『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

TOHOシネマズ上野の入っているフロンティアタワー、1階壁面にあしらわれた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』作品ヴィジュアル(2020/9/17撮影)。
TOHOシネマズ上野の入っているフロンティアタワー、1階壁面にあしらわれた『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』作品ヴィジュアル(2020/9/17撮影)。

原作:暁佳奈(KAエスマ文庫・刊) / 監督&絵コンテ:石立太一 / 脚本:吉田玲子 / 世界観考証:鈴木貴昭 / 企画プロデューサー:八田英明 / 製作:八田陽子、古田陽子、西出将之、井上俊次、鶴岡陽太 / 演出:山村卓也、澤真平、太田稔、小川太一、石立太一 / キャラクターデザイン&総作画監督:高瀬亜貴子 / 色彩設計:米田侑加 / 美術監督:渡邊美希子 / 3D美術:鵜ノ口穣二 / 撮影監督:船本孝平 / 3D監督:山本倫 / 音響監督:鶴岡陽太 / 編集:重村建吾 / 音楽:Evan Call / 主題歌:TRUE『WILL』 / 挿入歌:茅原実里、TRUE / 声の出演:石川由依、浪川大輔、子安武人、木内秀信、戸松遥、遠藤綾、内山昂輝、茅原実里、水橋かおり、佐藤利奈、遠藤大智、八十川真由野、松元惠、中田譲治、麦人、間宮康弘、三瓶雄樹、原島梢、桜木可奈子、齋藤綾、引坂理絵、諸星すみれ、宮本充、篠原恵美、京田尚子、川澄綾子 / アニメーション制作:京都アニメーション / 配給:松竹
2020年日本作品 / 上映時間:2時間20分
2020年9月18日日本公開
公式サイト : http://www.violet-evergarden.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/09/19) ※舞台挨拶ライブビューイング付き上映


[粗筋]
 ライデンシャフトリヒにあるC.H郵便社で、客の要望に応じてどこへでも出張し、その言葉を手紙としてしたためる代書屋――通称“自動書記人形”として勤める少女ヴァイオレット・エヴァーガーデン(石川由依)には、過酷な過去があった。
 孤児だった彼女は海軍大佐ディートフリート・ブーゲンビリア(木内秀信)によって拾われ、武器として使われることを前提にディートフリートの弟である陸軍少佐ギルベルト(浪川大輔)に託された。心優しいギルベルトによって読み書きを教えられた一方、戦闘技術も叩き込まれたヴァイオレットは“兵器”としての役割を果たすが、決戦の日、彼女の目の前でギルベルトは銃弾に倒れた。ヴァイオレットは彼を救おうとしたが、自らも両腕を失った挙句、ギルベルトから「逃げろ」と命じられた。
 戦後、ギルベルトの旧友であるクラウディア・ホッジンズ(子安武人)が身柄を引き受けたヴァイオレットは、彼が営む郵便社で勤務を始めた。やがて“自動書記人形”の仕事に関心を示した彼女は、最初こそ他人の心を理解できず不十分な仕事しか出来なかったが、次第に多くのひとびととその想いに触れて成長、いつしか郵便社の“自動書記人形”のなかでトップの存在となっていた。
 だが、終戦から数年を経てなお、ヴァイオレットはギルベルトの面影を追い求めていた。様々な出来事に彼との記憶を蘇らせては、送るあてのない手紙を綴り、亡くなったギルベルトの母の墓標を、月命日のたびに訪ねている。かつて彼女を“武器”として扱おうとしていたディートフリートも、ヴァイオレットの人としての成長と、ギルベルトへの想いを認めるようになっていた。
 それは郵便社が営業を終えたあとのこと、病院からひとりの男の子が代書を依頼してきた。人気の高いヴァイオレットは3ヶ月先まで予約が詰まっていたが、男の子の理屈に言い負かされ、彼の元を訪ねる。
 ユリス(水橋かおり)の依頼は、父と母、そして幼い弟に残す手紙を書くこと。長く病気を患っていたユリスの余命は僅かだった。自分がいなくなったあと、3人が笑顔でいられるような手紙を遺したい、という。ユリスが渡せる料金は僅かだったが、ヴァイオレットは緊急措置を利用して、依頼を引き受ける。
 やがて3通の手紙が書き上がった。しかしヴァイオレットは、ユリスにまだ言葉を遺したい相手がいることを察する。だが、もう1通の手紙を書こうとしたそのとき、ユリスの容態が悪化し、ヴァイオレットは病院を離れざるを得なくなった。
 郵便社に戻り、溜まった業務に着手したヴァイオレットに、突然、驚くべき一報が届いた――


