『恋するヴァンパイア』


原作、脚本&監督:鈴木舞(小学館文庫・刊) / 企画&プロデュース:宮島秀司 / 撮影監督:梅根秀平 / 美術:黑瀧きみえ / 装飾:松田光畝 / ヘアメイクデザイン:Feng Qixiao / ファッションディレクター:軍地彩弓 / VFXスーパーヴァイザー:藤村光貴 / 編集:加藤ひとみ / 録音:小宮元 / 音楽:安藤ヨシヒロ / オリジナルテーマ曲&主題歌作曲:中田ヤスタカ / 主題歌:三戸なつめ『コロニー』 / 出演:桐谷美玲、戸塚祥太(A.B.C-Z)、田辺誠一、大塚寧々、三戸なつめ、チェ・ジニョク、モン・ガンルー、イーキン・チェン、柄本明 / 配給:PHANTOM FILM / 映像ソフト発売元:TC ENTERTAINMENT
2015年日本作品 / 上映時間:1時間42分
2015年4月17日日本公開
2015年12月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://love-vampire.com/ ※閉鎖済
TOHOシネマズ新宿にて初見(2015/04/20)


[粗筋]
 キイラは台湾と日本のヴァンパイアのあいだに生まれた。祖父が開発した薬で不老不死の状態を捨て、人間と同じように年を重ねていく生き方を選んだ夫婦は、それ故にキイラが吸血衝動を抑え込めるまで外出を禁じる。
 しかしある日、庭でウサギを追いかけるうちに抜け穴を見つけたキイラは、外の世界で哲という少年に出会い、一目で恋に落ちてしまった。キイラは森のツリーハウスで哲と会うことを楽しみにするようになる。
 だが、別れは突然に訪れた。人間と共存しようとしていたキイラの一家は他のヴァンパイアによって狙われており、キイラの留守中に両親が殺されてしまった。祖父の宗二郎(柄本明)に辛くも保護されたキイラは母の妹にあたるまりあ(大塚寧々)とその夫・力彦(田辺誠一)に引き取られ、彼らがパン屋を営む横浜で暮らすようになり、哲と離ればなれになってしまう。
 月日は流れ、叔母夫婦のもと、パン職人を目指して働いていたキイラ(桐谷美玲)は、訪問販売にやってきた気弱な青年が成長した哲(戸塚祥太)であることに気づく。奇しくもキイラと時を同じくして両親を殺害された哲もまた親戚に引き取られた哲は、すっかり覇気を失っていた。
 かつて哲の演奏する歌に励まされてきたキイラは、彼に自信を取り戻して欲しいと考えた。そこで、フェスの一環として開催された新人歌手発掘オーディションに無理矢理哲を引っ張り出す。最初こそ戸挙動不審だった哲だが、キイラの応援とナツ(三戸なつめ)のサポートで見事な演奏を披露した。
 こうして哲との再会を果たしたキイラだったが、そんな彼女に、両親を襲ったヴァンパイアたちの魔手が迫りつつあった――


TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル外壁のデジタルサイネージに表示された作品ポスター。
TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル外壁のデジタルサイネージに表示された作品ポスター。


