『ふりむいてはいけない』
判型:文庫判 レーベル:ハルキ・ホラー文庫 版元:角川春樹事務所 発行:2005年7月18日 isbn:4334738893 本体価格:580円 |
|
現代実話怪談の雄・平山夢明氏が雑誌『popteen』に連載していたものに、掲載文を上回るページ数の書き下ろしを追加して纏めた新作怪談集。映画館で後ろ向きに座る女、ドライブ中豹変する彼氏、友達の家に出没する小さな女の子……などなど、若い女性の体験者から蒐集したエピソードを中心に収めている。
久々のハルキ・ホラー文庫からの新刊、しかも女性雑誌連載分の単行本化、と聞いて咄嗟に『つきあってはいけない』と同系統のものを想像したのだが、似ているのは十代〜二十代くらいの女性の話のみを集めている点ぐらいで、あちらが『東京伝説』シリーズ寄りなら本書は『『「超」怖い話』寄りのエピソードばかりになっている。 しかし、取っかかりはいずれもほぼ同じだ。まず男女交際があって、デートなどの過程で何らかの怪異に遭遇する。きっかけが相手にあった場合、たいていそれが原因で別れ、体験者は何らかのトラウマを訴える。多くの体験者から話を採集していると思われるのだが、こうしたアウトラインが一致している。こうした類型化は、『「超」怖い話』シリーズではあまり見られなかった現象であり、対象を絞った途端に顕現化してきたのがちょっと興味深い。 恐らく、女性雑誌の連載ということを考慮して、はじめからバイアスがかかっていたはずだ。相手は『「超」怖い話』に『新耳袋』はすべてチェックし、出来の想像がつきそうな安っぽい怪談本にまで手を出しかねない中毒者ではなく、流行のファッションやライフスタイルのほうに興味のある女性読者であることを考えればそれも当然の配慮だろう。勢い、話のほうにも上記の特徴のみならず、要素に類書よりも顕著なパターン化が認められる。 一方で、あまりに類型的に過ぎて、果たして本当に実体験なのか、都市伝説を自らの体験のように消化して語っているのではないだろうか、と疑いを抱きたくなる話も幾つかある。都市伝説は構造的に話者の友人の友人、縁者の知人といった具合に体験者が特定しづらいのが普通だが、それを自分に置き換えてある程度の実体験を盛り込めば、自らの経験した恐怖譚として格好がついてしまうわけで、そこに若干の独自性とリアリティが見出されれば、実話として受け入れられてしまう―― そうして“創作”が混入した危険を(他の類書以上に)感じさせてしまう作りだが、それは必ずしも著者の責任ではないし、またこうしてバイアスをかけながら話を集めたことによって、この世代の体験談にある特徴がほんのりと浮き彫りにされているのが本書の読みどころとも言える。すべて超現実的な出来事であるはずなのだが、道行きや結末の手触りが『東京伝説』に似通っているあたりも面白い――というより、この辺は平山氏ならではのテイストと言うべきか。 本書は前半「雑巾のように……」までが雑誌掲載分、以降が単行本化に際しての書き下ろし分となっている。恐らくは前述のような事情から前半はより類型化が顕著で、後半にスタイルのやや逸脱した話が多く、怪談マニアの当方が惹かれたエピソードも後半に集中している。「ノン」や「秘密」「予感」あたりがそうだが、数少ない(私が数えた限りでは僅か二本だった)男性の体験談にしてトリを飾る「あのぅ」が特にいい。あまりに展開がファンタジックで「ほんとかー?」と身構えてしまうのも事実だが、平山夢明氏の著書では珍しいくらいの“青春”っぽい展開が、殺伐とした話が大半を占める本書のいい清涼剤となっている。 かなり基本に忠実な筋が多いので、癖の強い『「超」怖い話』よりも怪談初心者にお薦めしやすい一冊である――が、その代わり、随所に挟まれている装画や写真をいきなり見ると結構驚くと思うので、その辺だけご注意願いたい。私自身、最初にパラパラと中身を確認していたとき、扉の隙間から目を剥いている写真がいきなり視界に入ってきて度肝を抜かれたのだが――あとで本文を読みながら写真を見ると、そんなに怖くなかったことも付け加えておく。シチュエーションが違ってたり、文章とヴィジュアルの印象に齟齬があるのが原因だろう。もうちょっと配慮すれば本文の恐怖を倍加させられたが、それをやってたら手に取る人も減っただろうはずなので、このぐらいが適当なのか? |
コメント