『駅 STATION』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン3前に掲示された案内ポスター。 駅 STATION【Blu-ray】

監督:降旗康男 / 脚本:倉本聰 / 製作:田中壽一 / 撮影:木村大作 / 美術:樋口幸男 / 編集:小川信夫 / スチール:石月美徳 / 殺陣:宇仁貴三 / 録音:田中信行 / 音楽:宇崎竜童 / 題字:益川進 / 出演:高倉健倍賞千恵子いしだあゆみ古手川祐子烏丸せつこ名古屋章大滝秀治、矢木昌子、池部良、渡哲也、寺田農根津甚八北林谷栄藤木悠、永島敏行、田中邦衛小松政夫平田昭彦織本順吉小林稔侍、浜田晃、橋本功室田日出男阿藤海阿藤快)、村瀬幸子、風間健、宇崎竜童、武田鉄矢塩沢とき / 配給&映像ソフト発売元:東宝

1981年日本作品 / 上映時間:2時間13分

1981年11月7日日本公開

第三回新・午前十時の映画祭(2015/04/04~2016/03/18開催)上映作品

2015年2月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2015/11/16)



[粗筋]

 1967年、北海道銭函駅で、三上英次(高倉健)は妻、直子(いしだあゆみ)と4歳の息子を見送った。刑事であると共に、拳銃の技術が評価されてオリンピック代表にも選出された英次には、家庭を維持できなかったのである。

 そんな英次の愚かさを指摘し、親身になっていた上司の相馬(大滝秀治)が、凶悪犯の封じ込めのために実施されていた検問のさなか、追っていた犯人によって射殺される、という事件が発生した。英次は敵討ちを望んだが、中川警視(池部良)はオリンピックに専念するように命じる。

 1976年。英次は射撃の強化選手のコーチを務めながら、いまも刑事として働いていた。この頃、彼が追っていたのは、赤いスカートの女性を立て続けに狙う通り魔であった。

 捜査の結果、浮上したのは、増毛にある風待食堂に勤めていた吉松五郎(根津甚八)という男である。事件以降行方をくらましている五郎が接触してくる、と睨んで、英次と辰巳刑事(小林稔侍)が風待食堂を見下ろすホテルに滞在し、いまも食堂に勤める五郎の妹・すず子(烏丸せつこ)の張り込みをした。

 張り込みは1週間に及ぶが、五郎がすず子に接触しているような気配は感じ取れなかった。おっとりとして善良そうなすず子の言動を、警察も疑うことが出来ず、すず子の周辺から捜査員を引き上げることが検討される。しかし、すず子が交際していたチンピラの木下(宇崎竜童)は、すず子が捜査員の目をごまかして五郎と連絡を取っている、と指摘、英次に恩を売るつもりなのか、すず子から情報を引き出して密告するのだった……

[感想]

 なんとなく鉄道に関連した映画のようなイメージのタイトルだが、ひとりの刑事の物語である。仕事に忙殺された結果、離れることになった妻子と別れる場面を始め、その人生の節目節目に登場し象徴するのが“駅”、という組み立てになっている。

 いわゆる刑事ドラマと異なり、1個の事件をずっと追っていくわけではなく、その時代時代で異なる事件が起きる。事件としても特異なものではないが、その折々に主人公である英次は親しい人物を失い、自身も何らかの傷を負う。最初の段階では警官であると共に射撃の日本代表として矜恃を持っていたはずだが、その多忙さ故に家族を失い、後年はその厳しさ故に射撃のコーチという立場を逐われる。そんな彼の心情が、それぞれの時に巡り逢う事件と犯人、そして重要な役割を果たす“駅”というモチーフのうえで交錯していく。

 本篇の山場は終盤、英次自身の物語と警官の職務として対峙すべきドラマが混じりあうくだりだが、ここだけ切り取って見るといささか御都合主義のようにも映る。しかし本篇はそれ以前に鏤められた複数の事件やエピソードが心理的伏線となり、その展開に運命的な高まりを演出して不自然な印象を与えない。

 この物語においては、北海道という舞台設定もまた大きな役割を果たしている。英次が勤務するのは大都市・札幌の警察であり、そこで英次が関与する事件も都会的に派手に展開するが、中盤以降たびたび登場する増毛駅や英次の郷里である雄冬峠は対照的だ。札幌とはまるで趣の異なる、人気が乏しく、雪が降ればうずたかく積み重なり、町そのものが閉じこめられたような光景。増毛の港は堤防のはるか上にまで波飛沫が上がるほど海が荒れて連日船が出せない、という場面もある。整然とした都市と、こうした美しくも荒々しい地方の出来事がさほど違和感なく連なるのは、北海道ならではだろう。

 使命感を抱きながらも、事件の中で同僚たちを失い、射撃の選手としての誇りをも奪われていく一方で、英次は法や善悪のものさしだけでは計れない人間の複雑な本質を目撃する。周囲からは頭が回らない類の人間に思われているのに、したたかに秘密を守り続けた女。通り魔的に犯行を重ね監視の眼を掻い潜っていたのに、肉親への情を捨てられない犯罪者。そして終盤で英次自身が関わる人物は、そこにいた理由も劇中での行動も、法や理屈で簡単に説明出来るものではない。

 そうした様々な事件やひとびとに巡り逢いながら、英次は己の職務、生き方について惑い揺れる。感情を露わにすることはないが、その所作に懊悩を滲ませる高倉健の佇まいが凜々しくも非常に人間味に溢れている。

 謎を解きほぐしながら語り尽くしたい、という類の映画ではない。だが、選び抜かれた構図に、この上なく映えるスター・高倉健の姿をじっくりと堪能出来る名篇である。

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