『テッド・バンディ』

TOHOシネマズシャンテの入っているビル外壁にあしらわれたキーヴィジュアル。

原題:“Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile” / 原作:エリザベス・クレブファー / 監督:ジョー・バリンジャー / 脚本:マイケル・ワーウィー / 製作:マイケル・コスティガン、ニコラス・シャルティエ、アラ・ケンシアン、マイケル・シムキン / 製作総指揮:ザック・エフロン、マイケル・ワーウィー、ジョナサン・デクター、ジェイソン・バレット / 撮影監督:ブランドン・トゥロスト / プロダクション・デザイナー:ブランドン・トナー=コノリー / 編集:ジョシュ・シェファー / 衣装:ミーガン・スターク・エヴァンス / キャスティング:ニーリー・アイゼンスタイン / 音楽:デニス・スミス、マルコ・ベルトラミ / 出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラリオ、ジェフリー・ドノヴァン、アンジェラ・サラフィアン、ディラン・ベイカー、ブライアン・ジェラティ、ジム・パーソンズハーレイ・ジョエル・オスメントジョン・マルコヴィッチ / 配給:PHANTOM FILM

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / R15+

2019年12月20日日本公開

公式サイト : https://www.phantom-film.com/tedbundy/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2020/01/23)



[粗筋]

 1969年、夫と別れてワシントン州シアトルに転居したリズ・クレブファー(リリー・コリンズ)は、友人とともに初めて訪ねた酒場で、テッド・バンディ(ザック・エフロン)と出会う。甘い顔立ちと洒脱な振る舞いにリズは心惹かれ、その日のうちに彼を自宅に招いていた。

 リズの小さなひとり娘モリーも彼に懐いたことで、リズはほどなく彼に心を許した。ふたりの恋人関係はそれから6年、大きな波風の立つこともなく続いていた。

 だが1975年、事件が起きる。ロースクールで法律を学んでいたテッドは、ユタ州で信号無視を見咎められパトカーに制止された。直後、逮捕されたテッドにかけられた容疑は、誘拐未遂。その頃、マレーという街で発生した、女性が誘拐されかかった事件において、被害者の証言によって作成された似顔絵と犯人の特徴が、テッドに似通っていたのだ。

 当時、シアトルをはじめ、複数の州にまたがり、似たような手口で女性が殺害される事件が相次いでいた。いずれの事件も目撃証言に登場する人物の特徴が似通っており、各州の警察が同一犯の可能性を疑い始めていた。

 テッドはリズに、「すぐに出られる」と楽観的に話したが、テッドは誘拐未遂で有罪の判決を受け、ユタ州の刑務所へ収容される。それでも無罪を勝ち取るべくテッドは刑務所内でも裁判資料を熱心に読みこんでいたが、そこにコロラド州の刑事が訪ねてきた。刑事ははっきりと、コロラド州の誘拐殺人でもテッドが容疑者として扱われていることを宣言する。

 間もなくコロラド州での裁判のため、テッドの身柄は移送された。それでもなお、必ず身の潔白を証明する、とテッドは繰り返すが、家で待つリズは不安と恐怖に苛まれていった――

[感想]

 念のため、まず最初に明言しておきたいのは、本篇のタイトルロールであるテッド・バンディは実在し、現実に多くの殺人罪によって裁かれている、という点である。いきなりネタばらしか、と思われるかも知れないが、このあまりにも有名な殺人鬼とその顛末はネットでちょっと検索すればすぐに解るのだから、どうかご容赦いただきたい。

 この点を最初に断ったのは、本篇はその事実をあえて棚に上げ、バンディに襲われることのなかった恋人の視点を中心に描くことで、いわゆる実録犯罪ドラマ的な切り口から脱却し、サスペンスとして語った作品であることを明確にしたかったからだ。

 この作品ではかなり話が進むまで、陸続と発生する殺人事件の詳細に触れることはない。あそこで誘拐未遂事件があり、こちらの事件との関連が疑われている、といった具合に大雑把な概要を提示、それがひたすらに積み上がっていくだけだ。

 バンディにかかる嫌疑はどんどん重くなっていく一方で、しかしリズと観客には彼が無辜なのか或いは凶悪な殺人鬼なのか、明確に判断する材料は与えられない。それゆえに、罪から逃れようともがくバンディのさまと、事実を知らないが故に煩悶するリズの姿にサスペンスが醸成される。実際に起きた、しかも事実のおおよそ判明していると捉えられる(実際には把握し切れていない背景や犯行もあったと言われているが、法的にはひとまず決着のついた)事件を題材にした作品としてはかなり異色だが、それ故に型に嵌まらない面白さがある。

 特に興味深いのは、有罪か無罪か確定できない状態で本篇を鑑賞すると、このテッド・バンディという男がしばしば魅力的に見えることだ。

 劇中でも描かれているように、当時は被告となったバンディを“キュート”と表現する女性も、明確に彼を支持する女性も少なからずいたらしい。話だけ聞くといささか信じがたいこの事実も、本篇のような語り口だと納得出来る。

 また、“シリアル・キラー”の語源と言われているのと同様、“劇場型犯罪”のひとつの例として採り上げられることもあるバンディの言動は、その経緯ゆえに豊富な映像資料が残されている。本篇ではそうしていまも確認可能な記録を俳優たちによって再現している。マスメディアの前で罪状を発表する捜査官を茶化したり、自ら弁護士として法廷で堂々と振る舞ったり、とかなり型破りな言動があったが、その多くが実際の映像に基づいているのだから説得力は半端ではない。描写が行き過ぎでは? と感じた観客に対しては、エンドロールとともに実際の映像を羅列して駄目押しを加えてくる。もし本当にテッド・バンディという人物とその言動について知らずに鑑賞すれば、衝撃と恐怖は桁違いになるだろう――もっとも、バンディの名前を知らずに本篇に興味を抱くひとは少数派だろうけれど。万一、そのうえでここを読んでしまったひとからは、可能だった楽しみ方を奪ってしまったことをお詫びする。

 本篇でテッド・バンディを演じたザック・エフロンは、爽やかだが軽薄っぽく見える面差しゆえかロマンスやコメディでの露出が多かった印象があるが、本篇ではそのイメージを逆手に取り、危険な魅力で大勢を惹きつけた男を見事に体現している。罪を追求され知恵を絞って脱出し、法廷においては弁護士として巧みに振る舞う知性にも説得力があり、私の観た範囲ではザック・エフロンの代表作として記憶しておきたい好演ぶりだった。

 リリー・コリンズ演じるリズの前にいるバンディは、シングルマザーであるリズの子供にも慕われ、善良な好青年にしか見えない――劇中、その笑顔の下に秘めた凶暴性を垣間見せるくだりも描かれているが、強い信頼がある限りは不吉な印象に留まる程度だ。その信頼が次第に揺らいだあと繰り出されるクライマックスの衝撃は、他の方法でこの題材を表現しても演出出来なかったものだろう。

 実話に取材した映画として、極めて独創的で意欲的な作品である。

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