原題:“赤壁” / 英題:“Red Cliff” / 監督:ジョン・ウー / 脚本:ジョン・ウー、カン・チャン、コー・ジェン、シン・ハーユ / 製作:テレンス・チャン、ジョン・ウー / 製作総指揮:ハン・サンピン、松浦勝人、ウー・ケボ、千葉龍平、チン・ウェン・ハン、キム・ウデク、ユ・ジョンフン、ジョン・ウー / 撮影監督:リュイ・ユエ、チャン・リー / 美術・衣裳デザイン:ティム・イップ / 編集:アンジー・ラム、ヤン・ホンユー、ロバート・A・フェレッティ / VFX監督:クレイグ・ヘイズ / VFX:オーファネージ / 音楽:岩代太郎 / 主題歌:alan『Red Cliff〜心・戦〜』 / 出演:トニー・レオン、金城武、チャン・フォンイー、チャン・チェン、ヴィッキー・チャオ、中村獅童、リン・チーリン、ユウ・ヨン、ホウ・ヨン、トン・ダーウェイ、ソン・ジア、バーサンジャプ、ザン・ジンシェン、チャン・サン / 獅子山製作 / 配給:東宝東和×avex entertainment
2008年アメリカ、中国、日本、台湾、韓国合作 / 上映時間:2時間25分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / 翻訳:鈴木真理子 / 字幕監修:渡辺義浩(大東文化大学)
2008年11月01日日本公開
公式サイト : http://redcliff.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/01)
[粗筋]
西暦208年。漢王朝の若き皇帝をたぶらかし、丞相として実質的に帝国を支配した曹操(チャン・フォンイー)は、天下統一を唱え、抵抗する近隣の諸国に戦争を仕掛ける。
曹操がまず兵を向けたのは、漢王朝の係累である劉備(ユウ・ヨン)が身を寄せる地。曹操の支配に与しない難民を匿っていた劉備はまず民を守ることを優先し、知略に長けた軍師・孔明(金城武)や勇将・趙雲(フー・ジュン)らの奮戦も虚しく、劉備軍は敗走を余儀なくされる。劉備の判断が幸いして全滅は免れたが、被害は甚大であった。
今後も覇を唱える曹操が折に触れ攻め込んでくることは目に見えている。数を磨り減らし、疲弊しきった劉備軍に勝機があるとすれば、呉を支配する孫権(チャン・チェン)と同盟を結び、手を合わせて曹操軍に立ち向かうことだけだ、と孔明は説いた。曹操軍を斥け、曹操・劉備・孫権の三つの勢力が拮抗する状態に持ち込めば、少なくとも情勢は安定する。
君主の理解を得た孔明はさっそく孫権に謁見するが、反応は芳しくなかった。孫権自身には戦いの意思があるようだが、父の代からの老臣たちからは人民を守るために降伏するべきだ、と訴えられ、決心しかねているらしい。あと一押しがあれば動く、と判断した孔明は、もうひとりの重要人物に接触することにした。
孔明が訪ねたのは、孫権軍が演習を行っている“赤壁”と呼ばれる地。そこには、孫権の先代である兄・孫策の親友として彼に仕え、信望の厚い武将・周瑜(トニー・レオン)が居を構えていた。
突然訪れ、かなり率直な物言いをする孔明に対し、当初警戒の素振りを見せていた周瑜であったが、互いに知性に富み、戦略家としての友を求めていた想いが次第に共鳴しはじめ、直接的な言葉を用いることなく、同盟を受け入れる。
その周瑜に鼓舞されたことで、老臣たちに気遣い出兵を躊躇っていた孫権も、遂に決起した。軍の全権を周瑜に託し、劉備軍と手を携えて曹操軍に立ち向かうよう命じる。
やがて曹操の軍がゆっくりと動きはじめた。ある思惑を孕んだ曹操が目指すのは、まさに周瑜が拠点としていた“赤壁”……かくて、後世に“三国志”最大の戦いと語られる“赤壁の戦い”は幕を上げた……
[感想]
香港で活躍したのちハリウッドに招かれ、成功を収めたジョン・ウー監督にとって、世界的に愛好家の多い史書『三国志』の映画化は念願であったという。本篇はそのハイライトのひとつである“赤壁の戦い”の部分に焦点を絞り、前後篇の二部作として製作したうちの前篇にあたる。
私はこれまで『三国志』にほとんど関心がなく、せいぜい主要登場人物の名前ぐらいしか知らない。それ故に、本篇の描写がどの程度、『三国志』の記述に忠実であるのかを判断することは出来ないのだが、それでも相当にジョン・ウー流の味付けがなされているだろうことははっきりと解る。名だたる猛将たちが、自ら最前線に突入し、多人数を相手に刀を振るい槍をかざし、果てには敵兵の武器を奪って戦うなどという光景が現実に展開し、また史書に記されるとはちょっと信じがたい。
また、二部作という長尺に及び、題名にある“赤壁の戦い”のクライマックスが後篇にほとんど持ち越されてしまったせいもあるのだろう、本篇は伏線を鏤めることに終始し、全体が巧く連携していない印象がある。情報量は非常に多いのだが、実際に何が動いていたのかと言われると、劉備軍の敗走から孫権軍との同盟が結ばれ、赤壁に曹操軍が到来した、という程度しかないのだ。また、登場人物が多いわりに、具体的に心情にまで踏み込んでいるのは曹操たち3人の君主に参謀・孔明と智将・周瑜、あとは周囲の数名程度で、私が名前を知っているような関羽や趙雲などは辛うじて戦闘で気を吐いているぐらいだ。
だが、観終わっての印象は決して悪くない。分けたとはいえ2時間半近い尺にも拘わらず、ほとんど退屈することがない。そもそも完成されている物語に基づいているというせいもあるだろうが、場面場面のインパクトが著しく、存在感が際立っているのが大きいだろう。
アクション・シーンの表現に優れた個性を誇るジョン・ウー監督らしく、戦闘シーンの迫力、完成度はさすがのひと言に尽きる。多対一の戦闘においてはいささか非現実的な動きが多いが、作っている側もそれを承知でやっているのだから、ここはその美学をこそ堪能するべきだろう。納得のうえで観れば、飛来する槍を受け止めて攻撃に用いたり、素手で大勢のまっただ中に突入して、奪った武器で次から次へと薙ぎ倒していくダイナミックな戦闘は息を呑むばかりの迫力だ。
大軍の描写もまた秀逸である。ほとんどがCGを用いているのは間違いないだろうが、実写部分との融合が巧みであり、映像的な力強さに充ち満ちていて、惹きこまれてしまうのだ。
そして見せ場は一部の人物にしか用意されていないものの、名前のある人物のほとんどに存在感が付与されており、観終わったあときちんと記憶に刻まれていることに気づく。日本人には馴染みがないが味のある俳優を起用しているお陰で、決して多く語らずとも、背景を窺わせるような演技と表現を可能にしているからだろう。
或いは、そうして後篇へ伏線を繋ぎ、煽ることに終始しているからこそかも知れないが、間違いなく本篇は異様な魅力と牽引力を備えている。男女間の恋愛感情、家族愛、そして帝王学も織りこんだ本篇は、近年珍しいほどその名に恥じない娯楽大作である。いささかの不安を覚えつつも、後篇の公開が待ち遠しくなる1本であった。
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