『 判型:四六判ハード レーベル:MYSTERY LEAGUE 版元:原書房 発行:2006年2月20日 isbn:4562039833 本体価格:1900円 |
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昭和三十年代、辺境にある これまで発表した作品はすべて何らかのメタ・フィクション趣向が盛り込まれていたが、本編は長篇としては初めて“三津田信三”が登場していない。但し、作中人物の研究対象として『蛇棺葬』『百蛇堂』で登場した土地と習俗に言及している箇所があり、間接的にメタの領域に踏み込んでいるとも言えるが、このあたりは旧作から読み続けている熱心なファンに対するちょっとした擽り程度に捉えるのが無難だろう。 メタ・フィクション趣向こそないが、しかし作品には著者らしさが横溢している。民俗学の知識に根ざした憑き物筋についてのふんだんな記述、怪談話にはにわかに飛びつく実質的な語り手・刀城の肉付け、そして粘度の高い独特の筆致などだ。それ故、旧作からの読者には親しみやすい世界観であるが、反面強い癖があって、初見の読者には取っ付きにくいかも知れない。特に本書の場合は、極めて複雑怪奇な人間関係、込み入った背景を備える習俗を説明するために、ただでさえ粘性の強い文章を更に晦渋に用いているので、人によっては馴染むのに些か時間がかかるだろう。この文体と、頻繁に過去へ遡り思索に陥る語り手たちの人物造型のために、中盤ぐらいまでは物語の進行が遅くなっているのも人によってはもどかしく感じられるに違いない。 しかし中盤以降は畳みかけるように惨劇が巻き起こり、それまでは怪しげな影であったり異様な気配とちらつく程度の怪異であったものが、具体的な悪意となって迫ってくるため、緊張感の高まりと共に物語の牽引力が増していく。すべてが密室ものとなっている点も含め、このあたりは怪奇テイストながら本格ミステリであることへの拘りがものを言っている。 そして、こうした不条理な惨劇の数々を締めくくる解決編の衝撃が特に素晴らしい。整理のつかないまま謎解きに臨み、そうして状況を整理していくうちに次第に浮かび上がっていく真実。すべてにトドメを刺すアイディアは、はっきり言ってしまえば前例があるのだが、著者ならではの調理法で見事に効果を上げている。解決はいっそ陳腐と言えるほどに合理的だが、それ故におぞましさを秘めており、本格ミステリにしてホラーでもある、という二面性を成り立たせている。 出来ればもうひとつ、“鮮やか”と形容できるくらいに整った構成を解決編に施していれば、ラストの不気味な余韻がいっそう際立ったように思え、その点が残念だが、いずれにせよサービス精神とふんだんな拘りによって彩られた、読み応えのある本格ミステリにして本格ホラーであることは間違いない。 |
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