原題:“Night at the Museum” / 監督:ショーン・レヴィ / 原案&脚本:ロバート・ベン・ガラント、トーマス・レノン / 製作:ショーン・レヴィ、クリス・コロンバス、マイケル・バーナサン / 製作総指揮:マーク・A・ラドクリフ / 撮影監督:ギレルモ・ナヴァロ / プロダクション・デザイナー:クロード・パレ / 編集:ドン・ジマーマン / 衣装:レネー・エイプリル / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 出演:ベン・スティラー、カーラ・グギーノ、ディック・ヴァン・ダイク、ミッキー・ルーニー、ビル・コッブス、ジェイク・チェリー、ロビン・ウィリアムス、ミズオ・ペック、ラミ・マレック、リッキー・ジャーヴェイス、アン・メアラ、キム・レイヴァー、スティーヴ・クーガン、ポール・ラッド、オーウェン・ウィルソン / 1492ピクチャーズ/21ラップス製作 / 配給:20世紀フォックス
2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2007年3月17日日本公開
2007年8月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD:bk1/amazon|Blu-ray Disc:bk1/amazon]
公式サイト : http://movies.foxjapan.com/nightmuseum/
[粗筋]
ラリー・ダリー(ベン・スティラー)は焦っていた。何をやってもろくにものにならない彼は長期間にわたってひとつの職に就いたことがなく、別れた妻エリカ(キム・レイヴァー)からも、ひとり息子のニック(ジェイク・チェリー)からも呆れられている。
とにかく新しい職を得なければ、と急いで飛びついたのが、自然史博物館の警備員の仕事だった。夜間警備と言われて撤回しようとしたが、彼と入れ替わりに解雇されるという前任者のセシル(ディック・ヴァン・ダイク)たちのペースに巻き込まれて、けっきょくは引き受けてしまう。
業務に関するセシルたちの説明にラリーが覚えた違和感の正体は、午後5時、博物館が閉館し、ひとりきりで巡回を始めた途端に判明した。
博物館の展示物が、動きはじめたのである。
T−レックスの骨格標本が犬のように遊んで欲しがり、原始人たちは懸命に火を点けようとする。ローマ帝国と西部開拓時代、ふたつのジオラマの住人たちは互いに敵対心を燃やして争いたがる。唯一まともにラリーと口を利いてくれるセオドア・ルーズベルト大統領(ロビン・ウィリアムス)の蝋人形は、博物館に持ち込まれた石板の呪いが原因で、展示物が夜な夜な動き出すようになった、と教えてくれた。
あまりに非現実的なシチュエーションに加え、時代も種族もサイズも異なる多くの“住民”を監視する役割なんて自分には務まらない、とラリーはすぐさましっぽを巻いて逃げ出したかったが、ひとり息子ニックの手前もあり、もうひと晩だけ頑張ってみる決意を固めた。
学芸員のレベッカ(カーラ・グギーノ)に教えを請い、自分でも展示品の由来を学び、周到に荷物を揃えて、ラリーはふたたび博物館に赴く。午後5時を過ぎて、今夜もまた人気のない博物館がざわめき始める……
[感想]
肉体が躍動し血飛沫が飛び散るアクションもいい。静かで噛み応えのある重厚なドラマも欲しい。だが同時に、家族みんなが揃って劇場に赴き、余計な心配などせず素直に愉しめる映画も必要だ。本篇はまさに、そういう映画を志向して練り上げられた作品である。
ただ、正直に言えば、冒頭近くの幾つかの描写については、ちょっと首を傾げた。主人公ラリーは山師的な人物のようで、大儲けを目論んで会社を興すが失敗、その後様々な職業を転々とした結果、妻子に逃げられた、という背景がある。そこまではわりとありがちだが、そんな彼に対する周囲の反応が少々極端なのが気に懸かった。数ヶ月単位で職が変わる移り気の速さに家族が愛想を尽かすのはまだしも、多くの職歴が記されている、というだけでその人物を蔑み、警備員の仕事をまるで卑しいもののように扱うハローワークの職員、などというのは、家族向けの映画に登場させていい人物像ではない。そういう考えの人もいるだろうが、あとの流れに拘わらないのだから、安易に盛り込むべき描写ではなかった。
しかし、引っ掛かったのはこの一点だけである。いったん話がメインの舞台である自然史博物館に移ると、あっという間にユニークな世界へと観客を導いてくれる。
引き合わされた前任者の思わせぶりな言動から、見回りに向かった途端に遭遇する、動き回るT−レックスの骨格標本の登場へ。屋内をうろつき廻るマンモスやライオンの姿もまたシュールだが、ジオラマの住人たちが警備員に敵意を燃やし、さながらガリバーのようにラリーを拘束して制裁を試みるなど、考えつきはするが現実にはお目にかかれない奇妙な光景が陸続と描かれる。虚構性に淫したかのような映像の数々は、純真な子供たちの目には魅力的に映るだろうし、やたらとリアリティを追求した作品ばかりを観てきた目にはとても心地好い。
初登場の際のT−レックスを筆頭に、展示物の素材や実態を考えると、いくら動き出してもそんなことしないだろ、と突っこみたくなる行動が無数にあるし、そもそもみんな実物のミイラとか剥製とかではなく蝋細工などの模造品のはずなのにどうしてオリジナルについての知識が豊富なのか、という点も疑問だ*1が、本篇の場合そうした要素はほとんどミステイクではなくユーモアとしてちゃんと処理しているので、これを咎め立てするほど堅苦しく考えるような人には根本的に本篇は合わない。そのどこか間違った感覚もまた、本篇の味のひとつとなっている。
夜にだけ活動し、博物館の外で夜を明かすと灰になってしまう、などのルールによって、展開に幅が生まれ、かつきちんと段階を追って物語を進めることが可能になっているのも巧い。お陰で内容がとても呑みこみやすく、主人公ラリーの意識の変化も受け入れやすくなっている。きちんと揃えた伏線が立て続けに昇華していくクライマックスも見事だ。
一見何でもありのようでいて、ギリギリのところで節度を守っているのも好感が持てる。ファンタジーであっても、忘れてはいけない常識はきちんと顔を覗かせ、ある部分は綺麗に締め括り、別のところでもう一度笑いに繋げてみせる。そのバランス感覚も秀逸だ。
冒頭の職業に関する描写がいちばん如実だが、骨格にはどうも稚拙な印象が付きまとう。だがそういうところを許容できるなら、最後できっちりと爽快な気分にさせ、充実感を齎してくれるだろう。ごく一般的な観客の求める理想像に限りなく近づいた、いい映画である。非現実的だし下らないけれど、だからこそ楽しい。
関連作品:
『ピンクパンサー』
『ピンクパンサー2』
*1:但し、後者については終盤で理由に繋がりそうな説明があるにはあるが。
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