『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン4入口脇に掲示された『燃えよデブゴン/TOKYP MISSION』チラシ。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン4入口脇に掲示された『燃えよデブゴン/TOKYP MISSION』チラシ。

原題:“肥龍過江 Enter the Fat Dragon” / 監督:谷垣健治 / 脚本:ウォン・ジン(バリー・ウォン)、ルイ・クーンナム、ロナルド・チャン / 製作:ドニー・イェン、ウォン・ジン、コニー・ウォン / 撮影監督:石坂拓郎、ファン・ユエンマン / 美術:リー・キンウェイ / 編集:リー・カウィン / 衣装:リー・ピッククワン、コニー・オウイェン / アクション監督:大内貴仁、ヤン・ファ、ユー・カン / 音楽:チャン・クォンウィン、ケイ・チャン / 出演:ドニー・イェン、ウォン・ジン、ルイス・チョン、テレサ・モウ、ニキ・チョウ、竹中直人、丞威、渡辺哲、ジェシカ・ジャン、チェイニー・リン、葉山豪、バービー / 配給:TWIN
2020年香港作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:神部明世
2021年1月1日日本公開
公式サイト : https://debugon-tokyo.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/1/1)


[粗筋]
 香港警察のチュウ・フクロン(ドニー・イェン)は有能だが熱血漢故に同僚や部下から少々煙たがられている。10年近い交際を経て恋人フォン・イー(ニキ・チョウ)とようやく結婚する運びとなったが、式のための写真を撮りに行く途中で事件に巻き込まれ、さんざん騒動を拡大した挙句に約束をすっぽかしてしまう。
 長年、フクロンの不義理に苛立ちを募らせていたフォン・イーはとうとう彼に別れを突きつけた。そして職場でもフクロンは責任を取って証拠保管係に転属、現場からの離脱を余儀なくされる。
 それから半年。デスクワークと左遷のストレスにより、気づけばフクロンの体重は倍にまで膨れ上がっていた。そんな彼に、先の事件でちゃっかり昇進したファン警視(ルイス・チョン)は、容疑者の護送を任せる。これを無事に果たせば、現場復帰の道が開ける、と囁かれ、フクロンは張り切った。
 話では、フクロンが護送する山本勇二(葉山豪)という男は、日本で起きた交通事故の重要な参考人らしい。東京で担当の刑事に引き渡すだけの、ごく簡単な任務のはずだった。
 だが、護送途中のパーキングエリアで、山本に逃げられてしまう。このままでは帰れない、とフクロンは日本に留まり、山本の行方を追うことにした。
 フクロンはファン警視に紹介された、元刑事でいまは新宿歌舞伎町で甘栗店を経営するシウサー(ウォン・ジン)の協力を得て山本の行方を追う。同じ頃、元恋人のフォン・イーは女優として、築地市場で催されたイベントに招かれていたが、実はその主催者・島倉(丞威)こそ、山本の失踪に関与する人物だった――


[感想]
 きっかけは本篇から遡ること7年前に撮影されたCMだったという。ドニー・イェンが本来の姿と、特殊メイクで太った姿とのひとり二役に挑んだもので、当時好評を博したらしい。のちに、もともとの映画撮影の予定が変更になり、新たに企画を起こす必要に迫られると、このアイディアが再浮上してきた。肥満体をものともせず激しく戦う男、と言えばサモ・ハン・キンポーの『燃えよデブゴン』、と言うわけで、この作品の版権を買い取り、リメイク的な位置づけにした、という経緯らしい。発端がただただ「太ったドニーが戦う」というコンセプトだけだったこともあり、タイトルこそ拝借しているが、内容的に繋がりはないようだ。
 だが、世界観や全体の味わいは『燃えよデブゴン』――というより、同作がヒットした80年代、サモ・ハンやジャッキー・チェン全盛期の香港アクション映画を思わせるもので、この頃の作品に親しんでいる者には楽しい仕上がりだ。
 この時代の香港アクション映画は良くも悪くも“勢い”を重視していた感がある。脚本を緻密に作ると剽窃される恐れがあったため、ほとんど用意されていない場合もあった、というほどだったそうで、現場のノリや感性で組み立てられたストーリーに精緻さを望むべくもない。だがその分、評価の高かった作品はみなアクションやコメディなど、パートの見応えが豊かだった。
 本篇はまさにそんな趣で、繋がりやリアリティという意味ではだいぶ大きな問題を孕んでいるが、アクションシーンや細かな笑いを誘う擽りは実に豊富だ。冒頭の、タキシーと姿で車の上にしがみついての追跡劇、歌舞伎町での奇妙なやり取りから、建物の中から屋根の上まで縦横に動き回る立体感に富んだアクションあたりが出色だが、とりわけクライマックスの、状況的にはあり得ないが格闘の緊迫感を増す趣向はまさに香港アクションの醍醐味と言っていい。
 しかし、当然ながらアクションのクオリティは決して80年代のままではない。当時もジャッキーやサモ・ハンの作品は充分に躍動感を持っていたが、本篇は更にスピード感に優れている。通常、急激に体重が増えれば動きは重くなりがちだが、そこはそれ、と割り切り、他の作品同様のドニー・イェン流アクションを披露しているのは、それこそが本篇の面白さに繋がる、という確信からだろう。実際、巨体をものともせず機敏に動き回るドニーの姿は、アクションの内容こそ他の作品の応用だが、そこにユーモアも加え見応えは豊かだ。
 それにしても、意外なほどに本篇は“笑い”の面でも見応えがある。序盤の恋人とのやり取りや、左遷が決まった際の周囲の反応、と序盤からシリアスになりそうもない描写が繰り出され、舞台が日本に移ると、竹中直人が相変わらずの怪演ぶりを発揮、やもするとピリピリしがちな悪党側を巧みに飾っている。
 個人的にちょっと残念だったのは、せっかく日本を舞台にしているのに、歌舞伎町や東京タワーは完全にセットで撮影されている点だ――とはいえこれは致し方のないところだろう。日本ではこうした観光地や繁華街を封鎖しての撮影は難易度が高い。仮に許可が下りても時間の制約が厳しく、本篇のように緻密な計算と大胆さを求める香港流のアクションを撮影するのは難しい。それならはじめから、どんなアクションを見せるか、という前提に立ってセットを組むのが理に適っている。
 歌舞伎町も東京タワーも、実物を知っているとだいぶ不自然な作りだ。歌舞伎町のアーチが立っている通りには歩道は敷設されていないし、東京タワーのあんなところにあんなラグジュアリーなレストランはない。しかし、実情を無視しているからこそ成立するアクションやシチュエーションがふんだんにある。ストーリー的には雑然としていても、アクションや笑いの仕掛けには妥協しない姿勢が、リアルを度外視したセットに明確に感じられる――それでも、基本的なデザインや看板から自然な日本らしさが感じ取れるのは、監督はじめ主要スタッフに日本人が加わっていればこそ、だろう。
 多少筋は乱れていても、映画としての面白さ、見応えを重視する。観ていてただただ楽しいだけだが、ときどきこういう映画が無性に欲しくなる。そんな観客の渇望にきちんと応える、好篇と言っていいだろう。80年代香港アクション映画に親しんでいるひとはもちろん、なにも考えずに楽しめる作品が観たいなら、絶好の1本だと思う。


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