『G.I.ジョー』

『G.I.ジョー』

原題:“G.I. Joe : The Rise of Cobra” / 監督:スティーヴン・ソマーズ / ハズブロのアクション・フィギュアに基づく / 原案:マイケル・B・ゴードン、スチュアート・ビーティ、スティーヴン・ソマーズ / 脚本:スチュアート・ビーティ、デヴィッド・エリオット、ポール・ラヴェット / 製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、ブライアン・ゴールドナー、ボブ・ダクセイ / 製作総指揮:スティーヴン・ソマーズ、デヴィッド・ウォマーク、ゲイリー・バーバー、ロジャー・バーンバウム、エリク・ハウサム / 撮影監督:ミッチェル・アムンドセン / プロダクション・デザイナー:エド・ヴェロー / 編集:ボブ・ダクセイ、ジム・メイ / 衣装:エレン・ミロジュニック / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 出演:チャニング・テイタムシエナ・ミラーマーロン・ウェイアンズレイチェル・ニコルズレイ・パーク、アドウェール・アキノエ=アグバエ、サイード・タグマウイ、デニス・クエイドクリストファー・エクルストンジョセフ・ゴードン=レヴィットイ・ビョンホン / 配給:Paramount Pictures Japan

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:松崎広

2009年8月7日日本公開

公式サイト : http://www.gi-j.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2009/08/07)



[粗筋]

 今からそれほど遠くない未来の話。

 世界規模の軍事企業MARSが北大西洋条約機構からの資金提供を得て、ナノマイトという兵器を開発した。本来医療用に作られたナノマシンを、急激な速度で金属を喰らう虫型機械に造り替え、それを弾頭に仕込んだものである。戦車は一瞬で霧散し、都市に対して使用すれば瞬く間に全滅させることが出来る。目的を果たしたあとは、遠隔装置により回路をショートさせれば被害の拡大を防げるという、理想的な兵器であった。

 この凶悪な兵器が、謎の組織によって奪われかかる。NATOの特殊精鋭部隊が輸送しているとき、ステルス機を中心とした一群が襲撃、優れた兵士たちの攻撃をものともせずに一掃してしまったのだ。途中、介入した別の武装集団の助力で辛うじて弾頭は無事だったが、生き残ったのはデューク(チャニング・テイタム)とその親友リップコード(マーロン・ウェイアンズ)の2人だけだった。

 彼らを救ったのは、“G.I.ジョー”と名乗る一団である。かつてNATO軍で数々の武勲を上げたホーク将軍(デニス・クエイド)のもとに、全世界から各分野のエキスパートを動員、世界平和のために暗躍する組織だという。その素性を知ったデュークは、すぐさま入隊を志願する。

 理由はふたつ、あった。自分たちを襲撃、多くの仲間の命を奪った敵と互角に渡り合うためには、“G.I.ジョー”が擁する先進技術が必要だと悟ったこと。そしてもうひとつは、デュークたちを襲撃した一群のなかに、彼が非常によく知る人物――アナ(シエナ・ミラー)が混ざっていたことだ。

 実働部隊の指揮官的位置づけであるヘビー・デューティ(アドウェール・アキノエ=アグバエ)らは当初デュークと、ついでに加わったリップコードの能力に懐疑的だったが、デュークは戦闘能力と決断力を、リップコードは射撃での傑出した技術を示すことで、一時的ながら入隊を認められる。

 かくして、デュークとリップコードはふたたび弾頭輸送の任務に就くことになったのだが、敵の行動は先端技術を誇る“G.I.ジョー”のスタッフの予測を超えてきた。敵は、“G.I.ジョー”の本拠に直接襲撃をかけてきたのだ……!

