グラン・ギニョール城

グラン・ギニョール城 『グラン・ギニョール城』

芦辺拓

判型:文庫判

レーベル:創元推理文庫

版元:東京創元社

発行:2006年4月28日

isbn:4488456022

本体価格:724円

商品ページ:[bk1amazon]

 著者の14作目の長篇にして、デビュー以来のお抱え探偵である森江春策シリーズ長篇として記念すべき10作目にあたり、本格ミステリ大賞候補作ともなった里程標的な作品が遂に文庫化。森江春策が移動中の新幹線で遭遇した、ひとりの男の変死事件。彼がいまわの際に口にしたのは、「グラン・ギニョール城の謎を解いて」という言葉。かつてエラリー・クイーンが編纂した雑誌に掲載されながら、廃刊によって解決編が世に現れぬままとなった幻の長篇『グラン・ギニョール城』に、男の死は関わりがあるのだろうか? 事件を追い始めた森江は、やがて中絶したままの“虚構”の世界に引きずり込まれていく……

 毎回実験的な趣向を凝らし新機軸を切り開いていく著者だが、これが最大の突破口となったことは疑いない。1934年に発表されながら中絶した探偵小説を綴る傍らで、偶然遭遇した怪死事件を追う森江春策の足取りを追い、両者が次第に接近していき、遂に合流してしまう。そうして過去の、フィクションとして描かれた事件と、森江自身が追っていた現代の事件とを同じ俎上で解決する。このカタルシスは凄まじい。

 ただ、続く実験的長篇『紅楼夢の殺人』でも認められる欠点であるが、事件個々のトリックがやや弱いのが気に掛かる。特に森江が一連の怪事に巻き込まれるきっかけとなった事件については、いささかなおざりにされた印象があるのが残念だ。

 と辛くは言ってみるものの、フィクションの世界に森江春策が巻き込まれていく異様な感覚、それが少しずつリアルに描かれながらも、最後にはミステリならではの合理性と幻想小説的な非現実性の溶けあったような解決が齎される決着の見事さは素晴らしい。

 更には探偵小説愛好家をニヤリとさせるような趣向も添えられているのがまた憎く、やもすると過剰になりがちな著者のサービス精神がいいバランスでカタルシスに奉仕している。著者にとっても重要な一作であるのは間違いないが、今後の日本ミステリ史にも長い間名前を留める長篇でもあると思う。

 今回の文庫化にあたっては、作中作部分で活躍する名探偵レジナルド・ナイジェルソープが活躍する掌篇も書き下ろしで収録されている。執筆期間の短さゆえに色々とミスのあったらしい本文にも丁寧に朱が入れられているとのことなので、親本で読まれた方はこの機会に再読してみるのも一興だろう。

コメント

  1. 藍色 より:

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