『ヤッターマン』

『ヤッターマン』

原作:竜の子プロダクション / 監督:三池崇史 / 脚本:十川誠志 / 製作:堀越徹、馬場満 / 製作総指揮:佐藤直樹島田洋一 / プロデューサー:千葉善紀、山本章、佐藤貴博 / エグゼクティヴ・プロデューサー:奥田誠治、由里敬三 / 撮影監督:山本英夫 / 美術:林田裕至 / メカ&キャラクターデザイン・リファイン:寺田克也 / CGIディレクター:太田垣香織 / CGIプロデューサー:坂美佐子 / 編集:山下健治 / スタイリスト:伊賀大介 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:山本正之神保正明藤原いくろう / 出演:櫻井翔福田沙紀深田恭子生瀬勝久ケンドーコバヤシ岡本杏理阿部サダヲ / 声の出演:滝口順平山寺宏一たかはし智秋 / 制作プロダクション:日活撮影所 / 配給:松竹×日活

2008年日本作品 / 上映時間:1時間51分

2009年3月7日日本公開

公式サイト : http://www.yatterman-movie.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2009/04/02)



[粗筋]

 高田玩具店のひとり息子・高田ガン(櫻井翔)とそのガールフレンドで電器店の娘・上成愛(福田沙紀)には、別の顔がある。ふたりは悪事の気配を嗅ぎつけると、愛と正義の戦士・ヤッターマンとして、ガンの作ったロボット・オモッチャマ(たかはし智秋)やヤッターワン(山寺宏一)らと共に出動するのである。

 ヤッターマンの相手は、ドロンジョ(深田恭子)、ボヤッキー(生瀬勝久)、トンズラー(ケンドーコバヤシ)のドロンボー一味。泥棒の神様ドクロベエ(滝口順平)の命令の元、あらゆる願いを叶えるというドクロストーンを奪うために、詐欺を働いたり破壊活動を繰り広げたりしている。

 今日も今日とて渋谷を舞台に悪事を働くドロンボー一味を撃退したヤッターマンは、そこで海江田翔子(岡本杏理)という少女と出逢う。彼女の父は考古学者の海江田博士(阿部サダヲ)。彼はふたつめのドクロストーンの破片の在処を探り当てたと言い、旅立つ際に発見済の破片を翔子に託していったのだ。しかし博士はそれっきり行方をくらまし、そのあいだに翔子はドロンボー一味に狙われた、ということらしい。

 一方のドロンボー一味は、またしてもヤッターマンの前に膝を屈した悔しさに浸る間もなく、ドクロベエから新たな指令を受けていた。もうひとつのドクロストーンの在処が判明したので奪ってこい、というもので、その場所はオジプト。ドロンジョたちは偽商売で荒稼ぎすると、その資金を投じて新たなマシンを開発、オジプトを目指した。

 オモッチャマの手柄で、ドロンボー一味の動きを察知したヤッターマンたちも、連れて行って欲しい、と懇願する翔子を伴いオジプトへと走る。だが、辿り着いた砂漠のど真ん中で、彼らの戦いは意外な展開を見せた――

[感想]

 最近、日本の漫画、アニメやゲームが国内外を問わず実写映画化される機会が増えている。2009年だけでも『20世紀少年<第2章>最後の希望』、『DRAGONBALL EVOLUTION』、『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』、『釣りキチ三平』が公開されている。

 しかし、公開されてみると、その再現性について物議を醸すことが多い。それぞれに特徴的な画風で表現されていたものを、現実の俳優を使いVFXを駆使して作り直していく難しさもさることながら、2時間程度に限られた映画の尺に収めるための脚色が、駆け足になったり、どうしてもオリジナルのファンに受け入れがたい仕上がりになることが多いからだ。原作者自身が脚色に加わった『20世紀少年<第2章>最後の希望』でさえも、再現性の点で不満を漏らす声が聞こえてくるほどであるから、外見はおろか世界観まで食い違いを見せる幾つかの作品については、ファンがどれほど嘆いているか。

