『イップ・マン 継承』


原題:“葉問3” / 監督:ウィルソン・イップ / 脚本:エドモンド・ウォン、チェン・タイリ、リャン・ライイン / 製作:レイモンド・ウォン / アクション監督:ユエン・ウーピン / 撮影監督:ケニー・ツェー / 美術:ケネス・マク / 編集:チョン・キーファイ / 衣装:リー・ピックワン / 音楽:川井憲次 / 詠春拳総顧問:イップ・チュン、イップ・チン / 出演:ドニー・イェン、リン・ホン、マックス・チャン、マイク・タイソン、パトリック・タム、チャン・クォックワン、ワン・シイ、スイ・サン、ケント・チェン、レオン・カーヤン、カリーナ・ン、ルイス・チョン、サラット・カアンウィライ、ベイビージョン・チョイ、タッツ・ラウ、ロー・マン、トニー・リャン、ユー・カン、チャン・チュウ / 配給&映像ソフト発売元:GAGA
2015年香港作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:鈴木真理子
2017年4月22日日本公開
2018年9月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://gaga.ne.jp/ipman3/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/title/80076698
DVD Videoにて初見(2020/04/30)


[粗筋]
 1959年、イップ・マン(ドニー・イェン)は長男のチンを勉学のため中国の仏山に返し、妻ウィンシン(リン・ホン)と次男のチン(ワン・シイ)とともに香港に留まり、詠春拳の普及に努めていた。
 しかしこの時代、香港の治安は劣悪だった。犯罪が蔓延し、警察も人手が回せずにいる。そんな中、チュンの通う学校が再開発を計画するフランク(マイク・タイソン)に目をつけられた。現地のチンピラを束ねるサン(パトリック・タム)はフランクの要求を受けて、学校に立ち退きをさせるため強硬的な手段に出る。
 校長(タッツ・ラウ)が無理矢理契約書に判を捺されそうになったところでイップが駆けつけ事なきを得るが、サンは夜のうちに学校を封鎖し、あげくに火まで放とうと試みた。イップの門下たちに、チュンと同じ学校に息子を通わせているチョン・ティンチ(マックス・チャン)も加勢し、ふたたびサンは退けられる。
 一連の事情を知ったサンの師匠であるティン(レオン・カーヤン)はサンの経営する造船所に怒鳴り込んだ。一触即発の事態は、一連の事件を担当するポー刑事(ケント・チェン)が取りなしなんとか収まったが、ティンの存在を目障りに感じたサンは、自身の経営する地下闘技場で選手として稼いでいたチョン・ティンチにティンを襲撃するよう依頼する。
 さらにサンは、深手を負ったティンの見舞いに行くようイップを誘導すると、そのすきにふたたび学校を襲撃、チュンを含む子供たちを誘拐、人質に取る卑劣な策に打って出るのだったっっ


