『怪談新耳袋Gメン2020』

キネカ大森が入っているテナントビル1階エレベーターホール入り口前に掲示された、『怪談新耳袋Gメン2020』含む『ホラー秘宝まつり2020』ポスター。
キネカ大森が入っているテナントビル1階エレベーターホール入り口前に掲示された、『怪談新耳袋Gメン2020』含む『ホラー秘宝まつり2020』ポスター。

監督&編集:佐藤周 / 製作:丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦 / ラインプロデューサー:後藤剛 / 企画協力:木原浩勝、中山市朗 / 撮影:今宮健太、中川究矢 / オープニング&エンディング・テーマ:熊木翔 / 出演:後藤剛、山口幸彦、佐藤周、田野辺尚人、今宮健太、はち / 制作プロダクション:シャイカー / 配給:ブラウニー
2020年日本作品 / 上映時間:約1時間25分
2020年8月21日日本公開
公式サイト : http://horror-hiho.com/
キネカ大森にて初見(2020/08/27)


[粗筋]
 新型コロナウイルス感染症蔓延による外出自粛の余波が未だ残る2020年7月下旬、新耳袋Gメンは結集した。
 今年も決定した劇場版の公開に際して、2年振りの登板となる佐藤周監督が考えたのは、心霊スポットというだけでなく、実際に忌まわしい出来事が起きた場所――殺人事件に関係する場所へのアタックだった。
 一同がまず着目したのは、ホラー映画を愛するスタッフにとって忘れがたい因縁を残した、幼女連続殺人事件である。猟奇的な事件の内容のみならず、犯人がホラー映画やアニメのビデオテープなどを収集していたことから、レンタルビデオ店からホラー作品が消える、オタク文化への迫害が始まる、といった影響を及ぼし、同時代を生きていた者には強烈なインパクトを残した。
 犯人と関わりのある土地を訪ねたあと、一同は事件の舞台のひとつにもなったトンネルに赴いた。監督・佐藤周の狙いは、この土地から何かを持ち出し、次なる心霊スポットに携えていくこと。
 だが、新耳袋Gメンの最終目的はあくまで“本物”の怪奇映像を記録することだ。そこで彼らはここでも、この世ならざるものを挑発するためのミッション歩試みた。
 更に一同が巡るのは、30年前に発生し未解決のままの女子中学生拉致殺人事件の現場と、不良たちが初対面の学生をリンチにかけて殺害した事件の現場。果たして今回こそ彼らは、“本物の怪奇映像”を収めることが出来るのか……?


