『ライジング・ドラゴン(字幕)』

角川シネマ新宿、エレベーター脇に貼られたポスター。

原題:“十二生肖 Chinese Zodiac” / 監督、脚本、製作、撮影、美術監督、アクション演出、スタント&主演:ジャッキー・チェン / 脚本:スタンリー・トンエドワード・タン / 製作:バービー・タン / 撮影:ン・マンチン / 美術製作:オリヴァー・ウォン / イメージ美術:トーマス・チョン・チーリョン / 編集:ヤウ・チーワイ / 音楽:ロク・チェン、ネイサン・ワン / 出演:クォン・サンウ、ジャン・ランシン、ヤオ・シントン、リアオ・ファン、ローラ・ワイスベッカー、アラー・サフィ、オリヴァー・プラット / 配給:角川映画

2012年中国、香港合作 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:林完治

2013年4月13日日本公開

公式サイト : http://rd12.jp/

角川シネマ新宿にて初見(2013/03/23) ※世界の果てまでイッテJ!朝までジャッキー・ナイト!!にて鑑賞



[粗筋]

 中国にかつて存在した絢爛たる庭園には、広壮な噴水と、それを飾る十二支の首像があった。だが第二次アヘン戦争の際、庭園はイギリス軍に破壊、掠奪の限りを尽くされ、首像も各地へと散らばってしまう。

 近年、これらの十二支の像がしばしばオークションにかけられ、その落札額は年々うなぎ登りに上昇している。これに目をつけた古美術品仲介会社MP社が、まだ確認されていない像の発見と回収を目論んだ。

 この仕事を任されたのが、JC(ジャッキー・チェン)である。世界各地を股にかけるトレジャー・ハンターである彼は、ちょうど“薔薇”の名画を追っているところだったが、高額のギャラを提示され、仕事を引き受けた。サイモン(クォン・サンウ)、ボニー(ジャン・ランシン)、デヴィッド(リアオ・ファン)らスタッフを伴い、JCが赴いたのはフランス・パリ。

 まずJCは、世界的に名を知られるテレビ局の名を騙って考古学者に接触、首像の模型のスキャンを行うと、美術品蒐集家の居城に潜入、保管されている首像2つと、一緒に発見した“薔薇”の絵画もついでに首尾よく盗み出す。だが、厄介なことに、逃走中のところを、掠奪によって母国から流出した遺物の返還運動に従事する女性ココ(ヤオ・シントン)に見つかってしまった。

 一緒に警察によって捕まったJCは、自分も遺物を祖国に取り戻すために働いている、とココに偽り、彼女の協力を仰ぐ。ココを伴い、ついでJCが訪ねたのは、かつてアヘン戦争で中国に進軍し、遺物を掠奪した貴族の後裔であるキャサリン(ローラ・ワイスベッカー)の屋敷。飾られていた首像を模造品とすり替えて奪うと、屋敷の資料をもとに、奪った美術品と共に船が沈んだと思しい海域を特定すると、ココに続いて加わったキャサリンも伴い、JCはふたたび海を越える――

[感想]

サンダーアーム/龍兄虎弟』『プロジェクト・イーグル』に続く、“アジアの鷹”シリーズ第3作、というのはファンのあいだでは既知の事実だが、作中、この点については言及がない。そもそも、“アジアの鷹”という名称が使われるシーンも、私が覚えている範囲では皆無に等しかった。“アジアの鷹”シリーズであることを押し出さない、というのが制作側の意図としてあるようで、宣伝も特に言及はしていない。恐らく、シリーズである、ということに注意を惹きつけて、シリーズ旧作を観ていない観客の足が遠のくのを危惧したのだろう。

 しかし実際のところ、ジャッキー演じる主人公の人物像や世界観は繋がっているが、内容的には何らリンクしない。仮に前述の作品を観たことがない、或いはまったく知らない、というひとでも、何の問題なく楽しめるはずなので、あくまで知識程度に押さえておくだけでいいだろう。

 だが、本篇を観たあとで旧作を鑑賞したなら、きっと驚くはずだ。容貌が老けたのは間違いないし、映像は美しく洗練され、登場するガジェットは携帯電話にコンピューターと、大きく様変わりした。しかし、ジャッキーの挑むアクションの華麗さ、ダイナミックさに、スタントの激しさ、危険性はまったく衰えていない――それどころか、更に激しくなり、完成度が増しているのが解るはずだ。

 これについては、公開されるずっと前からネットなどでしばしば露出してきた、全身に装着したローラーブレードでカーチェイスを繰り広げる映像からなんとなく察している、というひとも多いだろうが、恐ろしいことに、あれが序の口でしかない。単純に道路を猛スピードで走るだけでなく、トラックの下や脇をすり抜け、バイク相手に格闘を繰り広げる。かなり新しいこういうアイテムをあっさり取り込み、これほど過激に用いてしまうのも驚かされるだが、以降のアクション・シーンの質、量の著しさに、終始圧倒されるはずだ。

