『紫の館の幻惑 卍卍教殺人事件』
判型:新書判 レーベル:講談社ノベルス 版元:講談社 発行:2005年6月5日 isbn:4061824368 本体価格:857円 |
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『赤い額縁』『白い館の惨劇』『青い館の崩壊』と続いてきた、ゴーストハンター・シリーズ第四作。
敵対する吸血鬼原理主義者が、信州の山奥に本拠を構える新興宗教・卍卍教に姿を偽って潜伏している、という情報を得た正規の吸血鬼勢力は、羽田という男をスパイとして送りこむが、ある時期を境に連絡が途切れがちになってしまった。そこで、卍卍級の教祖の座に納まった男・紫堂大天と浅からぬ因縁のあるゴーストハンターとその後輩・黒川、それに宮司でありながらエクソシストという一面を持つ山田の三人は、羽田の消息を訪ねるという名目で、年に一度の大祭を控えた教団本部へと乗り込むが…… 派手だ。派手である。 これまでの作品で盛んに原理主義者*1との対立を仄めかしながら、ゴーストハンターをはじめとする主要キャラクターのとぼけた性格もあってなかなか直接対決に至らなかったこのシリーズだが、四作目にしてようやく初の本格的な抗争が描かれることとなった。 と言っても、しばしば唱える思想や山田宮司らの真の能力はさておき、基本的にすっとぽけた人達なのでやることなすこと相手側に筒抜けで、直接対決の場面に至るまでいいように弄ばれているだけのように見える。教団本部にいる信者が上の人間に提出するための日記、という体裁で内部の異様な状況が提示される箇所と、曰くありげに挿入される女性編集者ふたりの動きを除くと、ほとんどコントの赴きさえある。 だが、その随所にさながら地雷のような伏線を鏤め、終盤で一気に踏み抜いていくさまはなかなか圧巻であり、間違いなく本格推理の魂のようなものを窺わせる――但しそこは倉阪鬼一郎、普通の本格ではなく、吸血鬼同士の抗争というのが罷り通る世界観に合わせて、仕掛けそのものが幻想小説の文法に基づいている。ために、理によって謎が解きほぐされるたぐいのカタルシスを求めると卓袱台をひっくり返したくなること請け合いである。尤も、そういうのを望む人は序盤、宮司が悪魔払いのためのアイテムの趣旨を解説しているあたりで投げ出して、解決編まで辿り着くこと自体あり得ない気もするが。 しかし、ひとつひとつ抽出していくと、謎解きのための要素は本格ミステリの様式美に添っているし、たとえ超常的な論理を用いるためにも伏線を欠かさない志には頭が下がる想いがする。惜しむらくは、副題にもされている殺人事件が、いちおう意味づけは為されているのだけれど、終盤ギリギリで唐突に提示されるために、どうしても取って付けたように見えてしまう点である。終始ふざけ気味のゴーストハンターらの視点からでは無理だろうが、それ以外の視点でもう少し具体的な“謎”を振るなりして、殺人事件の解決そのもののカタルシスを演出して欲しかった。 構成がややぎこちなく、またその世界観にも癖があるので、馴染めない人にはとことん馴染めないだろうが、これまでの倉阪作品で披露した個性を織りこみつつエンタテインメントに仕上げた、なかなかの良作であると思う――と言ってしまうと、教団本部と谷を挟んで向かい合わせにあるホテルの滞在客には気の毒なのだけど。 |
*1:人類との平穏な共存関係を願い、吸血行為は仲間を増やすときだけに限る大勢に異を唱え、吸血行為によって人類を恐怖に陥れ支配する存在になることを主張する勢力を指す。
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