『Booth ブース』

テアトル新宿で開催された、一夜限りの『鬼談百景』オールナイトのイベント風景……作品に直接関連する写真を撮ってなかったので。 ブース/booth [DVD]

監督&脚本:中村義洋 / 企画:小林智浩、南條昭夫 / 製作:小松賢志、迫田真司 / 製作総指揮:古谷文明、尾越浩文 / 撮影:川村明弘 / 照明:舟橋正生 / 編集:松尾浩 / スタイリスト:棚橋公子 / メイク:清水博子 / 音楽プロデューサー:仲西匡 / 出演:佐藤隆太小島聖池内万作芦川誠浅野麻衣子、三浦誠己、高橋真唯、前田昌明、須永慶松村明 / 制作プロダクション:アットムービー・ジャパン / 配給:日本出版販売×スローラーナー / 映像ソフト発売元:日本出版販売

2005年日本作品 / 上映時間:1時間13分

2005年11月5日日本公開

2006年4月5日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

テアトル新宿にて初見(2016/01/24) ※一夜限りの『鬼談百景』オールナイトの1本として上映



[粗筋]

 深夜0時から放送されている人気のラジオ番組『東京ラブコレクション』のパーソナリティ、勝又真吾(佐藤隆太)は少し遅れ気味にスタジオ入りした。

 だが、普段使用するスタジオに人の姿はない。呼びに来たスタッフの話では、ラジオ局が引っ越しのために、従来のスタジオは使用できず、閉鎖されていた地下の第6スタジオを代わりに使用するのだという。古い設備に勝又は不安を覚えるが、場所を移すこともなく、そのスタジオで放送を開始する。

 今回のメールテーマは“許せないひと言”。番組は選ばれたリスナーと電話を繋げて、勝又が直接相談に応えるコーナーが中心となって進行する。

 だが、最初に繋いだ電話から、異変は始まった。幼い投稿者が傷ついたという、好きな相手からの心ないひと言について話を聞いていると、音声に奇妙なノイズが紛れ込んだ。声は大人の女に変わり、勝又の問いかけに「嘘つき」と返す。程なくノイズは途切れ、もとの投稿者の声が聞こえてきたが、勝又は不快感を覚える。

 この出来事は思わぬ反響を呼び、本来のテーマではなく、ノイズについてのメールが大量に舞い込み始める。スタッフは興奮し、急遽怪奇特集に切り替えることを提案するが、勝又はそれをはねつけて、恋愛相談のみで番組を進行するように命じる。

 勝又の横柄な態度に、スタッフはあからさまな反感を示した。それでも頑なに“恋愛”というテーマにこだわる勝又だったが、次第に、一連の出来事に秘められた自分への“悪意”を感じ始め、挙動不審になっていく。

 このスタジオでいったい何が起きているのか。そして番組は,無事に終了に漕ぎ着けられるのだろうか……?

[感想]

 伊坂幸太郎作品の映画化を中心に活躍し、いまや日本でも屈指の娯楽映画の作り手となった感のある中村義洋監督だが、彼がその名を最初に知られるきっかけとなったのは、一般投稿者から寄せられた異様な映像を紹介する怪奇ドキュメンタリー『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズであり、初期はそれを踏まえてホラー作品に携わることが多かった。本篇はそんな中村監督の、初期作品のひとつである。

 近年は原作ものが中心だが、もともとは脚本を手懸けており、本篇などは中村監督の完全オリジナルだ。そういう意味でも今となっては貴重だが、本篇の仕上がりを見るにつけ、オリジナル作品が少ないことが惜しまれるくらい、創意と工夫に満ちた作り手であることが窺える。

 呪われたスタジオ、というアイディアは決して珍しいものではない。実際、放送の世界ではそういう妙な噂が残るスタジオが存在している。故に,とっかかりは凡庸に見えるのだが、しかし本篇、そこからの広げ方が唸るほどに巧い。

 ポイントは、怪奇現象を織り込みつつも、基本的に作中の生放送はずっと続けられていることだ。怪奇現象は気になるが放送は続けなければならない、しかも主人公の勝又には他の気懸かりまで浮上して、次第に放送どころですらなくなっていく。怪奇現象の出所、主人公が対峙すべきものの正体はなかなか明瞭にならないが、そのことがサスペンスを生み出し、基本的に密室で繰り広げられているにも拘わらず物語に動きが豊かだ。

 率直に言えば、ホラーらしい怖さがあるわけではない。怪奇現象の表現にリアリティはあるが、観ている側が恐怖を味わうことは(臆病なたちでもない限り)まずないだろう。だが、“怪奇現象を物語の軸にする”という趣向として捉えれば、本篇はほとんど完璧と言ってもいいくらいに洗練されている。

 そもそも、恐怖を演出していくとしまいに笑いに結びついてしまう、というのは案外珍しくないのだが、本篇はそれを意識的に実現させている、とも取れる。終盤のシチュエーションは、当事者にとっては笑い事ではないだろうが、傍目にはファルスそのもの、と言える様相を呈していくのは、ひたすらに当事者を追い込む事実を蓄積していった結果だろう。個々のシチュエーションはホラーそのものだが、蓄積の結果として笑いを生んでしまっているのだから、たとえ観ている側の恐怖は微妙でも、本篇はれっきとした、そして強度の高いホラー映画と呼んで差し支えはあるまい。

 観終わって感心するのは、これほど様々な出来事を積み重ねながら、本質はとてもシンプルであり、それをきちんと練られた伏線によって複雑に思わせ、シチュエーションとしての効果を強めていることだ。たぶん、いちばん大元となっている出来事だけを単純に提示したら、これほど面白い作品にはならなかっただろう。

 中村義洋監督が本格的にその知名度を上げていくのは本篇のあと、『アヒルと鴨のコインロッカー』あたりからだが、その実力は本篇で既に存分に示されていたようだ――公開当時、機会がなく劇場で観ることが適わなかったのがちょっと悔やまれる。

関連作品:

アヒルと鴨のコインロッカー』/『白ゆき姫殺人事件』/『ラストシーン

さよなら、、クロ』/『タナカヒロシのすべて』/『犬神家の一族(2006)』/『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』/『「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭』/『アナザー Another』/『妖怪大戦争』/『歌謡曲だよ、人生は

恐怖のメロディ』/『フォーン・ブース』/『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』/『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE2』/『ほんとにあった!呪いのビデオ リング編』/『ほんとにあった!呪いのビデオ55

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