『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』

監督:三池崇史 / 脚本:三池崇史NAKA雅MURA / 企画:中沢敏明 / エグゼクティヴプロデューサー:遠谷伸幸 / 製作統括:佐野哲章 / 撮影監督:栗田豊通 / 美術:佐々木尚 / 照明:鈴木秀幸 / 録音:中村淳 / 編集:島村泰司 / 装飾:田口貴久 / 衣装:北村道子 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:北島三郎『ジャンゴ〜さすらい〜』(日本クラウン) / 出演:伊藤英明佐藤浩市伊勢谷友介木村佳乃香川照之桃井かおり安藤政信堺雅人小栗旬田中要次石橋貴明石橋蓮司塩見三省松重豊クエンティン・タランティーノ香取慎吾 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2007年作品 / 上映時間:2時間1分 / 英語・日本語

2007年09月15日日本公開

公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/sukiyakiwesterndjango/

TOHOシネマズららぽーと横浜にて初見(2007/09/20)



[粗筋]

 ……壇ノ浦の戦いから数百年を経た、とある山間の寒村・湯田村での出来事である。

 源氏の世となって久しいなか、ある土地で平家落人の隠し財産が発見されたことを契機に、各地で発掘ブームが起きていた。やはり平家の末裔によって構成された湯田村においても例外ではなく、ならず者が大挙して手当たり次第に土地を掘り返していく。

 やがて現れた、平清盛(佐藤浩市)を頭領とする平家の末裔たちは、他のならず者を追い払いはしたものの、結局彼らもまた隠し財産を求めて村に居座り、村人たちを酷使して発掘を続けさせた。逆らい続けた村長(石橋蓮司)は村の門代わりの鳥居に吊され、保安官(香川照之)はあっさりと清盛に与し、寒村は恐怖によって支配される。

 しかし清盛たちの天下も長くは続かなかった。引き続き現れた、源氏の血を嗣ぐ源義経(伊勢谷友介)らの一群は、力任せの清盛たちを優れた武芸によって圧倒し、湯田村での勢力図は瞬く間に書き換えられる。

 義経たちは清盛たちを追い出すことはしなかった。彼らに発掘を続けさせ、いざ財宝が見つかった暁には掠め取る腹でいるのである。多くの仲間が殺害され、安住の地でなくなった湯田村を、村人たちは捨ててよそへ旅立っていった。力によってねじ伏せられながらも、気概だけは人後に落ちない清盛は反撃の機会を待っている。かくて湯田村は、僅かな村人を残して、源氏と平家が睨み合う危険地帯に成り果てていた。

 そこへ、ふらりと訪れたガンマン(伊藤英明)がひとり。源平に挟まれた彼は、「用心棒は要らないか」と呼びかけ、義経方のボウガン使い・与一(安藤政信)が侮って放った一撃をあっさり受け流し、驚異的な拳銃捌きを見せつける。彼の存在が勢力図を左右する、と悟った両軍はそれぞれに好条件を提示するが、そこへふらりと容喙した女が、ガンマンを連れ去っていった。

 女の名はルリ子(桃井かおり)。この地に踏み止まった数少ない村人のひとりで、雑貨屋を営みながら、幼い孫・平八(内田流果)とともに暮らしている。実は平八の母親・静(木村佳乃)は源氏の出であり、町でルリ子の息子・アキラ(小栗旬)と結ばれてこの地にやって来た。だが、アキラは清盛に反抗した挙句に、静と平八の目の前で惨殺された。平八はそのショックで言葉を失い、静は前々から彼女に懸想していた清盛によって犯されそうになったのを命からがら逃れ、今は義経の愛人となって復讐の機会を窺っているという。

 ルリ子からその話を聞かされたガンマンは、何を思ったか源氏の塒とする酒場に赴き、静を引き取りたいと言い出す。やはり静に横恋慕する与一が激昂するが、それを容易くあしらったガンマンに、義経はあっさりと静を譲り渡す――しかしこのときから、複数の思惑が絡みあった、血で血を洗う争闘の幕が切って落とされたのである……

[感想]

 早撮りで知られる三池崇史監督が自ら企画に携わり、慎重を期しつつも大胆に作りあげた作品である。舞台は日本だが小道具はウエスタン、タイトルロールや一部のモチーフには日本語を使いながらも会話は大半が英語で行われるという異様なスタイルが興味を惹く。

 ただ、率直に言って、日本的なモチーフと西部劇の小道具の融合の仕方がいまいち雑な印象を受けた。確かに建物の外観は日本家屋であるし、源平の装束はウエスタンに倣いつつも細かく時代物を彷彿とさせる装飾を付け加えている。源氏方の大将・義経の持論は単純に戦士=サムライとする外国人の見方に囚われず、“もののふ”という言葉を使って深化させている点は評価したいが、しかしモチーフの組み立てにしてもアクションにしても、西部劇の王道を逸脱していないがゆえに、結局は「日本人がウエスタンの真似事をしている」程度にしか見えなくなってしまっている。

 クエンティン・タランティーノが伝説のガンマンとして登場し、力強い早撃ちを披露する冒頭こそ、その美術のセンスなどに異様なものを感じさせて、私のような屈折した嗜好の持ち主を興奮させてくれるが、いざ本編に入るとストレートなウエスタンに見えてしまって、やや興醒めしたことは否めない。

 ウエスタンを象徴する記号に日本的なモチーフを填め込んで奇妙な雰囲気を醸し出す工夫もあるが、目立っているのがタンブルウィードを樽に置き換える遊びくらいのもので、棺は横倒し、墓標も十字架のままと、いちばん遊び甲斐のあるところを放置しているのは頂けない。棺を出さねばならない理由はちゃんとあるとはいえ日本にも寝棺や座棺が存在するし、十字架など、それこそ卒塔婆に換えればユニークだっただろうに。全般にそんな感じで、折角遊べるのにいまいち針が振り切れていないのが勿体ない。

 ただ、そういうものだ、と割り切って、登場するモチーフを虚心に受け入れると、これほど愉しい日本映画もちょっと珍しい。ひたすら意外な方向へ転がっていくために読めない展開もさることながら、きちんと確立されたキャラクターの存在感が見事である。とりわけ板挟みになるあまり二重人格になってしまい、最後まで本編のコメディ部分を支える保安官、また如何にも豪傑らしい活躍のあとでまったく意外な成り行きを見せる弁慶などは、鑑賞後も鮮烈な印象を残す――後者はその変化が終盤の展開に奉仕していないのが勿体ないが。

 ウエスタンという土台の上に、日本ならではの武士道であったり、戦いを巡る信念や矜持、業の深さや欲望などを克明に描き出している点でも出色である。何処かがツボに嵌ったら最後、ずっと昂揚した気分を味わえるはずだ。

 惜しむらくは、肝心の主人公であるガンマンよりも義経のほうが芸達者なところを披露し、最終的には桃井かおり演じるルリ子が最も華麗な存在感を示してしまい、主人公がかなり霞んでしまっていることだが、そうした歪さもまた愉しさに繋がっている。物語の中ではちゃんと筋を通しつつも、理屈を忘れるほどに面白い、という感覚の味わえる本編は、隙のない作品ではないにせよ、優秀な娯楽作品であることは間違いない――楽しめるか否かは素質によって大いに左右され、合わないと反吐が出る危険もあるにせよ。

 何にしても、日本を愛してくれているタランティーノが、ある意味で奇妙な“日本人”になりきっている姿を拝めるというだけでも、マッドな映画ファンがいちど観る価値はある、と思う。人生愉しそうだこの人。

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