原題:“21” / 原作:ベン・メズリック『ラス・ヴェガスをブッつぶせ!』(ASPECT・刊) / 監督:ロバート・ルケティック / 脚本:ピーター・スタインフェルド、アラン・ローブ / 製作:デイナ・ブルネッティ、ケヴィン・スペイシー、マイケル・デ・ルカ / 製作総指揮:ウィリアム・S・ビーズレイ、ブレット・ラトナー、ライアン・カヴァノー / 撮影監督:ラッセル・カーペンター,ASC / プロダクション・デザイナー:ミッシー・スチュワート / 編集:エリオット・グレアム / 衣装:ルカ・モスカ / キャスティング:フランシーヌ・マイスラー,CSA / 音楽:デヴィッド・サーディ / 出演:ジム・スタージェス、ケイト・ボスワース、ローレンス・フィッシュバーン、ケヴィン・スペイシー、アーロン・ヨー、ライザ・ラピラ、ジェイコブ・ピッツ、ジョシュ・ギャッド、ジャック・マクギー、サム・ゴルザーリ、ジャック・ギルピン、ジェフリー・マー、フランク・パットン、クリストファー・ホリー、ヘレン・ケアリー / トリガー・ストリート/マイケル・デ・ルカ製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment
2008年アメリカ作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:?
2008年5月31日日本公開
2008年10月22日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:bk1/amazon|Blu-ray Disc:bk1/amazon]
公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/21/
[粗筋]
ベン・キャンベル(ジム・スタージェス)は悩んでいた。母ひとり子ひとりという境遇でバイトをしながら学費を稼ぎ、マサチューセッツ工科大学で優秀な成績を収め、親友たちと共にロボット開発を競う大会での優勝を目指して、日々忙しく過ごしていたが、そのせいで大した人生経験がない。長年の夢だったハーバード医科大学に進むため、ロビンソン奨学金の審査を受けているが、最後の課題であるエッセイで、担当教授を驚嘆させるようなエピソードの持ち合わせがなく、結局選から漏れてしまった。
そんな彼にある日、数学の教授ミッキー・ローサ(ケヴィン・スペイシー)から、思いがけない誘いがあった。ミッキーは5人の生徒を使って、ラス・ヴェガスで荒稼ぎを繰り返していた――方法は単純、ブラックジャックのテーブルで、配られるカードを数えるだけ。カジノの人間に気取られないため、複数が囮となって小さなギャンブルを繰り返し、彼らがチャンスと見込んだテーブルに参加して、一気に稼ぐ、というものだった。ミッキーはベンの数字に対する強さと、決して己を見失わない冷静さに着目して、この計画の中心となって稼ぐプレイヤーとして招き入れようとしたのだ。
最初は難色を示したベンだったが、ミッキーの仲間に、以前から密かに想いを寄せていたジル(ケイト・ボスワース)がおり、彼女から熱心に誘われたことで、参加を決意する。ハーバード医科大学での学費と生活費に必要な額、およそ30万ドルを稼いだら切り上げる、そう自分に言い聞かせて、ベンはラス・ヴェガスに乗り込んでいった……
[感想]
頭脳を駆使してラス・ヴェガスで大金を稼ぐ、というとスティーヴン・ソダーバーグ監督の“オーシャンズ”シリーズのような現金強奪計画か詐欺行為をまず思い浮かべるが、本篇で使われている手段は、作中で触れている通り、違法とは言い切れない。ただ、ギャンブルというものの本質を覆す行為なので、カジノの運営者側からは決して歓迎されないし、作中のそれほど苛烈ではなくとも、金輪際出入り禁止、という処置ぐらいは受けるだろう。具体的な方法、計算式などは明示されないものの、直感的に納得のいく稼ぎ方であるのは間違いない。だからこそ、これが“実話”だと言われて納得がいく。
しかし、本篇は実話であるか否かを抜きにしても、観ていて異様なほど惹きつけられる内容に仕上がっていることは間違いない。
知識を使ってカジノで荒稼ぎする、というアイディアはダーティだが、しかし物語の推移は非常に真っ当な青春ものの筋を辿っているのがいちばんの理由だ。生活に悩みを抱えていた青年が、自らの天賦の才を知り、それを活かして運命を変えていく。望みを叶え、かつては手の届かなかったものを多く手に入れたことで、次第に当初の目的を見失い……。要素の大枠を切り取っていくと本当に有り体だが、それを堅実に、説得力のある描き方をしているから、自然と見入ってしまう。
カジノでの時間経過の表現や、ベンたちの狂騒ぶりを描く手管など、スピーディで洒落た手法を用いているのも、ありがちだが本篇にはぴったりと嵌っている。その軽さがあるからこそ、中盤で訪れるかつての友人たちとの決裂や、当然のように見舞う破綻の重みが増しているのだ。
極めてオーソドックスな筋立てだが、しかし一方でクライマックスは、にわかに一筋縄ではいかなくなる。伏線や人物描写を活かしたサプライズが繰り返され、思わず膝を打ちたくなるはずだ。そして最後の最後で、決して意外ではないが、きちんと観る側の鬱憤をも晴らしてくれるようなひと幕を挿入するあたりが素晴らしい。
突出した要素はないが、堅実に丁寧に構築し、観終わったあとで得がたい爽快感をもたらしてくれる、優れた青春映画である。……でも真似をして、カジノにカードを数えに行かないようにね。方程式が頭に入っていないと失敗するし、ローレンス・フィッシュバーンにタコ殴りにされて帰ることになりますから。
関連作品:
『リカウント』
『オーシャンズ13』
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