「実話」怪談草紙

「実話」怪談草紙 『「実話」怪談草紙』

上原尚子

判型:文庫判

レーベル:竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2005年12月29日

isbn:4812424739

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 ゲームブックやアニメのシナリオなど、様々な分野で活動してきた著者初の怪談集。家の墓から出て来た謎の骨壺を巡る話『小さな骨壺』、インターネットの交流に始まる怪異『Re;一緒に行こうね』、フィギュア愛好家が遭遇した異常な出来事『可愛いあの娘』など、計14編を収録する。

 長年ライターとして生計を立ててきたという著者であるからか、文章は簡潔で読みやすい。ただ、その勢いに任せて、全般に説明しすぎているきらいがある。一話一話は決して大層な中身ではなく、たとえば解説を手懸けている加藤一氏らの『「超」怖い話』、木原浩勝・中山市郎両氏による『新耳袋』で同じエピソードを扱ったとすれば、大幅に文章を削って5ページぐらい、多くても10ページ程度に収めるであろう話を、本書では無駄なことまで書き継ぐことで水増ししている印象が濃い。

 文章の密度は書き手の個性であり、それで異様な雰囲気を盛り上げたり恐怖を増幅させる役割を果たしているなら問題はないのだが、うえに挙げた作品以外ではあまり役立っていない。説明すれば説明するほど印象が散漫として、当事者が感じているであろう恐怖が伝わってこなかった。

 どこかで聞いたような話ばかりのなかで、『小さな骨壺』『Re;一緒に行こうね』『可愛いあの娘』などはその特異さ、文章のバランスにおいてもなかなかの仕上がりになっているし、いささか語りすぎのきらいはあるが『僕に似ているアイツ』『治療中』などはあまり類を見ない展開で、怪談マニアにもアピールする力はあるが、他の話はいずれもどこかで聞いたような話に肉付けをした程度であり、読んでいるあいだのインパクトも読後の印象も薄い。

 怪談の世界では決して多くない女性の書き手であり、既にある程度取材の蓄積はあるように見受けられるので、今後の活躍を期待したいところだが、そのためには内容の取捨選択・整理整頓の仕方など、怪談を扱ううえでの作法をもっと研究して欲しい。とりあえず、本書に収録された程度の怪異であれば、同じページ数にこの倍はエピソードを盛り込んでもらわなければ、怪談マニア相手には甚だ薄味すぎる。

 ところで、本書に収録された『Re;一緒に行こうね』、通常メール返信の頭につけるReの後ろにつける記号がセミコロンで統一されているのですが――これって普通、コロンだと思っていたんですが……違うのだろうか。

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