抜いた毒素を濃縮して戻す。

 今週は、どーしても気になっていた作品がひとつある。それを軸に映画鑑賞のスケジュールを組んだのですが、厄介だったのは、お目当ての作品が12時と、21時台スタートのふた枠しかやってないこと。12時台に始まるのはどうしてもピンとこないので、21時台を選ぶしかないのですが、こんな時間に出かけるならハシゴしたい。で、そのつもりで作品を探したら――えらくエグい組み合わせになってしまった。軸とは別の作品も、気になってるのは確かなんですが、この順番で観るとけっこう本気で心を病みかねない。とりあえず軸のほうを先に押さえて、それからかなりギリギリまで悩み、けっきょく今朝になって、急ぐ必要はないけどとりあえずウォーミングアップにはちょうどいい、という作品が、しっくりくるスケジュールに見つかったので、これに決めました。
 夕方からバイクで赴いたのは、新宿。まだ梅雨は明けてないので、降られる危険はあったのですが、実は先日、ようやく、ほんとにようやく、バイク用の雨具を購入しました。なので、むしろ帰り道だけなら降られてもいい、と思って出かけました。行きに濡れてしまうと始末に困るので、出るときに雨の気配があれば大人しく電車にするつもりだったんですが、空模様からは、少なくとも移動中に降ることはない、と確信する要素があったので、迷う余地はなかった。
 幸い、きょう立ち寄るふたつの映画館のちょうど中間に位置していて、しかもリーズナブルな駐車場が空いていた。妙にスムーズなことにちょっと恐怖さえ覚えつつ、映画館へ。

 最初に訪れたのは、TOHOシネマズ新宿。鑑賞したのは、再上映なのに興収ランキングを席巻しているジブリ作品4本のひとつ、宮崎駿監督2001年の作品であり、アカデミー賞長編アニメーション部門賞に輝いた千と千尋の神隠し』(東宝配給)
 続けて観ると、やっぱり『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』と繋がる要素で構成されてるのが面白い。主役を子供に、目的をシンプルにすることで、より現代の民話とも言うべき空間を作り上げている。最初に観たときは「こんなもんかな」程度の印象だったんですが、いま観ると釜爺やリンがいい奴すぎることがやたら微笑ましく映ります。そして、文明から川ひとつ挟んだだけの空間に、八百万の神が戯れてる世界観が思った以上に快い。本題である2本目を前にリラックスして映画を楽しみたい、という理由で選んだんですが、その意味では大正解でした。

 次の作品までは約1時間。当初は、早めに入れそうなラーメン店にするつもりでしたが、試しにつるとんたんを覗いてみたら、空席がありそうだったのでそのまんま入店。久しぶりに明太あんかけ玉子とじのおうどんを堪能してきました――ここんとこ、お気に入りのラーメン店に足を運ぶか、新しい店舗を開拓するのに夢中で、だいぶご無沙汰だったのです。食事の提供も早かったので、次の劇場にも余裕で間に合いました。

 ふたつめに訪れた劇場は、シネマート新宿。鑑賞した本日の目玉は、37年前に製作、公開されるもあまりに過激な内容に批判が続出、本国オーストリアでは1週間で打ち切り、他のヨーロッパ諸国でも上映禁止になり、日本でも『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』の邦題でビデオ発売されたきりで消えていた、という曰く付きの作品です。まったく何の理由もなく一家を惨殺した実在の殺人者の犯行を、画期的なカメラワークと容赦のないタッチで描き出したアングスト/不安』(Unplugged配給)
 ……正直に言えば、描写としては、さほどショッキングとは思わなかった、私は。あくまで私は、です。不慣れなひとが観たらトラウマになる、というのはたぶん決して大袈裟ではない。私はもっと被害者側が心理的に追い込まれるような描写が矢継ぎ早に繰り出されるのか、と思って身構えてたんですが、そういう意味では犯人が行き当たりばったりすぎて、衝撃はなかった。ただ、こういう人物が突如として現れて命を蹂躙される、と想像すると恐ろしくなる。そして、それを観客に共感させ、取り込んでしまいそうなタッチにしているのがなお怖い。
 また物語(というほどのものはないですが)以上に強烈なのは、いま観ても斬新すぎるカメラワークです。1983年の段階で、人物と一定の距離を保って撮り続けるこんな映像はほとんどなかったはずですし、高い位置からの連続的な画面の組み立ては、まるでこの当時にドローンが存在してたかのようで驚かされます。音楽を優先した編集の尋常でないテンポの良さなど、作りは約40年前と思えないくらいに新しい。確かにこれは、映画ファンなら観ておくべき傑作だと思う――あくまで、こういう猟奇犯罪ものに耐性があるひとに限りますが。

 映画館を出たときも雨は降ってませんでした――が、どうやら一時的に降ってはいたらしい。路面はしっとりと濡れてましたし、バイクも水滴まみれになっていた。ただし、雨具を着なきゃいけないような状況ではない……なんだか物足りない気分で帰途につきました。

コメント

  1. […] 原題:“Angst” / 監督:ジェラルド・カーグル /  […]

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