怖い本(5)

怖い本(5) 『怖い本(5)』

平山夢明

判型:文庫判

レーベル:ハルキ・ホラー文庫

版元:角川春樹事務所

発行:2006年2月18日

isbn:475843218X

本体価格:600円

商品ページ:[bk1amazon]

 長年にわたって継続する人気怪談本シリーズ『「超」怖い話』。現在、竹書房文庫にて刊行中のシリーズで舵取りをしている平山夢明氏が担当したエピソードのなかから名作を厳選して纏めたのが前巻までの『怖い本』であったが、約二年半ぶりとなる本巻から全篇書き下ろしとして再スタートした。ある学校での死の連鎖を描いた『七井戸トライアングル』、受験生の奇妙な体験『ためいき』、生誕にまつわる奇習を扱う『魂手箱』など、全四十二話を収録する。

 本書は、著者が監修を務めているシリーズの最新巻『「超」怖い話(イータ)』から数日程度で刊行されている。聞くところによれば、執筆そのものも同書の脱稿から間を置かずに行われたらしい。先にそういう情報を聞かされると、どうしても出来に不安を抱いてしまうが――なかなかどうして、かなり完成度は高い。

 一本一本は短めで、10ページを超える作品は僅かに『腐敗の家』と『負の遺産』の二話のみ、あとは4・5ページを基準とし、1ページしかないエピソードも三話含まれている。さすがに説明不足で、それは果たして“怪”なのかと疑わしいくらいに絞り込まれてしまったものも存在するが、全体に引き締まった筆致はほどよい怖さと滑稽さを提供している。著者らしくかなり陰惨な状況描写に彩られたものも複数あるが、数年越しの意表を衝いた展開が面白い『ためいき』やまさに“怪”としか呼びようのない『ダンボールハウス』、飼い猫の不思議な行動を素材とした『チハル』など、異なった手触りの作品が随所に鏤められていることも、読み応えを強めている。

 ただ、ほとんどあいだを置かずに読んだせいもあるだろうが、『「超」怖い話』との差別化が不充分なので、敢えて別タイトルで刊行している必然性が感じられないのがネックだ。シリーズとしての旧刊が『「超」怖い話』に収録された著者担当作品から厳選したもので纏められていた、という事情を差し引いても、敢えて書き下ろしのシリーズとして復活させるならば、もっと一目で解るような住み分けの基準を設けて欲しかった。

 平山怪談の愛読者であれば安心して読める一冊である――が、愛読しているからこそ釈然としない想いを抱く部分も少なくない。とはいえ、採集したエピソードを纏めていく実話怪談というスタイルは、充分に話が集まっていないと内容のコントロールが出来ないという問題があり、複数のシリーズを並行する際に方向性が似通ってしまうのは回避しきれないことでもある。せめて、リアルタイムで著書を追っている熱心なファンのために、刊行時期に間隔を置くぐらいの配慮はして欲しかった。

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