ささら さや

ささら さや 『ささら さや』

加納朋子

判型:文庫判

レーベル:幻冬舎文庫

版元:幻冬舎

発行:平成16年4月10日

isbn:4344405048

本体価格:571円

商品ページ:[bk1amazon]

 サヤの夫が死んだ。彼女と、まだ首も据わらない我が子・ユウ坊を残して。だが、万事に頼りないサヤを心配するあまり、夫の意識はこの世に留まっていた。ときおり、彼の姿を見ることの出来る第三者の躰を借りて、サヤが危難に陥ったとき、奇妙な状況に戸惑っているとき、あの乱暴だけど優しい口振りで、ひょっこり姿を現すのだった。そんな彼に見守られながら、新しい町――佐々良での生活をはじめたサヤと息子が巡り逢う、様々な人々と事件とを描いた連作。

 デビュー当時こそ北村薫にはじまる“日常の謎”スタイルの継承者のような扱いを受けていたが、のちにそこから独自の世界観を発展させていった著者の、らしさが詰め込まれた作品である。

 いちおうはミステリの体裁を取っているが、それは作品の主題を押し進めるための材料に過ぎない。だいたいが、探偵としての役割を振られたのが冒頭でいきなり事故死してしまう夫であるという点からして特異なのだが、そんな彼を謎解きのタイミングにだけ物語に容喙させるための縛りが、そのままヒロイン・サヤの葛藤と変化とを促す材料に使われていることからも自明だろう。

 本編で主に描かれているのは、人見知りが激しく万事に頼りないサヤという女性が、夫の死を契機に見知らぬ町・佐々良に移り住み、右も左も解らない状態から少しずつ知己や友人を得て、自分なりの暮らしを確立していく過程である。トラブルや謎に遭遇するたび、はじめは何も出来ずにおろおろとするばかりだった彼女が、見えない夫の存在を支えに、或いは現実に手助けを受けて切り抜け、そうして出来た知人たちの協力を得られようになると、次第に自分で考え判断していくようになる。言ってみればこれは、ひとりのシングル・マザーの成長を描いた作品なのである。

 独り身となった女性が、子持ちのまま渡っていくには世間は厳しすぎる。その厳しさを容赦なく描きながら、眼差しは基本的に優しく、時としてユーモアで包んでしまう。寧ろその仮借なさが、ときおり滲む優しさと、最終章に至っての感動をより深いものにしているのだろう。

 ミステリとして読むといささか軽すぎるし、本当の結末における働きがやや弱く物足りない印象を受ける。しかし、ひとりの女性の成長を、ミステリの味わいも加えて描いた物語としては極めて優秀である。決して手加減しないからこそ伝わる優しさが、この物語には横溢している。

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