原作:浦沢直樹(小学館・刊) / 監督:堤幸彦 / 脚本:福田靖、長崎尚志、浦沢直樹、渡辺雄介 / 企画:長崎尚志 / 製作指揮:島田洋一 / エグゼクティヴ・プロデューサー:奥田誠治 / 撮影監督:唐沢悟 / 美術:相馬直樹 / 編集:伊藤伸行 / 衣装:川崎健二 / 音楽:白井良明、長谷部徹、AudioHighs、浦沢直樹 / 主題歌:T-Rex『20th Century Boy』(Imperial Records) / 出演:唐沢寿明、豊川悦司、常盤貴子、香川照之、石塚英彦、宇梶剛士、宮迫博之、生瀬勝久、小日向文世、佐々木蔵之介、佐野史郎、森山未來、津田寛治、藤井隆、山田花子、ARATA、片瀬那奈、石井トミコ、黒木瞳、池脇千鶴、平愛梨 / 制作プロダクション:シネバザール、オフィスクレッシェンド / 配給:東宝
2008年日本作品 / 上映時間:2時間22分
2008年8月30日日本公開
公式サイト : http://www.20thboys.com/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/01/26) ※第2章公開に先駆けた復習上映会
[粗筋]
かつてはロック・ミュージシャンとして活動していたが、いつしか夢破れ、実家の酒屋をコンビニのチェーンに改装して店主に収まっていた遠藤健児・通称ケンヂ(唐沢寿明)の日常は、だが1997年を境に、次第に変化していく。
最初に彼が異変を感じたのは、第三小学校の同窓会の席でのこと。世間では“ともだち”なる人物が率いる新興宗教が絡んで、失踪事件が相次いでいるという。その“ともだち”が掲げる予言は、かつて幼い日のケンヂが仲のいい友人達と籠もっていた秘密基地で書き上げた“よげんのしょ”を彷彿とさせ、しかも彼らのシンボル・マークは、やはりケンヂ達が用いていたものそのものであった。つまり、“ともだち”は彼ら幼馴染みの中にいる……。
異様な成り行きに戸惑うケンヂは翌朝、新聞で更にショッキングな報に触れる。秘密基地の仲間のひとりであったドンキー(生瀬勝久)が自殺した、というのである。ドンキーは死の直前、ケンヂに宛てて手紙を出しており、そこにもあのシンボル・マークについて訊ねる文章が記されていた。
事情を聞いたかつての仲間たちは、“よげんのしょ”を捜して、かつて秘密基地のあった原っぱを訪ねる。いまはマンションが建っていたが、秘密基地を捨てるときに埋めたタイムカプセルはまだ発掘できる場所にあった。世界が危機に瀕したとき、ふたたびここを訪れてタイムカプセルを開ける――“よげんのしょ”は見つからなかったが、封じられていたシンボルマーク入りの旗を前に、ケンヂ達は過去に想いを馳せた。
しかし、“ともだち”が誰なのか、“よげんのしょ”の内容がどんなものだったのか、はっきりと思い出せなければ、世界を守りたくても動きようがない。そうしているあいだにも、朧気に記憶している“よげんのしょ”の内容通りに、世界各地で細菌によるテロが繰り返されていたが、ケンヂ達はただ手を拱いているしかなかった……
果たして“ともだち”は誰なのか、いったい何を目論んでいるのか。そして、何の力も持たないケンヂ達は、果たして正義の味方たり得るのだろうか……?
[感想]
『YAWARA!』『MASTERキートン』で人気を博し、現在も第一線で活躍する漫画家・浦沢直樹の最近の人気連載作を、全3部にて実写映画化するプロジェクトの1作目にあたる作品である。
もともと浦沢直樹という描き手は、連載で読者を牽引していく術に長けている。そういう過程で人気を博していった作品を、原作者自身も脚本に加わって映画化したのだから、まず詰まらないはずがない。まさに連載漫画さながらに無数の伏線を鏤め、随所に心を揺さぶる引きを設け、観る側をラストまで引っ張っていく。ほとんど抵抗しようのない面白さだ。
本篇の場合、30代以上、もしくは昭和の漫画やアニメ、特撮に親しんでいる人間にとっては、そそられるような要素を無数に織りこんでいることも魅力のひとつになっている。そもそも根幹にある“よげんのしょ”と世紀末に訪れる破滅、という趣向自体が、一時期大流行したノストラダムスの予言を彷彿とさせるし、そこで語られているシンプルな悪の組織と正義の味方の対立構造も、郷愁と興奮を誘わずにおかない。謎の人物が『忍者ハットリくん』のお面を被っていたり、鍵を握るロボットのモチーフが思いっ切り『鉄人28号』を雛型にしていたり、また最後にちょっとだけ触れられるシンボルマークの由来自体が漫画好きをニヤリとさせる代物だったりと、随所にダイレクトな固有名詞を埋め込んでくるあたりも憎い。主要登場人物の姓も漫画・アニメのヒーローを思わせるものが多く、元ネタを捜して解釈を膨らませる愉しみもあるだろう。
しかし如何せん、3部作の第1作であるだけに、提示された謎にはほとんど決着をつけていない。3部作であることを大きく謳っているとは言い条、ちょっと行きすぎた投げだしっぷりのような印象も受ける。また、本篇はケンヂを中心とした“ともだち”に立ち向かうメンバーがいずれも普通の、特殊能力や図抜けた技能の持ち主でないことに大きな意味があるのだが、それにしてもけっきょく彼らがろくに何も出来ないうちに終わってしまっているのはさすがに拍子抜けの感がある。唯一、過酷な環境で生活し優れたサヴァイヴァル能力を備えているとみられるある人物にしても、本篇はほとんど見せ場なしで終わっているのはさすがに勿体なさすぎるだろう。
だが、そういう嫌味を幾ら並べ立てても、本篇の優れた牽引力は否定しようがない。とにかく次が待ち遠しい、きちんと結末を見届けたい、そういう想いにさせる、というだけで本篇は充分に連作第1部としての役割を果たしているし、そのパワーだけでも味わい甲斐のある1篇である。
人気の高い漫画の実写映画化であり、3部作という壮大なプロジェクトになったためか、本篇は主役級から名バイプレーヤーまで、実にいい役者が多数揃っている。今回は顔見せだけだが、次章に重要な位置で登場しそうなキャラクターも多く、またそういう風に匂わせる意図もあるのだろう。そういうところまで含めて、大作の名に相応しい仕上がりになっている。
しかし、これだけ多くの俳優が登場しているなかでも、やはりひと味違う、と感じさせたのは、竹中直人である。正直、かなり意味不明なキャラクターで、実に素速く退場してしまうのだが、その僅かな出番で鮮烈なインパクトを残している――もっとも、あそこはそんなに目立っていいところだったのかは謎だが。
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