『ルパン三世 カリオストロの城(MX4D)』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段下に掲示されたポスター。 ルパン三世 カリオストロの城 [Blu-ray]

原作:モンキー・パンチ / 監督:宮崎駿 / 脚本:宮崎駿、山崎晴哉 / 製作:藤岡豊 / 作画監督大塚康生 / 撮影:高橋宏固 / 美術:小林七郎 / 編集:鶴渕允寿 / 録音:加藤敏 / 音楽:大野雄二 / 主題歌:ボビー『炎のたからもの』 / 声の出演:山田康雄小林清志井上真樹夫増山江威子納谷悟朗島本須美石田太郎 / 製作、著作&配給:トムス・エンタテインメント / 映像ソフト発売元:Walt Disney Japan

1979年日本作品 / 上映時間:1時間40分

1979年12月15日日本公開

2017年1月20日MX4D版日本公開

2014年8月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.lupin-3rd.net/mx4d/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2017/1/23)



[粗筋]

 盗賊のルパン三世(山田康雄)と次元大介(小林清志)のコンビはその日、カジノの金庫から首尾良く大金を盗み出した――はずだった。しかし逃走中、ルパンは大量の札束がことごとく偽札であることに気づく。しかもそれは歴史上の大きな事件にたびたび影響してきたと言われる伝説の偽札、ゴート札であった。

 ゴート札はヨーロッパの小国、カリオストロ公国から流出している。にわかに興味を抱いたルパンはカリオストロ公国に潜入するが、そこで何者かに追われる花嫁姿の少女を発見する。追われる者が可憐な少女ならば、とルパンは少女を助けに入り、追っ手を撃退するが、最後にうっかり崖に転落、気を失ってしまう。

 目醒めたとき、花嫁姿の少女は敵方の加勢に捕らわれ連れ去られたあとだった。ルパンは少女が介抱するために残していった手袋を確かめ、その中に入っていた指輪から、彼女の正体を知る。

 逃走していた少女は他でもない、カリオストロ公国の王女クラリス(島本須美)であった。話によると、公国は先代の国王が7年前に大火で命を落として以来、摂政カリオストロ伯爵(石田太郎)が収めていたが、王女が修道院を出たこの機に伯爵と結婚し、いよいよ王位を継ぐことになったのだという。

 どうやらクラリスは、修道院から連れ出されるなり、と伯爵を拒絶して逃亡を図っていたらしい。そう察したルパンは、目撃者を始末するべく伯爵が送り込んできた刺客を煙に巻くと、ついでに伯爵へと予告状を送りつけた。

 狙うは、とらわれのお姫様――

[感想]

ルパン三世』の枠組みに入っているが、今となっては“プレ宮崎駿”そのもの、としか言えない作品である。

 囚われの姫君というモチーフに、王家の正統的継承者であることを証明するアイテムとその秘密。登場する飛行機の作りや、地下世界に入っていくプロセスまでが『ラピュタ』を彷彿とさせる。この作品に、更に様々なファンタジーの要素を組み込み、より多くの年齢層に訴えかける冒険活劇としての魅力を組み込めば、まさに『ラピュタ』なのだ。

 とは言い条、『ルパン三世』という枠組みの魅力もしっかり採り入れているのはさすがだ。悪人だが洒脱で、俗物ながらも義を重んじるルパンのヒーローぶり、それを影ながら支える次元と五ェ門の格好良さ。ルパンの逮捕を宿願としながらも、その能力を認め、巨悪を倒すためなら力を貸すことも厭わない銭形警部の正義心。ルパンとは別行動しながらも憎い活躍を示す不二子、とお馴染みのキャラクターの魅力をきちんと織り込んでいる。

 それでいて、子供でも楽しめる活劇、というスタンスは貫いている。設定上、ルパン三世の世界観は、その気になればかなりアダルトな要素も組み込めるのだが、本篇は控えめだ。ルパンの、クラリスに対する振る舞いのキザっぷりに若干アダルトめいた匂いはあるし、終盤に入るあたりでルパンが伯爵に投げつける台詞は親が子供に意味を問われると答えづらい類だが、現実離れした跳躍のくだりや多人数での揉み合いのくだりなど、アニメ的な見せ場もふんだんだ。普通に観ているぶんには、『ルパン三世』という世界観が抱えるダーティさや俗悪さを過剰に意識することはない、そういう作りになっている。

 子供なら一途に楽しめ、大人なら童心に返りつつもその配慮や工夫に唸らされる、長篇初監督とは言い条、職人的な仕上がりとなっている。そこに後年、スタジオジブリ作品で見せる作家性を早くも露わにしながら、よりストレートに娯楽作品たらんとした本篇は、考えようによってはのちのどの宮崎作品よりも親しみやすい1本と言えるかも知れない。

 今回、この作品がふたたび劇場で公開されたのは、新たにMX4Dの効果を追加したヴァージョンが製作されたためである。

 前述の通り、本篇は冒険活劇の要素が極めて濃厚だ。MX4Dの演出を加えることで、その魅力は確実に増している。

 とはいえ、本篇のMX4D演出のクオリティは、ちょっと驚くほどに高い。私はそこそこの数の作品をこのシステムで鑑賞していていい加減慣れたつもりでいたが、それでも本篇での迫力には度肝を抜かれたほどだ。未経験のひとにはかなりのショックがあるかも知れない。

 いちばんインパクトがあるのは、複数箇所存在するカーチェイスのシーンと、多人数で揉み合う場面である。前者はエンジンの振動はもちろん、タイヤがパンクした車体の激しい振動まで克明に再現していて、暢気に構えていると振り落とされそうなほどだ。後者は、背凭れに仕掛けられたギミックまで駆使して、揉み合いのただ中に投げ込まれたような感覚をしっかり再現してみせている。

 MX4Dや同様の体感型上映の難しいところは、観客が体感出来る現象を、スクリーン上のどこに設定するか、という点だ。たとえば作中人物がカメラを構えている、という設定で描かれるものなら、カメラの位置で感じられるはずの出来事を再現してみせればいい。白石晃士監督の『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』という作品はこのルールを厳守して成功させている。しかし、ほとんどの映画では、カメラは登場人物とは別のところにある。スクリーンの中心に映っている人物の感覚を再現することばかり考えていると、不自然な印象を与えかねないし、かといって疑似体験する主体をコロコロ替えていても観客は困惑するばかりだ。

 その点、本篇は不自然さや、客観的な滑稽さを感じさせるギリギリのところで観客を楽しませる配慮がされている。ルパンがメインで行動しているシーンではおおむねルパンの体感を再現する一方、あえてカメラの切り替えごとに焦点の当たっている事物がもたらす感覚を再現することで、劇中の混乱ぶりをも体感させるような趣向まで用いている。

 本篇のMX4D演出開発にはかなり時間をかけたようだが、なるほど確かに、研究と試行錯誤の痕跡が窺える丁寧な作りだ。もし未だにMX4Dでの上映を利用したことのないひとは、あえて本篇で初体験してみるのも一興かも知れない――もっとも、本当に他のMX4D作品よりも上質な演出なので、本篇のあとで別の作品を試してみたら、物足りなくなる危険もありそうだけど。

関連作品:

崖の上のポニョ』/『風立ちぬ

黒蜥蜴』/『K−20 怪人二十面相・伝』/『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/『ポッピンQ
ジュラシック・ワールド』/『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』/『雨女』/『貞子vs伽椰子』/『シン・ゴジラ』/『バイオハザード:ザ・ファイナル

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