『イップ・マン 継承』本篇映像より引用。
『イップ・マン 継承』本篇映像より引用。


[感想]
 ブルース・リーの師であり、異種格闘技戦にてその高い能力を示したことで名前を残す詠春拳の達人・葉問=イップ・マンをドニー・イェンが演じた3本目の映画である。
 先行する2作自体もそうだったようだが、本篇もまた決して事実に沿っていない。この当時イップ・マンが香港に居を構え、長男を郷里・仏山に学ばせていた、というあたりは事実に合わせているが、本篇で描かれたような事件はなかった――というより、そこまで詳細な記録が残っていない、というのが実情だと思われる。本シリーズはあくまでイップ・マンという人物の半生、生き様を敷衍したフィクションとして捉えるべきだろう。
 フィクションだからこそ、3作目となる本篇には、旧作の理念を引き継ぎながらもまた違った趣、更に掘り下げた“イップ・マン”像を描き出そうとする意志がはっきりと窺える。
 旧作はいずれも武人として、更には民族としての誇りをかけて外敵と対峙する、という主題が強烈に打ち出されていた。それは本篇でも、イギリスの統治下にあり、その横暴な振る舞いによって翻弄されるひとびとの姿が採り上げられるが、しかし本篇においてイップ・マンの行動理念のは、民族としての誇りや、虐げる者たちに向けられた義憤以上に、家族に対する配慮に強く感じられるような描き方になっている。
 達人であるがゆえに、武術界において責任を負わざるを得ないイップ・マンは、旧作ではまさにその責任の上で戦い、結果として家族を犠牲にしていた感がある。それから時を経て、新天地の香港で新たに生活を立て直さなければならなくなったことにより、彼のなかで家族というものの重みが増したであろうことは想像に難くない。
 しかも本篇で起きる事件は、いずれも彼の家族が何かしらのかたちで関わっている。小学校を地上げから守るのは地域のためでもあるが、我が子が学ぶ場所を守ることでもある。そして終盤、突如として叩きつけられた挑戦状に対して選んだ行動は、対外的な名誉よりも家族を重んじる意志の明確な表れだ。
 本篇が優れているのは、そうしたイップ・マンの行動理念のうえにアクションの必要性を求めている点だ。この作品に登場するアクション・シークエンスはいずれをとっても不自然なものがない。ただ戦いたいが為に戦う、などという場面はなく、その戦い方も目的から逸脱することがない。その点はシリーズ旧作から一貫しており、それこそこのシリーズが評価される大きな理由のひとつなのだが、本篇は更に物語の展開、そしてイップ・マンの信念と緊密に結びついている。それゆえに、やもすると見た目のインパクトや爽快感に留まってしまうアクション・シーンに重厚な味わいが加わり、より上質のカタルシスを生み出している。
 その上で、アクション・シーンに工夫を欠かさず、クオリティも更に高めている。達人としての腕前を遺憾なく示す少数対多数の格闘はもちろん、終盤に組み込まれた一騎打ちはいずれも素晴らしい見せ場となっている。ムエタイを操る刺客との戦いでは、狭いエレベーターと家屋の構造を利用して、アクションそのものにイップ・マンの繊細な気遣いを織り込む。映画ファンならずともその名前を知るボクサー、マイク・タイソンをゲストに招いた1戦では、ゲストに華を持たせつつも趣向を凝らしたカメラワークと条件付けで、しっかりとカタルシスを演出する。そしてクライマックスの一番では、詠春拳のスタイルを贅沢に盛り込みつつストレートに描きながら、武術家イップ・マンのレベルの高さ、そしてその背後に本篇が一貫して描き続けた家族への情をしっかり表現しきっている。
 たまたま本篇と前後してブルース・リーの諸作を観直す機会があったのだが、ブルース・リーの格好良さ、映画としての意義を認めつつも、彼の意思を継いだ者がそこから大幅に映画でのアクション表現を進化させていったことが本篇でよく解る。攻撃のスピード感と躍動感、アクロバティックでありながらワイヤーなどの細工を感じさせないリアリティは、ブルース・リーが現役だった時代にはなかったものだ。
 旧作において幼少期という設定でちらりと顔を見せたブルース・リーは、本篇において更に成長した姿で登場する。そんな彼に焦点を当てたプロローグは、本篇の種子を残した彼への敬意であると共に、スタッフ・キャストの自負を籠めたメッセージのように映る――私たちの作るアクションはまだまだ成長するのだ、と。
 これを書き上げて間もなく、シリーズ第4作にして完結篇『イップ・マン 完結』が日本で公開される予定となっている。本篇からどのような境地に至ったのか、そしてまた新たな可能性を示してくれるのかどうか楽しみでならない――そして、そんな期待を抱かせずにおかない、本篇はそういう種類の傑作だった。


関連作品:
イップ・マン 序章』/『イップ・マン 葉問
かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート』/『導火線 FLASH POINT』/『SPL/狼よ静かに死ね
トリプルX:再起動』/『アイスマン 宇宙最速の戦士』/『ドラゴン×マッハ!』/『風雲 ストームウォリアーズ』/『少林サッカー』/『ミラクル7号』/『新ポリス・ストーリー』/『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-』/『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』/『ツイン・ドラゴン
グランド・マスター』/『ユン・ピョウinドラ息子カンフー

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