『市民ケーン』を書いた男の眼差し。

 以下、昨晩の話。

 当初は土曜日に観るつもりでいた作品をようやく――と言うほど遅くはなってませんが、ともあれ鑑賞してきました。
 上映開始は20時。家で食事を摂ってからだと忙しない、帰ってからでは遅すぎる、という時間なので、早めに現地入りして夕食を摂ることに。またぞろラーメン店――ではなく、久しぶりにつるとんたんに寄ってみました。混雑しても多少なら待ってもいい、という余裕を設けておいたら、存外簡単に入店できた。……それにしても、まさかサービスで梅酒を出してくれるとは知らなんだ。夜間だけなのか新たに提供を始めたのか解りませんが、どっちにしても、こちらはバイクで来てるので飲めません。なんかもったいない。
 ゆっくり食べても、まだまだ余裕があるので、とりあえず日比谷しまね館へ寄り道してちょこっとだけ買い物をし、それから映画館へ。
 今回の劇場は駅前にあるヒューマントラストシネマ有楽町、鑑賞したのは、デヴィッド・フィンチャー監督久々の新作、トーキー移行期のハリウッドで活躍した脚本家が歴史的傑作を書き上げた背景を、モノトーンの映像と王道のタッチで綴ったドラマMank/マンク』(Netflix配給)。このために『市民ケーン』を観ておきたかったのですよ。
 先に観ておいて良かった。そして、併せてモデルとなったハーストやマリオン・デイヴィスについてちょっとでも調べておいて正解でした。知らずともある程度は楽しめるでしょうが、この辺の情報を踏まえておくとより面白いのは間違いない。彼ら以外にも、映画ファンなら名前だけで「おお」と呟いてしまうデヴィッド・O・セルズニックにL・B・メイヤー、それにアブトン・シンクレア(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の原作者)なんてのまで登場してきて、当時のハリウッドの勢力図がだいぶ解った気分になれる。
 なにせ主人公があまりにもウィット豊かすぎて話の流れがしばしば把握しにくくなるのですが、しかし脚本を手懸けたマンクの視点から『市民ケーン』を解体、再構築するような作りになっていて、あちらを観てからだと本当に興味深い。とりわけ、クライマックスでの“対決”は、『市民ケーン』をネタにしながら、劇中でも触れられるドン・キホーテを再現しているかのようで、実に重層的。1940年を主軸に、1934年から少しずつ追いかけてくるかたちで過去を綴り、クライマックスへと昇華させていく構成もまさに『市民ケーン』を意識していて、まさに同作やタイトル・ロールであるハーマン・J・マンキーウィッツへの敬意が濃厚な内容。一見シンプルに見えて非常に奥行きがあり、なるほどアカデミー賞本命視されるのも納得の作品でした。
 鑑賞後はまっすぐ帰宅。途中でまごつくことも考え、母には遅い時間に帰る、と伝えてあったんですが、地下駐車場へのエレベーターにすぐ乗れるわ、道はやたらと空いてるわ、で想定してたより30分も早く家に着きました。

コメント

  1. […] 原題:“Mank” / 監督:デヴィッド・フィンチャー / 脚本:ジャック・フィンチャー /  […]

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