『忘れな草 佐々木丸美コレクション』
判型:四六判ハード 版元:ブッキング 発行:2007年1月25日 isbn:9784835442849 本体価格:1600円 |
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長年沈黙を保ったまま2005年に亡くなった作家・佐々木丸美の全作品を復刻する《佐々木丸美コレクション》第2巻であり、『雪の断章』『花嫁人形』『風花の里』と続く《孤児四部作》の2作目。
両親の自殺後、行方をくらました少女・上久弥生。さる企業の命運を握るその少女を、ふたつの派閥が懸命に捜し求めた結果、発見されたのはふたり――判断に苦しんだ挙句、企業はふたりをお目付役と共にとある屋敷に封じ込め、素性が確認される時を待った。後継者候補の葵と弥生、そして彼女たちのお目付役となった青年・高杉正生との、悲しい愛の物語がここから始まる…… 小説読みとなってだいぶ経ちますが、ここまで肌に合わない、と感じたのは初めてです。あらゆるものが許せませんでした。あまりにも非合理的な思考をする企業、どう切ってもリアリティのない理屈を振りかざしそれが罷り通ってしまう世界観、自らの思い込みでしかない愛や夢をやたらと華美な言葉で描き、焦点を欠いた一人称の文章。何もかも読んでいて苛立って仕方ありませんでした。 とはいえ、読み通してみると、決して内容自体に無理はないのだ、と解るのです。やはりこの企業の運営の仕方や対立の構図、相続者捜しに腐心して経営の実態が見えてこないのは疑問ながら、いってみれば“小さな国家”の内紛を、日本の企業に当て嵌めて描いているわけで、そう考えれば納得のいく部分も多い。それが鼻につくのは、こういうお伽噺的な構造をさもリアルであるように錯覚している登場人物ばかりだからだと思われます。あまりに価値観に踏み込みすぎているから、その非現実性が却って際立ってしまっている。 語り口についても、もっとドライに、淡々と事実だけを綴っていればここまで苛立つことはなかったのでしょう。文章のセンスはありますし、詩的な感性が傑出していることも疑いませんが、それを使いすぎているから言葉が重みを失っている。つくづくこの点は勿体ない、と感じます。 何よりも、これまでに『雪の断章』『崖の館』と読んできましたが、すべて決着が同じであるのが納得出来ない。それぞれにその道を選んだ理由は異なっているのは確かでも、まるでこういう行為を美化しているだけに感じられるのが不愉快なのです。 こと、連作ということもあって、『雪の断章』と同じ世界を舞台にして、しかも同じような陰謀の構図を採り入れているために、話の筋が似通っており、それを続けざまに読んでしまったこともまた不快感に繋がっているのかも知れず、そう考えれば、読んだ順番そのものがいけなかったのでしょう。しかし、そういう点を考慮しても、私にはこの作品は到底受け入れられないように思います。 更に想像を逞しくすると、著者自身、そうした欠点を自覚していたからこそ復刊に頷かなかったのでは、とさえ感じられますが――いずれにせよ、本書は読んでいて最初から最後まで苦痛でした。好きな方にはただただ申し訳ないのですが、こればっかりは覆せそうもありません。 |
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