッソン、ビビ・ナセリ / 脚本:リュック・ベッソン / 製作:クロード・レジェ、ジョナサン・ヴァンガー / 製作総指揮:マット・アルヴァレス、ロミュアルド・ドゥロー / 撮影監督:クリストフ・コレット / プロダクション・デザイナー:ジャン・キャリエール / 編集:カルロ・リッツォ、アルチュール・タルノウスキ / 衣装:ユーリア・パトコーシュ / 音楽:マルク・ベル / 音楽コンサルタント:アレクサンドル・アザリア / 出演:ポール・ウォーカーダヴィッド・ベル、RZA、カタリーナ・ドゥニ、グーチー・ボーイ、アイーシャ・イッサ、カルロ・ロタ、リチャード・ジーマン、ロバート・メイレット、ブルース・ラムゼイ、フランク・フォンテイン / 配給:Asmik Ace

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:松崎広

2014年9月6日日本公開

公式サイト : http://0-g.asmik-ace.co.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2014/09/30)



[粗筋]

 デトロイト貧困層が暮らすブリック・マンションの立ち並ぶ一画は、度重なる重大事件をきっかけに、周囲を壁で囲われ常に監視を受ける区域となった。結果、職にあぶれた人々は、ドラッグに溺れるか、密売人としてトレメイン・アレキサンダー(RZA)のもとで働くしかない。

 住民のひとりで気骨のある正義漢リノ(ダヴィッド・ベル)だけはトレメインに反抗を続けていた。K2(グーチー・ボーイ)が移送するはずだった麻薬を奪い、廃棄して彼らの仕事を妨害する。これに憤ったトレメインは、K2やレイザー(アイーシャ・イッサ)らに命じてリノの元恋人ローラ(カタリーナ・ドゥニ)を拉致、彼女を人質にリノをおびき出そうとした。リノは巧みにトレメインらを翻弄し、ローラを奪還したかに見えたが、トレメインと癒着していたガードによって取り押さえられてしまう。リノはガードの隊長を殺害、刑務所送りにされてしまう。

 同じ頃、警察の潜入捜査官として目覚ましい活躍をしていたダミアン・コリアー(ポール・ウォーカー)が、ブリック・マンションへの潜入を命じられる。市長(ブルース・ラムゼイ)らによれば、極めて破壊力の高い爆弾が輸送中にK2らの襲撃により奪われてしまい、タイマーが作動してしまったのだという。ダミアンの任務は、タイムリミット前に解除コードを入力し、爆発を回避すること。

 市長らは内部に通じる者としてリノを推薦、ダミアンは同じ護送車によって別の施設に移送される囚人を装ってリノと接触し、彼を伴って脱走を図る。だが、妙に勘の鋭いリノはダミアンが警官だと簡単に看破してしまった――

[感想]

 フランスで誕生した、路上パフォーマンスの性質を持つスポーツ“パルクール”は、既に映画界ではスタント技術のひとつとして地位を確立した感がある。もともとジャッキー・チェンが披露していたアクションをベースにしている節があるから当然の話とも言えるが、『007』シリーズを筆頭に、様々なアクション映画に採り入れられている。

 その走りとなったのは、リュック・ベッソン製作によるフランス映画『YAMAKASI』であり、そのラインを踏襲した『アルティメット』『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ』の3作品であった。本篇は後者の、壁で封鎖された一画を舞台にしたシリーズを、アメリカに舞台を移してリメイクした作品である。

 アメリカでも特に貧困などの問題が如実なデトロイトを舞台に設定することで、オリジナルの『アルティメット』の空気感をうまく移植するのと同時に、オリジナルにも出演していた、パルクール創始者のひとりであるダヴィッド・ベルを残す一方で、もうひとりの主人公にパルクール未経験のポール・ウォーカーを据えることで、オリジナルではあまり意識されなかった、パルクールという技術の難易度の高さが窺えるようにするなど、オリジナルの持ち味を尊重しながら欠点を補完するような構想になっている点は評価したいところだ。

 ただ残念ながら、それでオリジナルより面白くなっているか、魅力的になったか、と問われると、どちらにも「否」と返すしかない。

 舞台のチョイスは正しいと言えるし、ストーリーをオリジナルからあまり派手にいじっていないのも間違った判断ではない。だが問題は、わざわざポール・ウォーカーという“動ける”俳優を起用したがために、パルクールの魅力を見せることに失敗してしまっている点である。

 ポール・ウォーカーはアクション映画によく出演し、肉弾戦でも存在感を発揮するが、『ワイルド・スピード』シリーズのイメージが強く、プライヴェートでも自動車を愛好していたことから、やはりカー・アクションのほうが似合う。本篇においてもそのイメージを尊重し、カー・スタントを多く採り入れていて、それはそれでクオリティはしっかりとしていて見応えはあるのだが、そこに尺を割いた結果、肝心のパルクールの見せ場がかなり減ってしまった。ダヴィッド・ベルの技は鮮やかで、画面が小さく感じるほどの躍動感に富んでいるが、オリジナルではメインふたりが並行して見せていたぶんだけヴォリュームも豊かだったのに対し、本篇はダヴィッド・ベルだけが気を吐いている状態だ。だからこそ彼がヒーローらしく見えているのも事実だが、変にポール・ウォーカーと見せ場を分け合ってしまったために物足りなさが禁じ得ない。ダヴィッド・ベル演じるリノの常識離れしたアクロバットに、付き合わされるダミアンが微妙に醜態を見せる、というくだりは楽しい一方で、別の荒技は同時にこなしているから、ちぐはぐな印象も与えてしまっている。

 そして最大の難点は、カタルシスの演出に失敗していることだ。本篇の出来事には裏があるのだが、それを受けて生じる人物関係の変化やエピローグの展開が、どうもあっさりとは腑に落ちない。あそこで簡単に翻心するものなのか、そしてエピローグにおいてああいう行動が簡単に許容されるのか。極端な変化自体が楽しい、という見方もあろうが、それを納得させるための布石は最低限用意されてしかるべきだろう。まして本篇は、ディストピア・テーマのSFのような側面もあるが、それらはあくまでアクションを主体とする娯楽映画なのだ。観る側にモヤモヤした気分を残すような要素はそもそも不要ではなかったか。盛り込むにしても、それが後味を快くする工夫は必要だったはずである。

 ダヴィッド・ベルが中心となったフィジカル・アクションも、ポール・ウォーカーを軸とするカー・アクションも、それ自体は悪くないのに、どうも焦点がぼけて迫力が伝わりづらい映像が少なからずあるのも引っかかる。構図や編集のテンポは悪くないと思うが、それが本篇の本来の売りであるはずのアクションを綺麗に活かせていないのは残念だ。

 本篇は、事故により若くして亡くなったポール・ウォーカーが生前に撮り終えた最期の主演作品である。パルクールの部分では噛ませ犬のような扱いだったが、それでも肉弾戦にきちんと加わり、彼の本領であるカー・アクションもきっちり採り入れられているのは嬉しい――嬉しいけれど、出来映えがいまひとつ、というのがとにかく惜しまれる。

関連作品:

YAMAKASI』/『アルティメット』/『アルティメット2 マッスル・ネバー・ダイ

トランスポーター3 アンリミテッド』/『96時間 リベンジ

逃走車』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』/『バビロン A.D.』/『スリーデイズ

007/カジノ・ロワイヤル』/『ダイ・ハード4.0

コメント

  1. […] 関連作品: 『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』/『リミッツ・オブ・コントロール』 […]

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