『散歩する霊柩車』

原作:樹下太郎 / 監督:佐藤肇 / 脚本:松木ひろし、藤田傳 / 企画:秋田亨 / 撮影:西川庄衛 / 照明:城田昌貞 / 編集:祖田冨美夫 / 録音:小松忠之 / 音楽:菊池俊輔 / 主題歌:西村晃・春川ますみ『散歩する霊柩車』 / 出演:西村晃、春川ますみ、渥美清、曾我廼家明蝶、金子信雄、宮園純子、岡崎二朗、小沢昭一、大辻伺郎、浜村純、花沢徳衛、加藤嘉、杉義一、片山滉、谷本小代子、矢島由起子、仲原新二、山田甲一、田川恒夫、古橋弘子 / 配給:東映
1964年日本作品 / 上映時間:1時間28分
1964年10月3日日本公開
日本映画専門チャンネルにて初見(2019/12/04放送、2020/05/05鑑賞)


[粗筋]
 麻見弘(西村晃)は葬儀のあと、霊柩車に妻・すぎ江(春川ますみ)を載せたまま、運転手の毛利(渥美清)に寄り道させ、ふたつの場所へと乗り付ける。
 1か所目は、結婚式場。参列していた会社経営者の北村(曾我廼家明蝶)を呼びつけ、棺の中の妻を見せると、彼女の遺書を示す。それは“K・Y”なる人物に宛てたもので、すぎ江は宛名の人物との不倫がバレたことで良心の呵責に苦しみ、自ら命を絶ったのだ、と言う。北村は深い関係を否定するが、必ず相手を見つけて社会的な制裁を下す、と宣言する麻見に慄然とする。
 2か所目は、病院。ちょうど死体安置所にいた山越(金子信雄)に、北村に示したのと同じ遺書を突きつけた。一夜限りの関係を認め、悪びれる様子のなかった山越だが、立ち去ろうとした麻見に花代と称して金を持たせ、あとで改めて弔問に伺う、と言う。
 毛利の手を借りてアパートに棺を運び込み、ようやく1人になった麻見が棺を開くと、中で横たわっていたすぎ江が起きてくる。彼女は死んでいなかった。彼女が自殺した、ということにして、夜の仕事をしているすぎ江と関係した客の中から、醜聞を恐れる人間を選んで金をむしり取ろうとしていたのである。
 麻見は訪問したふたりの反応から、かなりの収入を得られることを確信していた。しかしこの直後から、事態は思わぬ方向へと転がっていく――



[感想]
 古い日本映画にはよくあることだが、いま観ると尺に対して妙に長く感じる。ただ、同じ長く感じると言っても、本当にただだらだらと綴っているが故に間延びしている場合と、描写が詰まっているから長く感じる場合がある。本篇の場合は後者、と言っていいだろう。
 基本設定に派手さはない、というか、むしろ陳腐ですらある。主人公はうだつの上がらないタクシー運転手、豊満な肢体を持つ妻はホステスとして働き、男遊びが激しい。そんな妻の浮気相手を脅迫して金をむしり取ろうとする――と、要素だけ抜き出していけば、往年のサスペンス・ドラマでさんざん目にしたものばかりだ。
 しかし本篇はその彩りと、構成の妙が素晴らしい。冒頭の“殺人”シーンに始まり、結婚式場に駆けつける霊柩車、柩の中から起き上がる妻、帷子を着たままの抱擁、とインパクトの強いシチュエーション、描写で畳みかけてくる。登場する街並みもモチーフも往年の日本らしさが濃厚なのに、切り取り方が巧妙なのでいっそスタイリッシュにすら映る。まだカラーが主流となる以前だからこそのモノクロ映像だが、それもまたこの世界観にはしっくりくる。
 場面一つ一つの描写に感じる間延び巻は否めないが、それを凌駕するほどの展開の激しさで、惹きつけられてしまう。しかも決して突拍子もない出来事が起きるわけではなく、方向性はぶれず、そしてきちんと伏線も張り巡らせてあり世界観の中での不自然さはない。
“世界観の中で”と記したのは、現実を考慮するとさすがに(いくら1960年代でも)これはあり得ないのでは? という強引さが目につくからだが、本篇の場合、そういうお約束のもとできちんと話が成り立っているのであまり気にならない。この作品では役所や警察など公的機関がちゃんと機能してないようにすら見えるのだが、むしろ中途半端に絡んでこない分、登場人物たちの欲望や思惑が直接的に絡み合い、そのドロドロぶりがブラック・ユーモアに昇華されている。
 本篇の主演は西村晃、のちに水戸黄門を長きにわたって演じた名優だが、本篇では悪事を企みながらも不測の事態に翻弄される主人公が見事に板についている。対する妻を演じた春川ますみも、中年女性の頽廃も滲ませながら脂の乗った色香を醸し、その肉体で夫や愛人たちを手玉に取ろうとするしたたかさを体現し強い印象を残す。妻の浮気相手のひとりである青年を除くと、名前のある登場人物に若者も美形もいないのだが、にも拘わらず画面にインパクトがあるあたり、この時代の役者の凄みを感じずにいられない。
 結末も、サスペンスやスリラーに馴染んだひとにとっては予想の範囲内だが、課程の緻密さもあって味わい深い余韻を残す。2020年現在、映像ソフトや配信では出回っていない、というのが不思議に思えるような快作である。

 最後にふれたとおり、この作品は現在、思い立ってすぐに観られる状況にない。DVDなどではリリースされておらず、配信もされていないので、観るためにはこうした古い日本映画を拾ってくれる専門チャンネルと契約して、放送を待つしかない。
 思い出したように古い掘り出し物の傑作がDVDでリリースされることも一時期は多かったが、パッケージでの販売は退潮傾向にあるいま、期待するならやはり配信なのだろう。東映や東宝、旧大映作品を抱えるKADOKAWAあたりが奮起してくれると嬉しいのだが――フィルムで保管されいるのみの作品をデジタル化するのも、配信するための設備や保守にも費用はかかるため、安易に乗り出しがたいのも事実。
 だから一個人としては、こういう埋もれた作品にも面白いものがあるんだ、というのを確認し訴えていくためにも、地道にレポートを残しておきたいと思う――どーしても観たい、と思った方は専門チャンネルや権利元の東映にリクエストを出してみてね。


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