てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選

てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選 てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選』

加門七海福澤徹三東雅夫[編]

判型:四六判変形ハード

版元:ポプラ社

発行:2007年2月6日

isbn:9784591096998

本体価格:1200円

商品ページ:[bk1amazon]

 オンライン書店ビーケーワンにて、2003年夏から催されている『ビーケーワン怪談大賞』。僅か800字という厳しい制約ながら、コンパクトな手触りに書き手の考える“恐怖”を凝縮させる趣向が創作意欲を刺激し、質量共に向上を続けてきた。本書はそうして寄せられた作品のなかから精選した100話を収録する。

 つい先日も、『「超」怖い話』新規執筆者を募るイベント『超−1』から立て続けに書籍が刊行されたが、時期を合わせるように書籍化された本書は、実話に限定せず創作までも募った怪談集である。

 虚実入り乱れた内容に、800字という極めてタイトな縛りのために、『超−1』の作品群と比べて若干文章の完成度や趣向の扱いの巧さ、つまり誤解を招きかねない表現だが“文学性”に重きを置いて評価している傾向にあると見える。そのため、まず文章の完成度の点で引っかかる部分はなく、よくあるような類の怪異現象を扱っていても語り口に味わいがある、といった作品が選ばれていると見え、重厚な読み応えがある。客観的に見て拙い文章も散見されるが、それすらも話に独特の気配を齎しており、こうした選択は読み巧者の揃った編者の面目躍如と言えよう。

 実話に絞っていないため、“語り手が死んでいる”“どこから伝わってきたのか解らない”といった、聞き書きと称した作品ではタブーとなる趣向も使える分、話の幅も広い。他方、実話怪談という手法が『新耳袋』『「超」怖い話』を経て成熟していったことを踏まえ、単純に怖いだけでなく、滑稽味のある話、ほんのりと沁みてくるような奇妙な話なども網羅している。この幅広さ故に、並の書籍では不可能なほど味わい甲斐のある1冊に仕上がった。

 ただ、それでも本書を“実話怪談”と誤解した人に慮ってか、作品の配列に非常に気を配った痕跡がある。主題やモチーフの繋がるものを並べていく、というやり方は『「超」怖い話』と同様だが、序盤には実話と言われても疑問の湧かない作品を主体としたなかに筆致が実話怪談調ながら明らかにフィクションと察せられるエピソードを織りこんで、次第に「実話のみではないのだ」と理解させていき、終盤はほとんど確実に創作である、あるいは内容よりも語り口の特徴で読ませる作品を畳みかけてくる。まるで、単なる“実話怪談”の愛好家を幻想文学の深みに引きずり込もうとしているかのような構成に、選者――特に東雅夫氏の意地の悪い笑みが頭に浮かぶようだ、というのはさすがに勘繰りすぎか。

 オンライン経由で誕生した書籍は、読書家にはあまり満足のいかないものが多い、あるいは縦書きよりも横書きが似つかわしい内容が多い、という思い込みがあるが、携わっているのが怪談小説の達人や幻想文学の猛者3名であるだけあって、本書は文句のない――どころか単純にアンソロジーとして傑出した仕上がりを示している。『「幽」怪談文学大賞』で長篇部門を制した黒史郎氏、『異形コレクション』の公募でも頻繁に名前の挙がる朝宮運河氏の作品も収録しており、他の書き手の中からも将来の“怪談文学”ひいては“幻想文学”の担い手が生まれる可能性を秘めた、注目すべき1冊であろう。

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