[感想]
 2018年にテレビシリーズのかたちで綴られ。翌年には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-』として劇場でも語られたヴァイオレット・エヴァーガーデンの物語は、本篇で完結となる――今後、また番外篇が登場しないとも限らないが、少なくとも、ヴァイオレットという女性の旅路の、決着がここにあることは確かだ。
 実のところ、個人的には違う展開のほうが望ましい、と考えていた。このシリーズにおいて、ヴァイオレットがずっと抱えていたある“言葉”は、しかしそれ故に強い呪縛でもあった。その呪縛と折り合いをつけ、そこから生きていく道を見つけることが、本当に彼女を解放する道筋だった、と思う――そしてそれは、本篇を制作した京都アニメーションを襲った悲劇に対するひとつの区切りともなり得る。
 だが、恐らくはスタッフもそれを承知の上で、この道を選ばなかった。
 観終わったいまは、それが正しかった、と私も信じる。
 恐らく、もともとこのシリーズが睨んでいた結末は、本篇のとおりなのだろう。だから、敢えて道を逸れることなく、このゴールを目指した。
 携わるスタッフ全員の胸に去来するものは少なからずあったはずで、その片鱗のようなものは、結末へと導くための新たな登場人物、ドラマのなかに垣間見える。
 たとえば序盤、ギルベルトに代わるかたちで彼の母の月命日に墓参を重ねるヴァイオレットと、ギルベルトの兄ディートフリートとのやり取りが象徴的だ。かつては彼女を“武器”としてギルベルトに託し、戦争が終わってもなお忌まわしいものとしてヴァイオレットを捉えていたディートフリートは、しかし“自動書記人形”として経験を積み、ギルベルトの想いを代弁するように墓参を重ねる姿に、ようやく認識を改めていく。現実や変化を受け止めるのに時間がかかる、というのは、偽らざる心境なのだろう。
 そしてやはり特筆すべきは、難病を患った少年ユリスのエピソードだ。長い入院生活の甲斐なく、死期が間近に迫ったことを悟ったユリスは、自分がいなくなったあと、家族に届くよう手紙の代筆をヴァイオレットに依頼する。自分がいなくなったあと、笑顔でいてもらえるような手紙を遺したい――というのは、ずっと死と向き合ってきた少年ならではの発想であり、同時にそれはヴァイオレットの胸に刻まれた想いとも共鳴する。それでもなお、露わに出来ない想いを抱えるユリスに見せるヴァイオレットの気遣いは、やがて彼女自身が迎えるクライマックスへも結びついていく。
 この作品にははじめから、ひとが決して避けることの出来ない出会いと別れ、生と死が常に揺らめいている。去るひとの想い、送るひとの心情、そのあいだにやもすると生まれるすれ違いや断絶を埋める手段としての手紙に焦点を当て、その代筆、という立ち位置でヴァイオレットは多くのひとびとのドラマに関わっていく。たとえメッセージを発信した者が消えたとしても、その言葉は残り、誰かを時として縛り、時として励まし、時として突き動かす。
 第三者のそうしたドラマに繋がってきたヴァイオレット自身の物語のラストは、彼女自身の背負ってきたものと向き合うのは、それ故に至極当然の成り行きでもある。個人的に、別の流れを期待してはいたが、本篇の辿った道筋は、作品のテーマに正面から向き合い、作品に携わった誰もが――完成を確かめることの出来なかったひとびとも含め――納得のいくものを目指した結果だろう。
 正面から向き合う、という意味では、本篇は表現のほとんどがその姿勢を貫いている。演出に奇妙な衒いはなく、率直に感情を描き出すことに努めていることが窺える。そして声優の演技にも、本篇は過剰な作り物っぽさがない。中盤以降の展開は極端なほど感情を露わにする場面が多いが、時として聞き取れないくらいに声を嗄らし、上ずらせ、しゃくり上げている。公開時のイベントで監督は「感情が乗った演技を採用した」「仮に口が合わなくても、絵の方を調整するつもりでいた」とまで語っていた。アニメ映画、しかもテレビシリーズで既にエピソードをたっぷりと紡いできた作品としては異例の2時間20分という尺も、間が生み出す情感を捨てなかったが故だろう。
 そうしてヴァイオレットが辿った最後の旅路を、プロローグとインターヴァル、そしてエピローグとして挿入される、数十年後の視点で語る、というスタイルはやや凝った趣向とも取れるが、だがこれも実はテーマとの真摯に対峙したからこその宣託だろう。直接的ではなく、細部も曖昧にぼかされているが、しかしその描写の端々に、確かにヴァイオレットや、彼女に関わったひとびとの面影が刻まれている。シリーズ最後の語り手であるデイジー・マグノリア(諸星すみれ)の目を通して描かれるヴァイオレットやC.H郵便社の痕跡は、観客の想像を喚起せずにおかない。
 本篇は冒頭でヴァイオレットの過去を織り込み、様々な形で彼女が歩んできた道を語るので、テレビシリーズや外伝を鑑賞しなくとも楽しめるだろう。しかし、このクライマックスに徹底的に浸りたいなら、きちんとテレビシリーズから鑑賞することをお勧めする。その名前どおりに“人形”のようだったヴァイオレットが、ひとりの女性としてその想いを昇華させるラストが、より沁みてくるはずだ。


関連作品:
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-』/『映画 けいおん!』/『聲の形』/『リズと青い鳥』/『若おかみは小学生!
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