『search/サーチ』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター。

原題:“Searching” / 監督:アニーシュ・チャガンティ / 脚本:アニーシュ・チャガンティ、セヴ・オハニオン / 製作:ティムール・ベクマンベトフ、セヴ・オハニオン、ナタリー・クァサビアン、アダム・シドマン / 製作総指揮:アナ・リザ・ムラヴィナ、イゴール・ツァイ、マリヤ・ザツロヴスカヤ / 撮影監督:ホアン・セバスティアン・バロン / ネット画面撮影監督&編集:ニコラス・D・ジョンソン、ウィル・メリック / プロダクション・デザイナー:エンジェル・ヘレーラ / 衣装:エミリー・モラン / キャスティング:リンゼイ・ワイスミューラー / 音楽:トリン・ボローデール / 出演:ジョン・チョウ、ミシェル・ラー、ジョセフ・リー、デブラ・メッシング、サラ・ソン / 配給:Sony Pictures Entertainment

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:中沢志乃

2018年10月26日日本公開

公式サイト : http://www.search-movie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/10/27)



[粗筋]

 デヴィッド・キム(ジョン・チョウ)が妻のパム(サラ・ソン)を失って3年が経った。

 デヴィッドの家族は娘のマーゴット(ミシェル・ラー)ひとりだが、ちかごろ関係がぎこちない。デヴィッドがマーゴットを叱る場面が増え、メッセージのやり取りも、娘の対応はお座なりになっていた。

 その日の朝、デヴィッドは深夜、娘から2回の着電と、フェイスタイムのコールが1回あったことに気づく。折り返し連絡をしたが、それから半日、一切の応答はなかった。

 弟のピーター(ジョセフ・リー)は、思春期の娘が連絡を断つことぐらい珍しくない、と宥めるが、デヴィッドは納得がいかなかった。ちょうどその日、マーゴットが幼い頃から母に教わってきたピアノのレッスンに当たっていることに気づいたデヴィッドは、ピアノ講師を探し出して連絡を取るが、マーゴットは半年も前に退会している、という。

 半年のあいだ、娘は100ドルのレッスン料を何に使っていたのか? いよいよ不穏なものを感じたデヴィッドは警察に捜索を依頼する。

 間もなく、捜査の主任というヴィク捜査官(デブラ・メッシング)から連絡があった。我が子の身を案じるデヴィッドに彼女は、マーゴットの交友関係を探るように請う。

 関係がぎこちなくなってから、デヴィッドは娘の友人関係については何も聞かされていない。そこでデヴィッドは娘のSNSのアカウントを探すが、奇妙なことにそのほとんどが“非公開”に設定されている。

 遂にデヴィッドは、娘が置き忘れていったノートパソコンを調べ始めた。どうにかパスワードを解放し、非公開のフェイスブックに登録されたフレンドたちに片っ端から当たっていくが、その結果判明したのは、彼女の周囲に信頼できる友人がまったくいない、という事実だった――

[感想]

 今やインターネットやSNSはすっかり私たちの生活に浸透してしまった。そのことを裏付けるように、映画の世界でも、普通にブラウザの映像や、SNSでのテキスト・メッセージのやり取りが画面上で引用されることが珍しくない。ジャウム・コレット=セラ監督の『ロスト・バケーション』では、ほぼひとり芝居に近い状況を、スマートフォンを用いたメッセージのやり取りや、記録された写真、動画を使うことで、背後にある家族のドラマを巧みに盛り込んでいる。

 だが、本篇のように全篇をPC画面の映像だけで展開する、というのは恐らく前代未聞だろう。その発想を聞くだけだと、“画面が単調になる”とか“文字情報が多すぎて観客が把握しきれない”という危惧を抱くが、本篇はそうした問題をクリアし、むしろ躍動感さえある、スリルとスピード感に満ちたサスペンスを生み出してしまった。

 手法に対する理解の深さと扱いの巧さは冒頭で既に明白だ。物語の大前提となるキム一家の事情を、生まれたひとり娘のために新たなPC用アカウントを設けるところから描き、写真や動画、メッセージのやり取りをスピーディに織り込むことで簡潔に、的確に描ききっている。娘のマーゴットが幼少からピアノを学んでいること、母パムが二度にわたってリンパ腫に冒され亡くなっていること、その出来事を経てぎこちなくなった親子関係、などが序盤だけで把握出来てしまう。

 単純にPC画面をそのまま見せるのではなく、検索する際はテキストウインドウを拡大し、メッセージはリアルタイムの部分にクローズアップする。ビデオ通話が主体となる場面ではやはりビデオウインドウを大きく見せ、並行して届いたメッセージや通話があればカメラを引くかたちで示し、複数の出来事が同時進行であることを解り易く、そしてテンポよく表現する。スタッフたちの高いセンスと、物語に対する理解の深さが窺える作りだ。

 この先進的な手法で描き出される物語は、しかし意外なくらい正統派のサスペンスだ。友人関係を探るうちに浮かび上がる、娘が親に隠していた一面。犯罪の影がちらつきはじめ、やがて新たな局面を迎えると、様々な疑惑が浮上する。信じていたものが崩れていき、娘の行方がいつまでも掴めない父親は次第に半狂乱になっていく。事態が進むに従って、周囲の言動、態度が変わっていくプロセスも汲み取り、重層的な人間心理も垣間見せる。

 話が進むごとに、ニュース番組を“ネット配信”という体裁でPC画面の一部扱いして登場させたり、ある経緯から隠しカメラを用いた映像を加えたり、他にも更にアクロバティックな手法で劇中の出来事をPC画面上に取り込んでいるが、基本的に無理矢理、という印象を与えない工夫はされている。妙な違和感に遮られることなく、物語の勢いに身を任せていられる。終盤のスピード感など、極めて限定された画面上で展開している、とは終えないほどだ。

 画面のあちこちにちりばめた伏線を拾いながら、物語は劇的なクライマックスへと到達する。そのドラマ性の高さも出色だ。このシチュエーションならではのエピローグの組み立ても印象深く、感動的だ。

 表現のアイディアも秀逸だが、それを活かすセンスと、堅実かつダイナミックな語り口。あまりに特異な手法が偶然にポテンシャルを最大限引き出すことに成功した可能性もあり、即断は避けたいが、ひとまず今後も注目してみたい、と思わせる才能の閃きを見せつける1本である。

関連作品:

アポロ18』/『リンカーン/秘密の書

トータル・リコール(2012)』/『プロフェシー』/『ワイルド・スピード SKY MISSION

パラノーマル・アクティビティ』/『ゴーン・ガール』/『白ゆき姫殺人事件』/『ロスト・バケーション

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