 そんな中で本篇は、ほとんど奇跡と言っていいほど完璧な出来である。

 まず、配役がオリジナルのイメージをまったく損ねていない。ヤッターマンの2人は当然だが、タイトルロールの彼らよりも人気の高い悪役ドロンボー一味のために揃えた役者が絶妙だ。アニメでありながらアドリブを組み込んでいたボヤッキーに個性派の生瀬勝久、怪力で人情派のどっしりとした存在感を醸し出すトンズラーにはケンドーコバヤシ。とりわけ優れたスタイルと女性の色香を放ちながら本質的にはけっこう純情なリーダー・ドロンジョ深田恭子、という配役は、発表された時点から唸らされたが、いざ動いている姿を観るともう文句がつけられない。

 だが配役以上に本篇は世界観、価値観、雰囲気のありようなど、アニメから漂っていた気配を、実写において見事に受け継いでいる、それが素晴らしいのだ。

 たとえば、登場する地名のもじり方。渋山ハッチ公広場前*1であったり、オジプトであったり、南ハルプスであったり。原作のアニメが頻繁にパロディを採り入れるために、一種の予防措置として行っていたもじりなのだが、本篇でもそれを忠実に踏襲している。

 もっと象徴的なのが、ギャグの組み込み方である。古典的な“ズッコけ”で返されるボケであったり、唐突に間の抜けた成り行きに発展する、シンプルなものもふんだんに採り入れられているが、本篇の“らしさ”はむしろ、子供には解りにくい類の、エッチなネタをあちこちに鏤めていることだ。

 冒頭、いきなり繰り出されるアクションシーンでもそれとなくちらつかせているが、2番目の戦いで登場するドロンボー一味のマシン『バージンローダー』は外観からして酷いし、攻撃の際の反応など、“良識のある大人”はたぶん引く。この2番目の戦いの締め括りなど、恐らく子供にはどうしてああなったのか、完全には理解できまい。そんな具合に最後まで、子供連れで鑑賞すると、あとで真意を訊ねられたときどう答えたらいいのか迷うようなギャグやモチーフが随所に詰め込んである。

 だが、そういう大人向けのネタや、そこからじんわりと滲んでくるような“毒”を籠めてあることもまた、原作アニメの特徴だったのだ。無論、アニメでここまでやっていたはずはないのだが、そういう個性を意識的に膨らませ、過剰なくらいにすることで、本篇はオリジナル作品のファンを納得させ、ほのかな記憶を頼りに実写版を観に来たかつての子供たちをも、大人としての感覚で楽しませてくれる完成度を実現している。

 オリジナルの空気を再現しようとする姿勢が徹底するあまり、ユルい話作りまで受け継いでおり、エピソードの纏まりや個々の出来事の整合性という点を検証すると、必ずしも肯定できない部分が幾つかある。だから決して満点はつけられないものの、しかし『ヤッターマン』というタイトルに惹かれて劇場に足を運んだ人の期待を裏切ることは決してない作品であることは確かだ。

 仮に原作を知らなくとも、個性的な世界観と破天荒なユーモア、そして随所に毒を滲ませた作りは、物事をよほど堅苦しく考える人でない限り、きっと楽しませ満足させてくれるだろう。本当に掛け値無しの、娯楽大作である。

 本篇の“原作に忠実”という精神はあっぱれなくらいに徹底しており、映画の最後にちゃんと次回予告まで添えてある。“来週も観ろよ”というメッセージに、辻褄を全然考えていないと思しきシーンの羅列からして、ネタであることは明白なのだが――本篇の大ヒットと、期待を裏切らない出来映えからして、実現の可能性はありそうだし、私も再会を祈りたい。

 そして、深田恭子演じるドロンジョに負けないハマりっぷりだったのに、どうもわりを食った感じになっているヤッターマン2号さん福田沙紀に見せ場を増やしてあげてください。実写版で彼女が最後に放った台詞がアレではあんまりです。

関連作品:

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*1:銅像は犬ではなく、妙にキュートなミツバチの像になっている。

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