青い蛇 十六の不気味な物語

青い蛇 十六の不気味な物語 『青い蛇 十六の不気味な物語』

トーマス・オーウェン/加藤尚宏[訳]

Thomas Owen“Le Libre Noir des Merveilles (extraits II)”/translated by Naohiro Kato

判型:文庫判

レーベル:創元推理文庫

版元:東京創元社

発行:2007年5月11日

isbn:9784488505031

本体価格:660円

商品ページ:[bk1amazon]

 ベルギーで活躍した幻想小説トーマス・オーウェンの作品群より厳選した傑作選、『黒い玉』に続く第二弾の文庫化。男女の儚い出逢いを描いた『甘美な戯れ』、戦時中の奇縁を描く『城館の一夜』、迷い込んだ土地で目撃した異様な情景『雌豚』、気紛れから始まった残虐な遊びの顛末『黒い雌鶏』、失った愛する者への慕情がかたちとなる『鏡』など全十六篇を収録する。

 これこそまさに“幻想文学”というべき作品集である。ホラーと呼ぶには恐怖に届かず、けれど不気味さと異様さについては極上の洗練ぶりが堪能できる。

 いずれも紙幅は手頃ながら、そこに籠められている意図の深遠さに対して説明を最小限に絞り込んでいるので、解り易く恐怖を実感したいという人には向かない。『鏡』のように直截なサプライズを用意したものもあるが、丹念に吟味してこそ楽しめる作品が多いのだ。

 他方、発表年代の古さに対して、あまり古びた印象を感じない。古い幻想小説と言うとシンプルな怪人や幽霊の登場を想起するが、幽霊を出すにしても一捻りがあり、やたらに因果や動機を演出しようとしていないためだろう。『城館の一夜』のサプライズのアイディアなど、とうに手垢はついているが、しかし近年でも切り返し用いられているものをシンプルに効果的に扱っているので、昨今の半端なホラーなどよりも衝撃は鮮烈だ。

 人物像を際立たせるのではなく、文章の流れと空気によって引っ張っていく手法が昨今の主流と食い違っているが、こういう味わいもあるのだと思い出させてくれる作品集。すっかり傾向が偏りつつある昨今に、刊行されていること自体が嬉しい。

コメント

  1. 冬野 より:

    深川さん。値段、値段!(;´Д`)ノ

  2. tuckf より:

    ああっ。

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