『本気で言いたいことがある』
判型:新書判 レーベル:新潮新書 版元:新潮社 発行:2006年4月20日 isbn:4106101610 本体価格:700円 |
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1973年にグレープとしてデビュー、1976年にソロとして再出発し、以来『雨やどり』や『関白宣言』といった大ヒット曲を生むほか、毎年夏に郷里である長崎にて無料の野外コンサートを開催するなど精力的に活動を続け、2001年からは優れた文章力を駆使して小説家としても活動を始めるなど多岐に活躍するさだまさしが、現代の日本に対する危機感を率直に綴った1冊。
さだまさしが兼ねてから日本や日本人を取り巻く現状に対して強い問題意識や危機感を抱いていたことはファンなら誰しも承知していることだ。歌詞やステージトーク、他のミュージシャンと比べて圧倒的に饒舌なライナーノートなどからもその主張は一貫しているが、本書はそうした危機感と、そこに端を発する問題提起や提案とをじっくりと、1冊に纏めて語った初めての著作である。 率直すぎる語り口は、従来の柔らかな表現と比べて辛辣であるが、そのぶん真剣さが漲っていて胸を打つ。犯罪の発生率や宗教問題の解釈など、あまり情報を精査することなく鵜呑みにした上で論旨を組み立てている危うさが散見されたり、主義の違いなどから反発を感じるところも少なくなかったが、まさに著者の論旨通り、こうしたことを真剣に語る者も、それを受け止めることも減っているだけに、様々な問題に考えを巡らせるきっかけとして格好の内容となっている。 前述のとおり、ファンにとっては概ね耳馴染みのある主張ばかりだが、改めてさだまさしという人物の“想い”(思想という堅苦しい表現はいささかそぐわない)を知るいいきっかけとなるし、ヒット曲や近年の小説作品などでしかさだまさしという人物に触れていない読者にとっては、伝説の「ひと晩で6曲」や、最終章で綴られる、デビューに至る数奇な経緯を知ることが出来るので、いい入門書ともなりうる。長年のファンにも、これからじっくりとさだまさしの作品を聴いてみたい、読んでみたいという初心者にとっても必読の随想と言えよう。 |
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