[感想]

 大ヒットとなった『ハムナプトラ』シリーズにしても『ヴァン・ヘルシング』にしてもそうだが、スティーヴン・ソマーズという監督は、空想的な要素を採り入れた冒険映画を得意としているようだ。

 前述2作と較べて本篇はSF寄りだが、その趣向は“空想科学”と言えそうだ。自動車よりも速く走る脚力に、走る自動車をひっくり返す膂力、そして当然のように銃弾ぐらいはあっさり跳ね返す剛性を備えたスーツ。いちど照準を定めたら最後まで標的を追いかけるクロスボウ。強力な衝撃波を打ち出す兵器の数々。G.I.ジョーたちの基地も敵方の基地も現実にはあり得ない(しかしそこにあるなら確かに盲点だろう、と思う)場所にあるあたり、まさに往年の冒険ものの趣である。何より物語の核となる、“ナノマイト”という兵器の趣向自体がまさしく空想科学的だ。

 監督自身どうやらそんな、子供が楽しめるようなアイディアを盛り込むことを大前提に作っていた節がある。従って、あんなスーツに入って戦っていたらGで脳がやられそうだ、とかいくら鉄を食うナノマシンと言ってもあの速度で喰らうのは無理がある、とかいう点が引っ掛かって顔を顰めるような観客は、そもそもお呼びではない。突飛だけどそこそこリアリティを感じさせるぐらいのアイディアのユニークさと、それを活かしたアクション・シーンの迫力をこそ素直に享受すべき作品ではないかと思う。

 アイディアを魅せることを中心としているせいもあるのだろう、本篇のスピード感は尋常ではない。思わせぶりな17世紀フランスでのプロローグから、近未来を舞台に旧来の兵器と先端技術を駆使した兵器との戦いが描かれ、“G.I.ジョー”の登場へ。粗筋では意識的に排除したが、実際には敵方の様子も随所で織り交ぜて描いており、両者の人間関係が絡みながら、“遊び”を最小限に挟み、猛烈な速さで話を運んでいく。細々とした部分に疑問を覚えることがあっても、そんなものは振り解かんばかりの勢いだ。

 ただそれでも、あまりに派手にやり過ぎてしまったために、如何に哀しい出来事が背景にあったにしても、如何に正当性の成り立つ行為であったとしても、さすがにあの程度のお咎めでは済まないだろう、と感じる部分や、あれでは解消できない軋轢があるだろう、と思える感情表現が多く残されてしまったのは気に懸かる。わざと投げっぱなしにしているのならともかく、なまじ“G.I.ジョー”たちの行為の行きすぎを咎める描写が途中であったり、恋愛絡みの言動に激しさがあったりするだけに、人によってはモヤモヤした気分を味わうだろう。好みの問題ではあるが、少々匙加減が乱れている、という指摘は出来そうだ。

 だが全体を通して、ひたすら爽快感を追求した、良質の娯楽映画になっていることは疑いない。アクションの描き方を取っても、CGのみに頼らず、本物の軍用車を街路に落としたり、忍術を修得した者同士の生身の戦いを織りこんだり、と様々な見せ方を採り入れることで、盛り沢山の印象を齎している。

 恐らくスタッフは成績が良ければすぐにでも続篇に着手するつもりなのだろう、敢えて放置した伏線が多く残っているが、しかしエピソードとしてはちゃんと締め括っている。まさに正統的な、ハリウッド大作である。同じハズブロの玩具が出発点である『トランスフォーマー』よりも、個人的にはこちらのほうを高く買いたい。

 本篇では韓国のスター俳優イ・ビョンホンが、敵方の刺客ストームシャドーとして出演している。東京の寺で忍者修行をした……というくだりの描写が微妙なのは、今に始まったことではないので別段気にはならないのだが、引っ掛かったのはクライマックスで上半身裸になる場面である。

 いい身体であるのは間違いないのだが……最近脱ぎすぎではなかろうか。先日日本で公開された『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』でもほとんど意味もなく脱いでいるし、2009年8月29日に公開予定の『グッド・バッド・ウィアード』でも、上半身裸になっての立ち回りが予告篇で描かれている。

 色気のある俳優なので、恐らく今後も各国の映画に出演することだろうが、筋肉美がトレードマークになってしまわないことを祈る。

関連作品:

ヴァン・ヘルシング

トランスフォーマー

トランスフォーマー/リベンジ

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