『アナベル 死霊館の人形』

新宿ピカデリー、スクリーン5入口に表示されたキーヴィジュアル。

原題:“Annabelle” / 監督:ジョン・R・レオネッティ / 脚本:ゲイリー・ドーベルマン / 製作:ピーター・サフランジェームズ・ワン / 製作総指揮:リチャード・ブレナー、ウォルター・ハマダ、デイヴ・ノイスタッター、ハンス・リッター / 撮影監督:ジェームズ・クニースト / プロダクション・デザイナー:ボブ・ジームビッキ / 編集:トム・エルキンス / 衣装:ジャネット・イングラム / キャスティング:ローレン・ベース、ジョーダン・ベース / 音楽&出演:ジョセフ・ビシャラ / 出演:アナベル・ウォーリス、ウォード・ホートン、アルフレ・ウッダード、トニー・アメンドーラ、ケリー・オマリー、ブライアン・ホー、エリック・ラディン、イヴァル・ブロガー、ガブリエル・ベイトマン / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:佐藤真紀 / PG12

2015年2月28日日本公開

2015年12月16日映像ソフト日本最新盤発売 [ブルーレイ&DVDセット:amazon|DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.annabellemovie.jp/

新宿ピカデリーにて初見(2015/02/28)



[粗筋]

 チャールズ・マンソンを首謀者とした狂信的な殺人事件が世間を騒がせた、

 カリフォルニア州サンタモニカ。若い医学生のジョン(ウォード・ホートン)と妻のミア(アナベル・ウォーリス)は、待望の子供を授かった。ジョンは苦難の多い研修医になることの不安に苛まれ、ミアも出産前ゆえの憂鬱に悩まされている。

 妻を元気づけるために、彼女が前々から欲しがっていた人形を探してプレゼントした晩、事件が起きた。隣家から聞こえてきた悲鳴に目醒め、ジョンが様子を見に行っているあいだに、ミアたちの家にひと組の男女が侵入、ミアに襲いかかった。ミアは大きくなったお腹にナイフを突き立てられたが、通報を受けて駆けつけた警察によって男は射殺、女は自らの喉を切って自害する。

 隣家の失踪した娘・アナベルがカルト信仰に傾倒、悪魔に対する忠誠を示すための儀式を行おうとしていた、というのが警察の辿り着いた結論だった。幸いにミアの傷は浅く、羊膜まで届かなかったため胎児にも問題はなかったが、夫婦はいっそう不安に満ちた生活を余儀なくされる。

 ジョンが会議のために出張しているあいだに火災が発生する、という更なるトラブルにも見舞われたが、その合間にミアは無事出産した。ジョンの研修先が決まったこともあり、夫婦は海から少し離れたパサデナへと転居し、心機一転を図るのだった。

 だが、ミアは次第に気づき始めていた――一連の異変の背後に、不気味な影が揺蕩っていることを……。

[感想]

 本篇は、ホラー映画として記録的なヒットを遂げたジェームズ・ワン監督による『死霊館』のなかで登場する不気味な人形・アナベルの背景を描いたスピンオフ作品である。

死霊館』が、超常現象を調査・究明していたウォーレン夫妻の報告をベースにしたものだったが、本篇もまたやはりウォーレン夫妻による、彼らが保管し『死霊館』の事件にも大きく関わった“アナベル”と名付けられた人形にまつわる出来事をベースとしている。

 しかし、本篇の醸し出すリアルな手触りは、実話がベースだから、という理由だけではないだろう。ポイントは、たとえ題材がオカルト、超自然的なものであっても、裏打ちをし、筋を通す、ということにある。

 この物語の背景は1960年代、“悪魔信仰”というものが広く知れ渡った時代だ。折しもチャールズ・マンソンらによる猟奇的犯行が世間を震撼させていることが作中でも描かれ、カルトへの恐怖を煽られていた時分でもある。その恐怖を巧みに導入として用いているから、時代のムードと併せて、現実と地続きになっている雰囲気を強く醸し出している。

 また、一見無軌道に起きているかに思える怪奇現象の数々にも、きちんと一脈通じたものが感じられる描き方も巧い。実際、そこには明確な意図が存在するがゆえに、クライマックスの迫力があり、衝撃へと繋がっていくのだが、何かしら意図があるように感じられるのに明瞭にならない、そのざわざわとした苛立ちもまた、物語の宿す居心地の悪さ、おぞましさを強調させている。このあたりの物語構造に対する真摯な姿勢は、今回は製作として携わった現代のホラー・マスターであるジェームズ・ワンと、その作品を撮影監督という立場で支えてきたジョン・R・レオネッティ監督ら、『死霊館』をはじめとする作品に一貫して携わってきたスタッフたちのホラーに対する愛着と、映画作りのうえでのチームワークの確かさが形作っているのだろう。

 正直なところ、怪奇描写、恐怖の演出についてはいささか不満がある。『死霊館』に通じるじめじめとした恐ろしさはあるが、恐怖をもたらす決め手が大抵はお化け屋敷めいたこけおどしになってしまっているのが残念だ。そのために、肝心の現象が起きたあとは、たいてい演者のリアクションばかりが際立ってしまっている。『死霊館』や『インシディアス』シリーズではこのあたりの匙加減が絶妙であるだけに、惜しまれてならない――決して不出来ではないし、脅かすだけの趣向であっても本篇はかなり効果的に用いているのだが。

 物語の芯として、夫婦が初めての子供や生活環境の変化に対して抱く不安を盛り込む一方、クライマックスにおいては、粗筋のあとくらいに登場する主要人物の存在にもうひとつのドラマを仕込み、ただの恐怖映画に留まらない広がりも加えている。ジェームズ・ワン監督作品に限らず、複数のホラー映画に撮影として携わってきたジョン・R・レオネッティ監督の生み出す、クラシカルな雰囲気を湛えながらも息づかいの伝わる映像も出色だ。

 如何せん、『死霊館』というマスターピース級の作品が前後に存在しているだけにいささかの見劣りは禁じ得ないが、間違いなくホラー映画としては質の高い佳作である。

関連作品:

死霊館

デッド・サイレンス』/『ピラニア3D』/『インシディアス』/『インシディアス 第2章』/『インシディアス[序章]

フォーガットン』/『ジャージー・ボーイズ

MAY―メイ―』/『人形霊』/『怪談新耳袋 異形

コメント

タイトルとURLをコピーしました