『ドント・ブリーズ』

TOHOシネマズ新宿、入口に続くエスカレーター手前に掲示されたポスター。

原題:“Don’t Breathe” / 監督:フェデ・アルヴァレス / 脚本:フェデ・アルヴァレス、ロド・サヤゲス / 製作:サム・ライミ、ジョセフ・ドレイク、ネイサン・カハネ、ロバート・タパート、J・R・ヤング / 製作総指揮:ネイサン・カヘイン / 撮影監督:ペドロ・ルケ / プロダクション・デザイナー:ナーマン・マーシャル / 編集:エリック・L・ビーソン、ルイーズ・フォード、ガードナー・グールド / 衣装:カルロス・ロザリオ / 音楽:ロケ・バニョス / 出演:ジェーン・レヴィ、ディラン・ミネット、ダニエル・ソヴァット、スティーヴン・ラングフランシスカ・テレーチク、クリスチャン・ザジア / スクリーン・ジェムズ/ステージ6フィルム製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:風間綾平 / PG12

2016年12月16日日本公開

公式サイト : http://www.dont-breathe.jp/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2017/1/14)



[粗筋]

 ロッキー(ジェーン・レヴィ)は恋人のマネー(ダニエル・ソヴァット)、友人のアレックス(ディラン・ミネット)とともに強盗を繰り返している。アレックスの父親が警備会社を経営しており、契約者の自宅に保管しているため、侵入が容易なのだ。重罪とならないようアレックスに注意を受けながらもロッキーが盗みを重ねているのは、住んでいるデトロイトを出たい一心からだった。

 あるとき、マネーは盗品を売り捌く仲介人から、耳寄りな情報を聞きつけてきた。いまやゴーストタウンになってしまったブエナビスタの住宅街に、年老いた退役軍人(スティーヴン・ラング)が住んでいるのだが、この男が最近、大金を手にしたのだという。老人の娘が、さる資産家の娘が運転する乗用車で轢き殺され、その示談金が入ったらしいのだ。

 都合のいいことに、老人はアレックスの父が営む警備会社と契約していた。しかも、従軍中に負傷して視力を失っているのだという。少なく見積もっても30万ドルに近い現金が、老人の手許にはある。

 最近、母に新しい恋人が出来たことでロッキーの生活はいよいよ悲惨なものになっている。妹を連れてすぐにでもデトロイトを飛び出したいロッキーはこの話にすがりついた。重罪確実の金額に怖じ気づいたアレックスも、ロッキーの気持ちを汲んで計画に同意した。

 下調べの結果、老人の家の周囲には誰も住んでいない。盲目ゆえに出かけることも多くないが、目が見えないのだから、仕事は容易のように思えた。

 ――ロッキーたちは気づかなかった。自分たちが襲撃しようとした人物が、どれほどの危険を秘めていたのかを――

[感想]

 いわば“ホラー版『座頭市』”といった趣のアイディアだが、これが素晴らしく有効に働いている。

 アイディアはシンプルなほうが効果的ではあるが、どの程度活用出来るかはやはり作り手の才覚に因る。本篇のフェデ・アルヴァレス監督らは、細かな趣向を加えることで、このアイディアを使いこなしてみせた。

 絶妙なのは、恐怖の“核”となる盲目の老人が、まるっきりの超人ではないことだ。それこそほんの僅かな身動きを手懸かりに1発で居場所を探り当てられてしまうようでは、発見された時点で話が終わってしまう。しかし、聴覚に優れた老人といえども、咄嗟の物音がどこから聴こえてきたのか、集中していない状況では確定できない。だからこそ生まれる、奇妙で緊迫した構図と、それらが醸しだす恐怖は類を見ない。

 もともとは短篇SFで注目されて『死霊のはらわた』リメイクに抜擢された本篇の監督だが、そこで示した恐怖演出の巧さは本篇でより遺憾なく発揮されている。スマートフォンやSNSを活かしたシチュエーション、更には敵が盲目であるからこそ成立する漆黒の世界の実験的表現など、素直にその怖さに身を浸すのもいいが、現代的で多彩な趣向の数々は、そのアイディアと発展の巧さにも唸らされるはずだ。

 加えて本篇には、ちょっとしたヒネリも加えられている。実はそもそもの発端から伏線は鏤められているのだが、それらの先で判明することが、観客に更なる恐怖と嫌悪感を催させる――考え方によっては、こうなるのも当然のように思えてしまうあたりに、本篇の悪魔的な魅力が光っている。

 多彩な趣向で観客を翻弄し、隠されていた事実で観客を驚愕させ、そして繰り返すツイストによって着地点を予測させない。緊張と興奮の連続で、観ていて疲れてしまうほどだ。しかしそれも、90分に満たないコンパクトな尺のお陰で、疲労よりも充実感のほうを味わえるはずである。極めて優秀なエンタテインメント、と断言していいと思う――ただ、隠されている事実がいささかグロテスクで、ひとによっては嫌悪感を催すかも知れないし、およそお子様向けではないが、そこさえ受け入れられれば、極上のスリルが堪能できるはずだ。

関連作品:

死霊のはらわた(2013)

アバター』/『ヤギと男と男と壁と

裏窓』/『パニック・ルーム』/『キャビン・フィーバー』/『サプライズ

座頭市 THE LAST』/『レッド・ドラゴン』/『ヴィレッジ』/『ダニー・ザ・ドッグ』/『ディセント』/『ブラインドネス

電撃 [DENGEKI]』/『8 Mile』/『グラン・トリノ』/『シュガーマン 奇跡に愛された男』/『ロボコップ(2014)』/『フルスロットル

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