監督・脚本:白石晃士 / 製作:大橋孝史、小林洋一 / プロデューサー:上野境介、宇田川和恵 / 撮影監督:福田陽平 / 美術:安宅紀史 / 編集:曽根剛 / 特殊造形:ピエール須田 / 録音・効果:中川究矢 / 音楽:佐藤和郎 / 主題歌:SS『あえか』 / 出演:長澤つぐみ、川連廣明、大迫茂生 / 制作プロダクション:TORNADO FILM / 配給:Jolly Roger / 映像ソフト発売元:ACE DUCE ENTERTAINMENT
2008年日本作品 / 上映時間:1時間13分(レンタル版は1時間9分) / R-20
2009年1月17日日本公開
2009年5月22日DVD日本盤発売 [bk1]
公式サイト : http://www.grotesque-movie.jp/
DVDにて初見(2009/12/06)
[粗筋]
小西和男(川連廣明)が会社の同僚であるアキ(長澤つぐみ)を初めてデートに誘い出した、その日。ふたりははにかみながら会話を交わし、ゆっくりと歩いていたトンネルの中で何者かに襲撃され、昏倒した。
目醒めたとき、和男とアキがいたのは、何処とも知れない密室。ふたりとも鉄板に両手両脚を縛められ、口にはギャグ・ボールを噛まされている。ふたりの前に現れた男(大迫茂生)は、手にした凶器で和男を嬲り、アキを脅しながら、不気味なほど静かな口振りで問いかける。
「愛する人のために、命を投げ出すことは出来ますか?」
男は、感動を求めている、と言った。人が、愛する者のためにすべてを捧げる瞬間を目の当たりにしたときの感動が欲しい、と。もしふたりがその生命力を振り絞り、男の齎す暴力、凌辱に耐えきったなら、ふたりを解放する、と男は約束した。
……そして、和男とアキは、悪夢の時を迎える。
[感想]
普通に生活している人はタイトルも知らなかっただろうが、本篇は公開直後から様々な話題を提供している。まず劇場公開前後に、ウェブ上で閲覧可能だった予告篇が、あまりの残酷さに公式サイトから削除されてしまった。晩春に日本でDVDが発売、のちにイギリスでもリリース予定だったが、「物語上必然性のない暴力が横溢している」ということで発売禁止の指定を受けた。そのあおりで、多くの国の商品を取り扱っているインターネット通販大手amazonでは、日本のサイトであっても購入が出来ない状態となっている。
私自身、ウェブで予告編を鑑賞して興味をそそられた口であった。劇場公開中は若干の気後れが生じたのとスケジュールの都合とで結局観られずじまいとなり、公開から10ヶ月近く経て、ようやくレンタルDVDではあるが、ようやく懸念を解消したという格好である。
念願叶ってようやく鑑賞することの出来た本篇だが――しかし、観終わった私の率直な感想は、想像していたほどきつくはない、というものだった。目を覆いたくなるほどの暴虐を描きながらも、しかし底には理性が感じられる。
確かにシチュエーションの残酷さは、その辺の生半可なホラー映画、スプラッタ・ムーヴィーが裸足で逃げ出しそうな代物であり、それが1時間ちょっとの尺に目一杯、執拗に詰め込まれた作りには圧倒される。しかし、個々の場面をよくよく眺めてみると、実は決して特異でも独創的でもないことに気づくはずだ。まあそれでも、一般にロードショー上映されけるようなホラー映画では絶対にお目にかかれない種類の“拷問”が登場しているのも確かだが、そのほとんどが直接描写ではない。危害を加える人物の腕や犠牲者の痙攣する様、そのために生じる粘つく音を巧みに再現することで、凄惨な凌虐を観る者に感じさせる、という手法だ。シチュエーションそのものは確かに凶悪だが、内容にも描き方にも新奇さはなく、その意味での衝撃は実のところ薄い。
本篇はそれを短めの尺、極めて限られた舞台、限られた登場人物によって濃密に描き出したことに意味がある。通常手段であるはずの暴力を、極限まで目的化したまま観客に突きつけることで、より生々しさを増幅している。
加えて、犠牲者となる男女の会話、襲われる直前のデートの様子や、中休みのようなタイミングでのふたりの描き方が、とても純粋で清潔感に溢れていることが、暴力の不条理さ、無慈悲さをいっそう強調していることも注目すべきポイントであると思う。もっと悪趣味な作りを狙っていたのであれば、彼らの関係性にも毒を籠めることは可能だったはずで、それを避けているからこそ拷問の理不尽さを観る側はいっそう痛感することになる。緩急をつけたり、犠牲者を善良な人間として描くことで生まれる効果を理解して物語を構成している。
とことん残虐だが、しかし作る側の意識にははっきりとした理性を感じさせる。分析するとそれが解る作りであるが故に、観る前に想像していたほど衝撃を受けなかったのだろう。どうせ振り切れるのなら、理性すら悲鳴を上げるレベルにまで振り切れて欲しかった――と思ってしまうのだ。
無論、そんなふうに考えて作品に臨む人のほうが遥かに少ないだろう。もし関心も耐性もない人が間違って観てしまえば、恐らく中休みに入る前に目を逸らすか、観るのをやめてしまうに違いない。しかし、そういう反応を望んで、理性を留めつつも可能な限り“最悪”を志した本篇は、ホラー映画、とりわけゴア・ムーヴィーを愛好する観客にとって、間違いなく見所に富んだ作品である。
レンタル版は、極度に残酷な場面を削除した、セル版より4分短いヴァージョンとなっている。本当に衝撃的な部分は現在、セル版でしか確認できない状態になっており、私は製作者が本来意図した形では鑑賞していない、ということになるが――正直、その4分間のためだけにわざわざDVDを購入する気にはなれない。
大枠の狙いを上記のように捉え解釈したうえだと、たかだか4分程度、痛みを直視するような場面があったところで、評価は変わらないだろう、と思うので。そして意欲は認めても、ごく個人的には、手許に置いておきたい、とまでは感じなかったから。
関連作品:
『オカルト』
『ホステル』
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