 率直に言えば、話作りはあまり巧くない。状況の連携がいまひとつ観客側に伝わらず、しばしば事態がどういうふうに展開しているのか飲み込めなくなる。また、本篇では掠奪を受けた遺物の返還運動というものに焦点を当てているが、どうもジャッキー本人がこの問題の微妙さを自覚していないのか、どうも迂闊に承服しづらい話運びをしている。確かに、暴力でもって奪われたものは本来あった場所に戻すべき、という理屈は解るが、長い歴史のあいだにそれがどんな過程を経て現在の持ち主に移っていったのか正確なところを判じることは出来ないし、どんな成り行きであれ、正式な取引で古物を手にした人物から無理矢理奪ったり、返還を強要するのは、結局犯罪と変わりない。感情論に流されすぎて、こういう検証が必要な題材である、という点を疎かにしてしまっている。こと、いま現在、日本で似たような問題が起きているだけに、複雑な気分になるひともいるだろう。少々、配慮が乏しいのは否定できない。

 だが本篇には、そういう細かいことを抜きにして、強烈なカタルシスをもたらす力がある。それは、細かな経緯はさておき、基本的にお金を価値判断の基準にして動いているJCという人物像の明白さと、そんな彼と対照的な倫理基準で動く人物の介入や葛藤、といった具合に、やや乱れがちな柄もしっかりと盛り込まれたドラマが、アクションの激しさと軌を一にしているからだ。現在こそだいぶ洗練されたものの、かつての香港映画は、アイディアを盗用されないために、脚本を用意せずに撮影する、ということを日常的に行っていたそうで、実際、全盛期のジャッキー作品でも、撮影中に設定が変更されたり、いちど試写が行われたあとに追加撮影をしてストーリーを変更した、などというエピソードまで存在する。だが、それでもあまり意識させないのは、理屈を超えた牽引力、面白さ、興奮を追求する意欲が作品に籠もっているからだろう。

 動機はともかく、獲物を手に入れるための努力や工夫が随所で描かれ、ココやキャサリンを騙っているが故のユーモラスなやり取りで笑いを取る。更にはJCと格闘技術でも渡り合うライヴァルの登場があり、それらが束となってクライマックスの壮大なアクションに繋がっていく。即興的な映画作りに馴染んでいるからこそ、盛り上げ方の巧さは絶品だ。行動の是非はさておき、全力を尽くす姿に観る側は興奮し、結末には極上の爽快感を味わえる。

 この巧さ、力強さは、仮にジャッキー・チェン全盛期の作品に触れていなくとも味わえるだろうが、しかし本篇の凄味は、細かな描写がいちいち、ジャッキーの過去作品を踏まえていることだ。『サンダーアーム』のときから既に見せていたガムの曲芸食いはもちろん、渡り廊下などを利用した立体的なアクションや、トラブルの際に上から美女が落ちてきてジャッキーを下敷きにするシチュエーションなど、ジャッキー作品を多く鑑賞してきたひとならいちいちピンと来る描写がある。まだまだジャッキー作品を漁っている最中の私でさえそうなのだから、ずっと追い続けてきた人ほどニヤリとさせられ、感激するに違いない。ジャッキーが映画作りのなかで積み上げてきたその重みは恐らく、本篇がジャッキー初体験というひとでも実感できるはずだ。

 特に象徴的なのが、クライマックスのアクションだ。ジャッキー作品をほとんど観たことがない、というひとだと、いささか大仰すぎると感じてしまうかも知れないが、このアクションを軸とする一連のくだりこそ、ファンは唸らされるはずである。本篇は全体に、かつて演じたアクションを更に華麗に、過激に表現する、ということに執心していることが窺えるが、クライマックスこそその最たるものなのだ。しかもこの場面でのジャッキーの行動、そして顛末にも、まるで描かれている以上のドラマを感じさせる。JCがああまでして奪回したものは何だったのか。壮絶な締め括りは、まるでこれまでジャッキー・チェンが見せてきたアクションと、覚悟を観客に突きつけるかのようだ。

 直前にジャッキー自身が宣言し、広告でも大きく掲げられ、お馴染みのNG集つきのエンドロールの背景でジャッキーが自らの声でもって、「これが最後の超大作」である、と言い切っている。……実のところ、私は完全には鵜呑みにしていない。ここまで映画を愛し、自身の名前がジャンル化するほど自らの世界を掘り下げてきたひとだ。今後も小規模なアクションや、趣をがらりと変えた深みのあるドラマに出演しているうちに駆り立てられて、大きな作品を撮りたくなるのではないか、と勘繰っている。自身が出演せずとも、完全にスタイルを受け継ぐ後進が現れたなら、彼らを演出するかたちで大作に携わるかも知れない。というか、既に編集段階に入っているという次回作が『ポリス・ストーリー2013』らしく、この題名で彼が手を抜いたり、軽いアクションで済ませる、という状況は想像しづらい。

 だがそれでも、本篇には間違いなく、「これが最後」という覚悟と気迫が漲っている。たとえジャッキーに馴染んでいなくとも、アクション映画を愛するひとであれば興奮せずにいられない、そしてずっと彼の作品を追ってきたひとなら、打ち震え、いっそ感涙にむせんでしまうほどの、文字通り渾身の1本である。

関連作品:

サンダーアーム/龍兄虎弟

プロジェクト・イーグル

WHO AM I ? フー・アム・アイ?

1911

ポリス・ストーリー3

アクシデンタル・スパイ

80デイズ

火山高

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

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