[感想]
 良くも悪くも“少女漫画”である、それも少々古い類いの。
 ヴァンパイア、という題材はもはやファンタジーやホラー系のフィクションではお馴染みで、それ故にこの設定を用いる場合はどの作品も何かしらのひねり、工夫を凝らすのが普通になっている。『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のようにあえて基本設定に全く手をつけず現代社会に投げ込むスタイルもあれば、SF的趣向を取り入れてスタイリッシュを極めた『アンダーワールド』のようなやり方、ほとんどの欠点を意識的に省きつつ少女漫画的に昇華した『トワイライト』シリーズのような作り方もある。
 本篇は、ヴァンパイアの基本的なモチーフを押さえつつも、あまりに都合の悪いところは外して少女漫画的な組み立てをする、という趣向を選択している。それ自体は決して悪くないのだが、残念ながら、あらゆる点で思慮に欠けており、説得力が著しく欠如している。
 この設定を省いたり、こういう設定を付け加えることでこの展開を作り出したかったのだろう、ということは察せられる。しかし、思いつきをそのまま機械的にはめ込んでいるだけなので、そのほとんどがドラマとしての高揚感を生み出せずに終わっているのだ。
 特に引っかかるのは、ヴァンパイアというモチーフが持つ制約を、安易に取捨選択していることだ。人間と同じように老いることで人間世界に溶け込む、という道を選択しているのに、恋に落ちた人間は必ずヴァンパイアにしなければいけない、という条件をつける理由が解らない。仮に“秘密を守る”という理由ならば、キイラの友人となるみき(モン・ガンルー)には軽々しく正体を教え、保護者も許容している点と噛み合っていない。既に日光は克服、十字架も問題はなくなっているのに、許可が得られなければ屋内に入れない、という設定だけ残しているのも、その状況でかわいさを演出しようとするあざとさが見えてしまって収まりが悪い。
 こうした組み立てのつたなさは、ヴァンパイアが絡まないところにも露呈している。顕著なのが、物語の序盤で親しくなるみきとのエピソードだ。なぜか明確な理由もないままにキイラがヴァンパイアである、という事実を知る友人、という位置づけに入ってくるだけで、彼女はほとんどヴアンパイアにもキイラの恋愛にも絡んでこない。とりあえずこういう友人を設定として用意して、無理矢理にエピソードを入れて、とりあえず見せ場っぽくしてみた、という感があまりにも強いのだ。不幸な登場をした彼女は最終的にとりあえず幸せを手にするのだけれど、それすら取って付けたようで浮いてしまっている。
 恐らく本篇の作り手は、こんなシーンが欲しい、女の子が憧れるようなシチュエーションを盛り込みたい、という願望を可能な限り作品に詰めこもうとしたのだろう。それ自体は悪いことではないし、確かに要素ひとつひとつに注目すれば魅力的なのだが、それらの魅力を引き出すためには布石が必要だ。本篇は全般に、その設定、シチュエーションを活かすための準備が足りていない。だから、華やかではあるが中身を感じさせないのである。
 ただ、映像そのものは華やかで愛らしく、思う以上に観ていられる。小道具やセット、画面の装飾に至るまでポップな可愛らしさに満ちていて、終始目を楽しませてくれる。監督は中国で作劇を学んだそうだが、その人脈を活かしたのか台湾や韓国からもフレッシュなキャストを招いており、メインの桐谷美玲、戸塚祥太も含めみんな眩しいくらいにキラキラしている。映像の統一感と、キャストの持つ華だけは全面的に肯定できる――が、だからこそ、それがストーリー的に活きていないことがなおさらに惜しまれる。
 正直なところ、カワイイで丹念に彩られた世界観とヴィジュアルぐらいしか際だった魅力がない。絵として観ているのは楽しいが、どんな角度であれ、フィクションを掘り下げて鑑賞するようなタイプのひとにはかなり辛い出来映えだと思う。私自身、最初のときはそこまで気にならなかったはずなのだが、感想を仕上げるため久しぶりに見返してみたところ、思っていた以上にキツかった。物語へのこだわりや絵作りの丁寧さは評価できるので決して悪い印象は持ってないのだが、映像自体や桐谷美玲、戸塚祥太などメインキャストのファンというのでもない限り、何度も楽しむのは難しいと思う、本当に申し訳ないけど。


関連作品:
誰かが私にキスをした』/『ロボジー』/『アマルフィ 女神の報酬』/『恐竜超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』/『許されざる者(2013)
アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』/『トワイライト~初恋~』/『デイブレイカー』/『ブラッディ・パーティ』/『モールス』/『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア

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