Part01―失せもの

 新年早々、妹が慌ただしく買い物に出かけていった。どこまで? と訊いても「ちょっとだけ〜〜」としか応えず、玄関先でスキップを踏むように靴を履いて家を飛び出す。

 これ幸いとばかりにリビングのテレビを占領して、昼過ぎまで目が腐りそうなほどゲーム三昧していたら、ようやく帰ってきた。

「あ〜、吃驚した」ほ、っと溜息を吐きながらマフラーを外すと、ぼふ、と人の横からコタツに足を潜らせる。「あ、勝手にひとのゲームやってる。ひとこと断ってよ」

「どうこういう前に出かけてったじゃないかよ。なに買いに行ってたんだ?」

「ん、これ」

 妹はもぞもぞ、とコタツに潜らせていた腕を蠢かしたかと思うと、ずる、とコタツ布団の下から電化製品店のビニール袋を引っ張り出した。どっから出してんだよ、と突っ込む前に、コントローラーを構えていた僕の手に投げ出してきたので、渋々開封する。出て来たものを見て、僕は目を丸くした。

「……携帯の電池? 僕はこんなもの必要ないぞ」

「お兄ちゃんじゃないよ、あたしの」

「お前のだって、へたるほど使ってないだろ。買い換えて半年経ってないじゃないか」

「そうなんだけどー……」妹は肩を竦めて、ぺろ、と舌を見せる。「携帯の充電器、失くしちゃったみたいなんだ」

 いまの仕種はけっこう可愛かったぞおい、と考える一方で、なんでか妹の台詞が腑に落ちない。フリーズ状態になった僕に対して、妹は続けて訴える。

「お正月ぜんぜん遊びに行けなかったからさ、週末いっしょにどこか行こうって行ってたでしょ? でも、久し振りに携帯電話見たら、なんか電池のマークが点滅してたから……あ、このままじゃ向こうで迷子になったら困る! って思って、急いで買いに行ったんだよ〜……」

「……別に、いまから自分が迷子になったときの心配しなくても」

「だって……くっついて歩いたら怒るでしょ?」

 怒っとかなきゃこっちの箍が外れるだろが、と叫ぶ一歩手前でかろうじて留まって、僕は静かに確認した。

「……携帯電話の充電器、が、見つからないんだよな?」

「うん、そだよ」

「だったらなんで、充電器を買ってこないんだ……?」

 ……あ、と気の抜けたような声が妹の口から漏れるまで数十秒を費やした。

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