『30年後の同窓会』

TOHOシネマズシャンテが入っているビルの外壁に掲げられた大看板。

原題:“Last Flag Flying” / 原作&脚本:ダリル・ポニックサン / 監督&脚本:リチャード・リンクレイター / 製作:リチャード・リンクレイター、ジンジャー・スレッジ、ジョン・スロス / 製作総指揮:カレン・ルース・ゲッチェル、ハリー・ジッテス、トーマス・リー・ライト / 撮影監督:シェーン・F・ケリー / プロダクション・デザイナー:ブルース・カーティス / 編集:サンドラ・エイデアー / 衣装:カリ・パーキンス / キャスティング:ドナ・M・ベラジャック / 音楽:グレアム・レイノルズ / 主題歌:ボブ・ディラン“Not Dark Yet” / 出演:ブライアン・クランストンローレンス・フィッシュバーンスティーヴ・カレル、J・クイントン・ジョンソン、ディアナ・リード・フォスター、ユイ・ヴァスケス、グラハム・ウォルフ / ディトゥアー・フィルムプロダクション、ゼンゼロ・ピクチャーズ/シネティック・メディア製作 / 配給:Showgate

2017年アメリカ作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里

2018年6月8日日本公開

公式サイト : http://30years-dousoukai.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2018/06/19)



[粗筋]

 2003年12月、アメリカが潜伏したフセイン大統領捜索に躍起になっていた頃。

 サル・ニーロン(ブライアン・クランストン)が経営するバーに、一見の客が現れた。ビールを注文し、味を褒めたかと思うと、男はサルに「僕を覚えてないか?」と訊ねる。

 男はかつて、ベトナムで従軍していた頃の戦友、ラリー・“ドク”・シェパード(スティーヴ・カレル)だった。再会を喜び、ひと晩飲み明かして旧交を温めたあと、ドクは不意に「見てほしいものがある」とサルに車を出すように請うた。

 言われるがままに向かったのは、リッチモンドのとある教会。とうとうと説教をする牧師を見て、サルは目を見張る。それはドクと同様、ベトナム戦争で共に戦ったリチャード・ミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)だった。ミューラーも突然の来訪に驚きながらも、旧友を快く自宅に迎える。

 3人はミューラーの妻ルース(ディアナ・リード・フォスター)を交え、歓談した。独り者のサルは、かつて“殴り屋”と称されるほど乱暴だったミューラーが、いまや娘と息子、更に4人の孫にまで恵まれ、牧師としてすっかり改心したことを盛んに揶揄する。だが、話を振られたドクが、今年のはじめに妻を喪い、つい2日前に、バグダッドに従軍していたひとり息子が戦死した報せが届いた、と聞かされて、旧友たちは言葉を失う。

 やがてドクは重い口を開いた。息子のラリー・ジュニアの遺体は今夜帰国、英雄としてアーリントン国立墓地に葬られる、という。ドクはふたりに、葬儀を手伝って欲しい、と言うのだ。はじめは断ったミューラーだが、サルの軽薄な物言いから友人を守る必要がある、と悟り、渋々ながら同行する。

 そうして、30年振りに再会した3人は、戦死した青年を葬るため、思いがけず長い旅を共にすることになるのだった……。

[感想]

 リチャード・リンクレイター監督はたぶん当代きっての、物語に時間を織り込む名手だ、と思う。出世作である『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』から始まる3部作で男女の関係の変化を、『6才のボクが、大人になるまで。』でひとりの少年が大人になっていくまでを、同じ役者によって表現し、映像に残していく、という手法を繰り返し、どちらでも成功を収めている。

 その作風を支えるのは、実感的で印象深い台詞回しである。シナリオ段階で丁寧に書き込みつつ、現場における判断や俳優のアドリブも反映して練り上げた会話劇は真に迫り、時として単なる雑談になっているにも拘わらず、登場人物たちの関係性が作る空気を濃密に感じさせて、観る者を惹きこんでしまう。丹念に練り上げているから、この会話の中に、登場人物たちの歴史が見え隠れする。“ビフォア〜”3部作や『6才の〜』は、過去から丁寧に描いているので、なおさらに観る者の共感を誘い、情感を深めている。

 対して本篇は、過去の様子を具体的な映像で見せることは一切していない。中心となる3人の男たちがベトナム戦争当時に同じ部隊に所属し、あるトラブルを契機にして30年の空白が生じたことは窺えるが、その経緯を映像で見せることはしない。しかし、その出来事自体が物語の牽引力となると同時に、随所に鏤められる他愛もない会話に垣間見える奥行きを作り出している。巧みな構成と、時間をかけたリハーサルによって練りこまれた台詞が、微温的だが不思議に聴き応えのある会話へと結びついているのだ。

 基本的には他愛もない、それでいて含蓄のある会話が描き出すのは、アメリカにおける戦争と、若者との関わりだ。

 ポイントは時代設定にある。本篇における“現在”は2003年、ちょうどイラク戦争にひとつの節目がつこうとしていた時期であり、そこで本篇の中心人物である“ドク”の息子は戦死を遂げた。ベトナム戦争を通して交流し、そのことが同時に30年にも及ぶ断絶をももたらした3人が、言ってみれば戦争によってふたたび引き合わされるのだ。そうなれば、たとえ戦場を描かずとも、それがもたらす様々な出来事に触れることになる。

 興味深いことだが、本篇は戦争をかなりはっきり“愚行”と断じ、その悲劇性を残酷な描写を抜きに抉り出す一方で、戦場に赴いた若者たち、戦争に携わる人々に対する敬意は示している。戦死した“ドク”の息子や、ふたたび戦場に赴くはずの若い兵士に対する優しい眼差し。過去の戦争により友情を築きつつも、人生の一部をはっきりと奪われた3人の男たちの姿も、哀れさを滲ませながら、決して無意味なものとして描いていない。そのことは、クライマックスの葬儀での描写に明白だ。あの描写を“戦争讃美だ”と批判するひともあるかも知れないが、あそこで肯定しているのはあくまでも彼ら自身や、儚くも命を散らしていった若者たちの人生であって、決して戦争ではない。そのことは、軽薄なサルが“ドク”にかける言葉からも窺える。

 それでもなお、彼らの生き方に納得のいかないものを覚えるひともあるに違いない。過去にせよ現在にせよ、もっと適切な生き方があったのではないか、と――もちろんそう考えるのも自然なことだ。ただ、そういう感情や思索を呼び起こすこと自体が、本篇の大きな意義のひとつであるのも確かなことだ。

 いっさい戦場そのものを見せず、決して悲劇的、悲観的に陥ることなく“戦争”というものを描ききった。繊細かつ懐の深い会話を構築し、そこに時間を織り込んでいくスタイルを確立したリチャード・リンクレイター監督だからこそ作り出せる戦争映画なのだ。

関連作品:

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』/『ビフォア・サンセット』/『ビフォア・ミッドナイト』/『6才のボクが、大人になるまで。

スクール・オブ・ロック』/『ウェイキング・ライフ』/『がんばれ!ベアーズ <ニュー・シーズン>』/『スキャナー・ダークリー』/『ファーストフード・ネイション』/『バーニー/みんなが愛した殺人者

アルゴ』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』/『犬ヶ島』/『プレデターズ』/『シグナル』/『リトル・ミス・サンシャイン』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転

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