『ドッグ・ソルジャー』

ドッグ・ソルジャー デラックス版 [DVD]

原題:“Dog Soldiers” / 監督・脚本・編集:ニール・マーシャル / 製作:デヴィッド・E・アレン、クリストファー・フィッグ、トム・リーヴ / 製作総指揮:ヴィク・ベイトマン、ハーモン・カスロー、ロメイン・シュローダー / 撮影監督:サム・マッカーディ / プロダクション・デザイナー:サイモン・ボウルズ / VFXスーパーヴァイザー:ボブ・キーン / 衣装:スティラット・アン・ラーラーブ / 音楽:マーク・トーマス / 出演:ショーン・パートウィー、ケヴィン・マクキッド、エマ・クレズビー、リーアム・カニンガム、トーマス・ロックヤー、ダーレン・モーフィット、クリス・ロブソン、レスリー・シンプソン / カルーセル・ピクチャー・カンパニー製作 / 配給:XANADEUX / 映像ソフト発売:東芝エンタテインメント

2002年イギリス作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:? / R-15

2003年9月6日日本公開

2003年12月21日DVD日本盤発売 [amazon]

DVDにて初見(2009/08/10)



[粗筋]

 単なる演習のはずだった。ウェルズ軍曹(ショーン・パートウィー)率いる小隊はスコットランド山中に取り残され、仮想敵を相手に脱出するだけのはずだった。

 しかし、進軍した彼らが遭遇したのは、惨たらしく荒らされた野営地であった。血飛沫と肉片が撒き散らされた一帯で、生き残っていたのは特殊部隊の司令官・ライアン大尉(リーアム・カニンガム)ただひとり。

 どうやらこれはただの演習ではなかったらしい――そう察したウェルズ軍曹たちを、突如正体不明の敵が襲った。とうてい人間とは思えない動きに翻弄され、2人の兵士が瞬く間に死亡、ウェルズ軍曹自身も瀕死の重傷を負う。

 小隊は辛うじて捕まえた車に乗り込んで現場を逃れ、運転者であるミーガン(エマ・クレズビー)という女性の提案に乗って、近くにある民家へと避難する。だがそこに人の姿はなく、気づけば周囲を謎の“獣”に包囲されていた。

 ウェルズ軍曹に代わって、ウェルズの信頼厚いクーパー(ケヴィン・マクキッド)が指揮を執り、部隊は生き残りを賭けた戦いに臨む――果たして彼らは、悪夢の一夜を乗り越えることが出来るのか……?

[感想]

 とにかく、べらぼうに面白い。

 デビュー作ながら、いきなりイギリスで大ヒットを放っており、やはりホラー作品でデビューして好評を博し、のちに大成したサム・ライミピーター・ジャクソンと対比されているが、それも頷けるクオリティである。

 ホラーのカテゴリに属する作品であるが、正直に言えばあまり怖いとは感じない。血飛沫が舞い、肉片や内臓が転がる様は、免疫のない人ならおぞましさを感じるだろうが、残酷描写に慣れた目には決して図抜けたものではない。殺戮のシーンでタメを作ることもなく、大半の描写をざっと流してしまっているだけなので、人狼の跳梁する様に戦慄することも少ない。

 だがその代わり、描写のテンポが驚異的に良く、あっという間に物語に引き込まれると、あとはクライマックスまで一気に連れ去られてしまうような感覚がある。その場その場で恐怖を醸成することよりも、登場人物たちの恐慌に陥った様や、如何にして未知の脅威と戦っていくかを描くことに焦点を絞ったためと見られるが、その思い切りの良さに感服する。

 立ち回る登場人物たちをひとり残らず個性豊かに描いているのも、作品の魅力をいっそう増している。主人公格のクーパーは所属する部隊の上官から厚く信頼されている一方で、プロローグ段階において謎の鍵を握るライアン大尉と因縁が出来ており、冷静に人狼と戦いながらもしばしば感情を顕わにする。ヒロインであるミーガンとのやり取りで物語を膨らませていく手管も巧みだ。クーパーの上官・ウェルズ軍曹とライアン大尉が対照的な印象を齎す肉付けをされているのもさることながら、脇役である他の兵士たちも、それぞれ何かしら突出した個性を主張しており、ちゃんとそのキャラクター性が物語や台詞の中で活かされている。

 デビュー作ということもあって予算はかなり制約されているのだろう、派手な爆破シーンがある一方で、舞台が野外と森の中の屋敷に絞られていたり、人狼のデザインにはさほど変化がついておらず、終盤で人間が人狼に変化していくところはかなりあからさまに誤魔化した表現を用いている。そういう安っぽさが目につくのはやや問題だが、しかし制約の中で変化と多様性を感じさせ、最後まで牽引力のある映像を作りだしているのは見事だ。続く『ディセント』でも、視野も光線も極端に制約されたなかで特徴的な映像と演出を繰り広げ、ユニークな作品に仕立て上げていたが、そこに繋がる工夫が本篇には随所で窺われる。映像的にも見所は非常に多いのだ。

 気になったのは、画質が悪く、音響が全般に籠もっていたことだが、画質については、ざらっとした質感を演出していたことも事実なので一概に批判する気はないし、音響の質の悪さもDVD製作のときの問題であったり、私の視聴環境との相性が良くなかった可能性も否定できないので、欠点として挙げるのは妥当ではないかも知れない。しかし、今後再発される機会があるようなら、微調整が施されることを望みたい。

 だが、その程度の違和感はあっさりと払拭してしまうような力強さが、本篇にはある。怪奇ものを愛好する人にも、ホラーを愛する人にも、容赦のないアクションを好む人にも、自信を持ってお薦めできる作品だ――但し、フィクションだと解っていても血飛沫の舞うような映像に苦手意識があるようなら、多少身構えておいたほうがいいだろうけれど。

関連作品:

ディセント

ヴァン・ヘルシング

アンダーワールド:ビギンズ

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