[感想]
 粗筋にも書いたとおり、このドキュメンタリー・シリーズ最大の目的は“怪奇現象を映像に収める”ことにある。もともとは雑誌『映画秘宝』の企画のひとつで、タイトルの一部にもなっている実話怪談本『新耳袋』に登場する土地を実際に訪れ、自身も怪奇現象を体験する、という趣旨で行われた取材が始まりだったが、取材過程で残した映像に異様な現象が起きたことでドラマシリーズ『怪談新耳袋』の特典映像として採用、そこからスピンオフ作品『怪談新耳袋殴り込み!』として独立し、あれよあれよという間に劇場版まで製作されてしまった。毎年1本から最大4本分を撮影するハイペースで、いつしか書籍『新耳袋』の舞台に限定せず、いわくつきの場所に突撃して、怪奇現象を撮影に挑戦する姿を追ったドキュメンタリーに変容していった。諸般の事情から一時中断していたが、2017年から『怪談新耳袋Gメン』のタイトルで復活、以来毎年、新作を発表しつづけている。
 とはいえ、もともと雑誌企画から始まり、そのスタンスを維持しているこのシリーズ、復活したところでメンバーはおじさんばかり、予算も相当に少ないだろうことは内容からも窺える。それに加え、本篇が撮影・航海されたのは2020年、折しも世間は新型コロナウイルス感染症の影響がエンタテインメント業界にも甚大な損害をもたらした。緊急事態宣言の発令、解除後も外出自粛が求められる状況が続き、あらゆる方面から撮影規模の縮小を要請される結果となっただろう、というのは想像に難くない。タイミングを逃してしまい、2019年度の作品は観ていないのだが、取材先は東京から2、3時間で移動できる範囲、しかも現地取材はおろか、コメントのかたちで登場するゲストもいない、という渋い編成はシリーズ始まって以来ではなかろうか。
 そうした事情で、元来小規模だった内容が、これまで以上にミニマムになった印象がある。そのぶん、劇中で狙いを定める心霊スポットやその背景に深みがあり、語ることが多ければ奥行きを生み出せたかも知れないが、残念ながらそれを感じられたのは冒頭で扱った幼女連続殺人事件のくだりくらいで、続くパートで採り上げるふたつの事件は、一方は未解決、もう一方は犯行が極めて短絡的だったこともあって、本篇のような内容では言及できる部分が少なく、物足りなさは禁じ得ない。最後に訪れた神社にあった謎の骨組みは気にかかるが、せめてそこももう少し掘り下げて欲しかった――山口プロデューサーの誕生日を祝うより先に。
 そのぶん、怪奇現象が多く記録されていれば、出演者も観客も満足なのだろうが、生憎、そういう意味でも不完全燃焼だ。これまでと同様、相変わらず奇妙な音はあちこちで収録出来ているが、せっかく映画というかたちで見せるならば欲しい、決定的な映像は今回も撮影できていない。
 ただ個人的には、これまでと違い、劇中で言及される奇妙な音はほとんど鑑賞している私も聴こえたものが多かった点は評価したい。従来の作品では、大々的に採り上げているものの、よっぽど耳を澄まさなければ聴こえない、聴こえても本篇で触れられているような音に聴こえず、しっくり来ないことも多かったのだが、本篇はリプレイを待たずに気づいたものも多かった。それだけ明瞭に不自然な音が解る、というのは、たぶんこのシリーズの狙いとして、取材先が間違っていなかった証左と言えるかも知れない。
 移動中やアタックの合間などに繰り広げられる会話や、ミッションの前後で仕掛けるイタズラなどに、シリーズの歴史や出演者達の年齢を感じさせるあたりの生々しさも個人的には嫌いではないし、それらも本篇の楽しさのひとつであることは確かだ――とは言え、イタズラの手口が似たり寄ったりになってしまうのは控えて欲しかったが。撮影から劇場公開までが恐らく1ヶ月ちょっとぐらいしかなく、タイトすぎるスケジュールで手数を増やすゆとりもなかったのは察しがつくが、取材内容やメンバーに制限がかかるぶん、過程の見せ方にくらいは工夫や努力を求めて欲しい。
 個人的には、都合がつかずに1回飛ばしてしまったぶん、彼らの健在を確かめられただけでわりと満足はしている。しかし、誰もがこんな優しく観てるわけではないし、そう言う私でさえ、感想を書くとこのくらい厳しくなってしまうのだから、製作背景など考慮しない多くの観客はより辛辣な言葉を投げてくるだろう。是非とも来年の捲土重来を期待したい。
 ……ただ、田野辺尚人キャップはもう、このシリーズを引退していただいたほうがいいと思う。雑誌企画を立ち上げた方でもあるので、ご本人としても現場に参加したい意向はあるのだとお察しするが、作を追うごとにお身体を悪くされているのが観ていて痛々しい。観客にあまり心配されすぎるような描写は、本篇の趣旨をブレさせてしまう傾向にもある。深夜に、足許の悪いところに出向くことも多い企画であることを思うと、やはりもう少し若手を加えて新陳代謝を図る時期に来ているはずだ。佐藤周監督や2019年の2作を担当した谷口恒平監督、或いはキングレコードや映画秘宝編集部のまだ現れていないルーキーの奮起を期待したい。


関連作品:
怪談新耳袋Gメン復活編』/『怪談新耳袋Gメン冒険編 前編』/『怪談新耳袋Gメン冒険編 後編
怪談新耳袋殴り込み!劇場版<関東編>』/『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<沖縄編>』/『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<東海道編>』/『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<北海道編>』/『怪談新耳袋殴り込み!<地獄編>【前編】』/『怪談新耳袋殴り込み!<地獄編>【後編】』/『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<魔界編>【前編】』/『怪談新耳袋殴り込み!劇場版<魔界編>【後編】
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