凶鳥(まがとり)の如き忌むもの

凶鳥の如き忌むもの 凶鳥(まがとり)の如き忌むもの』

三津田信三

判型:新書判

レーベル:講談社ノベルス

版元:講談社

発行:2006年9月6日

isbn:406182497X

本体価格:1080円

商品ページ:[bk1amazon]

 終戦から数年を経て、兜離(とり)の浦の沖合にある孤島・鳥坏島(とりつきじま)にて十八年振りに“鳥人の儀”が執り行われることになった。三代前の巫女・朱慧(あかえ)が復活させたこの儀式は、だが十八年前に行われた際、当時の巫女・朱名(あかな)と帯同した六人の人間が一斉に姿を消す、という忌まわしい結末を迎えていた。さる縁から、孤島で行われるこの奇妙な儀式に同行することを許された“怪異蒐集家”刀城言耶(とうじょうげんや)だったが、その目の前でふたたび怪異は繰り返された――

 2006年初頭に発表され、好評を博した『厭魅(まじもの)の如き憑くもの』に続き、怪奇幻想作家であり怪異談を嗅ぎつけると我を忘れる悪癖を持つ刀城言耶の遭遇した事件を綴る、伝奇ミステリである。前作を特徴づけていた民俗学知識に裏打ちされて構築された独特の風俗・習慣、そこに繰り広げられる奇怪極まりない事件像と、その個性を引き継いだ続編がこれだけ早く刊行されたことに驚きを禁じ得ない。

 ただ、これは前作にも言えたことだが、いささか前置きの部分が長くだらけていることと、事件の舞台となる場所の説明がいまいち理解しづらいことが問題だ。序盤、舞台となる兜離の浦とその成立背景について長々と筆を割くあまりに本来の“謎”がなかなか登場せずかなりやきもきした思いをさせられるし、あまりに込み入った構造になっている鳥坏島拝殿は、いくら説明されても具体的な全体像が頭に浮かばず、事件発生前後、そして目撃証言をもとに言耶らが状況を再現していくくだりでも、何が起きているのか把握しづらい。そのために折角の濃密な不可能興味もかなり薄らいだ感があるのが残念だ。

 また前作のように随所で怪談を絡めたり民俗学的な蘊蓄を流し込んでいる箇所が少なく、実際に起きている出来事に対して描写が迂遠すぎる印象を全般に齎しているのも気に掛かる。序盤の民俗学講釈はこの奇怪な舞台設定を読者に受け入れさせ、結末のインパクトを強める意図で盛り込まれているのは理解できるし、中盤における人間消失にまつわる議論も、ミステリならではの趣向として欠かせなかったのは解るのだが、全般に無造作で整理が行き届いていない。それで混沌とした狂気が描き出せていればまだしも、本編では物語の中心となって動き回る人物たちにいまいち魅力と活気を欠いているので、そこまで達していないのだ。

 しかし、解決に用いられたアイディアとその背景との迫力は著しい。それらだけぽん、と提示されれば「まさか」と失笑したり首を傾げたくなるほどの発想ながら、丹念に積み上げられた伏線によって一定の説得力は帯びている。かなり長い、と感じられる道程を辛抱強く付き合ってきた読者ほど、この結末に受けるカタルシスは大きいだろう。

 願わくばもう少し、首謀者がこの計画にすべてを賭す心理的必然性を付与してくれていれば、厄介な道程を乗り越えてでも一読する価値有り、と言える傑作になったと思うのだが、そこでいま一歩踏み込めていないように感じられるのが惜しまれる。それでも、『厭魅』同様に本格ミステリへの情熱に満ちた意欲作であることは断言できる。引き続き、刀城言耶の遭遇した怪異なる事件簿が編まれることを望みたい。

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