『プロミスト・ランド』

TOHOシネマズシャンテ、施設外壁の看板。

原題:“Promised Land” / 原作:デイヴ・エッガース / 監督:ガス・ヴァン・サント / 脚本:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー / 製作:マット・デイモン、ジョン・クラシンスキー、クリス・ムーア / 製作総指揮:ジョナサン・キング、ロン・シュミット、ジェフ・スコール、ガス・ヴァン・サント / 共同製作:マイク・サブローン、ドリュー・ヴィントン / 撮影監督:ライナス・サンドグレン / プロダクション・デザイナー:ダニエル・B・クランシー / 編集:ビリー・リッチ / 衣装:ジュリエット・ポルクサ / キャスティング:フランシーヌ・メイスラー / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:マット・デイモンフランシス・マクドーマンドローズマリー・デウィット、ハル・ホルブルック、ジョン・クラシンスキー / 配給:kino films

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:石田泰子

2014年8月22日日本公開

公式サイト : http://www.promised-land.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2014/10/10)



[粗筋]

 大手エネルギー開発企業で幹部候補生として勤務し、必要な土地の確保に東奔西走するスティーヴ(マット・デイモン)が新たな資源採掘の舞台として赴いたのは、マッキンリーという農場以外に何もないような街だった。

 仕事のパートナーであるスー(フランシス・マクドーマンド)と共に、既に一部の農場主とは接触し、順調に買収が進みそうな手応えを感じていたが、しかし住人相手に催した説明会で、予想外の敵に遭遇する。一介の高校教師である、というその男フランク(ハル・ホルブルック)は、会社が主に用いている資源採掘法が土壌を汚染する危険の高いことを的確に指摘し、会場の雰囲気を一変させてしまった。

 そこへ更に、環境運動家を名乗るダスティン(ジョン・クラシンスキー)が現れてひとびとに積極的なアプローチを開始、街には開発に対する疑念が渦巻き始める。いつにない苦戦を強いられたスティーヴは、街のひとびととの交流と理解を深めるために、策を練るのだが……

[感想]

 ガス・ヴァン・サント監督とマット・デイモン主演&脚本、と言えば、名作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のコンビである。その後も幾度か仕事を共にしているようだが、本篇は現時点で最新のコラボレーション作品である。

 何度もともに仕事をしていること自体がいい証拠だろうが、どうやらこの2人は作り手としての相性がいい。『グッド・ウィル・ハンティング』ほど評価は得られなかったものの、本作は奥行きのある、味わい深い1本となっている。

 題材は資源開発事業と自然破壊……と、ステレオタイプに表現してしまいそうになるが、本篇はそれほど単純ではない。こういうテーマで話を作れ、と言われたら、普通は環境を破壊される側か、たまたま関わった第三者を選ぶだろうが、本篇は視点人物の立ち位置が開発を行う企業の中にある。しかも、開発の意義を説いて土地を買収する交渉人であり、つまり開発を“悪”とするなら、まず矢面に立つ仕事だ。ある意味、問題を取り沙汰するうえで、誰よりも開発の影響を目撃しそうな業務であり、こうしたテーマを描く上で適した視点人物、と言えるかも知れない。

 しかし、そうして“環境を破壊する側に与していた人物が改悛する物語”と、解りやすく捉えるのも可能な内容だが、しかしそれでは腑に落ちない、と感じるひともいるはずだ。

 何故なら、本篇では土地買収に躍起になる企業の姿は描かれているが、開発によって発生する環境への影響は明確に描かれていない。作中、登場人物によって、他の土地で行われる資源開発の際に影響が及んだことが指摘されて主人公が反論出来なくなる場面があるが、その弊害がきちんと映像として見せられているわけではないし、実際に同様の問題が発生するかどうかもはっきりさせていない。このあたりは最後まで不明瞭なままであり、環境保護を主張したいにしてはパンチ不足、違った観点からしても本篇の描き方は環境問題をどう見せたいのかはっきりしない。こう考えていくと、本篇は題材の掘り下げに難あり、と評さざるを得なくなる。

 だが実は、この曖昧さこそが本篇の肝要な点ではないか、と私は捉えた。“環境問題”を考えるうえで、時として雑音になってしまう部分をあえて具体的に描かないことで、観客自身の思考、立ち位置を表面化させようと試みているのだ。

 物語の流れや決着がそうであるように、本篇は開発に対して否定的に描いているように取れるが、ことはそれほど単純ではない。作中、スティーヴが住民を説得するために挙げる、教育や産業の問題は、寂れた街に暮らす限りつきまとう問題である。土地を汚さずに生活していく、という理想を貫いた結果、生活していくための資金を失う、ということになれば元も子もない。無論、それ自体が有限であり、埋蔵量に疑問のある資源採掘に賭けた結果、より悲惨な末路を辿ることも充分に考えられる。どちらも最悪を想定したものだが、慎重に慎重を重ねればそこまで考慮する必要があり、そしてそこにはどうしても袋小路がある。抜け出すには、別の抜け道を示さねばならないが、だが反面、奇想天外な解決法を提示して「これで問題なし!」などと謳うのも到底フェアではない。

 だから本篇は、物語としては、経験を踏まえて、“環境問題”や“資源開発”に対しどのようなスタンスを取るか、に改めて向き直った男性について決着を出しているに過ぎない。それをどう、正しい判断だったと感銘を受けるか、情に流されて判断を誤ったと嘆くか、は観ているひと次第、に必然的になってしまう。どちらかの観点に寄りすぎて語ろうとすると非常に浅く感じられてしまうかも知れないが、意識的に双方から眺めると、示唆するものが多く、奥行きに富んだ作りなのである。

 ……正直なところ、これは私が少々読み過ぎているのかも知れない。作り手の意図はもっとシンプルなところにあるのかも知れないが、仮にそうだとしても、ここまで読み解けるのは作り手が題材に対して真摯であればこそだろう。『グッド・ウィル・ハンティング』に窺えた知性と優しさは、本篇でもちゃんと息づきながら、単純な感動のドラマに終わらせない奥行きを齎している。

関連作品:

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち

エレファント』/『ミルク』/『それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60周年記念製作映画〜

コンテイジョン』/『幸せへのキセキ』/『エリジウム』/『かけひきは、恋のはじまり』/『イントゥ・ザ・ワイルド』/『リンカーン』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『ムーンライズ・キングダム

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