『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』

『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』

監督:本広克行 / 脚本:君塚良一 / 製作:亀山千広、永田芳男 / プロデューサー:臼井裕詞、安藤親広、村上公一 / 撮影:川越一成 / 照明:加藤弘行 / 美術制作:後藤正行 / 美術監督:梅田正則 / 録音:加来昭彦 / 音響効果:大河原将 / 編集:田口拓也(J.S.E.) / VFXスーパーヴァイザー:石井教雄  / 音楽:菅野祐悟 / オリジナルテーマ作曲:松本晃彦 / 出演:織田裕二柳葉敏郎深津絵里ユースケ・サンタマリア伊藤淳史内田有紀小泉孝太郎北村総一朗小野武彦斉藤暁佐戸井けん太小林すすむ甲本雅裕遠山俊也小木茂光寺島進松重豊高杉亘、東根作寿英、川野直輝、滝藤賢一森廉時東ぁみ伊集院光稲垣吾郎岡村隆史小栗旬小泉今日子 / 制作プロダクション:ROBOT / 配給:東宝

2010年日本作品 / 上映時間:2時間21分

2010年7月3日日本公開

公式サイト : http://www.odoru.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/07/03)



[粗筋]

 かつて“空き地署”と呼ばれていたお台場・湾岸署に、とうとう最期の日が訪れた。この日を境に、湾岸署は消え――新しい湾岸署が動き出す。

 要するに、引っ越しである。

 刑事部強行犯係係長の青島俊作(織田裕二)はこの引っ越し業務の本部長を任され、連日多忙を極めていた。こんなときに事件など起こって欲しくない、と念じても犯罪者たちが耳を傾けてくれるはずもなく、荷物の上げ下ろしで大わらわの中、出動命令に青島たちは飛び出していく。

 だがこの日の事件は、いささか奇妙な様相を呈していた。青島たち強行犯係が赴いたバスジャックは、犯人は人質たちの荷物に手をつけず、何かの要求を突きつけることもなく、警察の到着以前に姿をくらましていた。一方、恩田すみれ(深津絵里)ら盗犯係が駆けつけた銀行では、セキュリティをいじり金庫を開けておきながら、中身を奪うこともしていない。署に戻った青島たちは、揃って首を傾げた。

 新湾岸署に戻った青島たちは、だが間もなくその意図を理解する。大量の荷物の積み卸しのために多くの業者が絶え間なく出入りする署内で、刑事課などが奇妙な事件の処理のために出払っているあいだを狙って、賊が侵入していたのだ。彼らが奪っていったのは、拳銃――それも刑事課の3人にあてがわれた3挺が盗まれていた。

 やがて湾岸署管内で、うちの1挺と共に、射殺された死体が発見される。警官の銃が犯罪に利用される、という事態に神田署長(北村総一朗)らは動揺するが、しかしこれは、引っ越ししたばかりの湾岸署を震撼させる大事件の、ほんの序章に過ぎなかった……

[感想]

 実写邦画史上最高のヒットとなった前作から7年振りに帰ってきたファン待望の最新作は、しかし同時にシリーズ全体を総括し、新章へと繋ぐ意思のようなものを窺わせる作りとなっている。

 シリーズの本筋が停滞し、『交渉人真下正義』に『容疑者室井慎次』の劇場版スピンオフ、テレビのスペシャル・ドラマとして提供された『逃亡者木島丈一郎』に『弁護士灰島秀樹』といった番外篇が製作され、結果的にキャラクターの数も世界観も膨れあがってしまった、というのもある。作品にとって大きな要であった和久平八郎を演じていたいかりや長介を喪った、ということも大きいだろう。

 それらを含め、やはり時間の経過は作品の上に重くのしかかってくる。警察機構というものを題材にしている以上、入れ替わりの激しい官僚たちは無論のこと、湾岸署の面々にも配置換えがあるのが当然だ。青島が十年一日の如く巡査部長としてヒラ刑事をやっているよりは、増えた登場人物、消えていった人々を踏まえた変化があるべきだろう。

 従来は昇進に興味がなかったように映る青島が、何故警部補に上がり係長として部下を束ねる立場になることを選んだのか、本篇の中では語られていない。だが、しばしば詳細を伏せるのは、たとえば前作で青島が仄めかした“潜水艦の事件”がなかなか明かされなかった――映画と同時期にリリースされたDS対応ゲームがこの事件について触れているようだが――ことを筆頭に、決して珍しい趣向ではない。それが7年という長いブランクの分だけ徹底された、というわけだ。青島がどのように昇進を決意したのか、想像するよすがも幾つか鏤めてあり、そこを読み解く愉しさも本篇にはある。

 従来よりも青島に照準を絞った描き方をしているが、それでも群像劇としての面白さもまた健在だ。例によって仮眠する暇もなく走り回らされる青島に、最終的に新しい湾岸署内に閉じ込められるすみれたち、それぞれで状況の認識と危機感に違いが生じているのを、青島に関する出来事を鍵に、感情移入する対象が変わるだけで観客の感じ方も変化する、という趣向まで盛り込んでおり、シリーズの持っていたスタイルを深めているのが解る。

 個人的にいちばん感心したのは、事件の謎解き部分だ。このシリーズは事件の推移のリアリティや謎の面白さ、解決の鮮やかさで魅せるよりは、人物同士のやり取りの面白さ、意外性や爽快感に重きを置いており、これまでの劇場版(スピンオフも含む)では序盤の大風呂敷に対して解決がいささかしぼんだ印象を与えていた。それに較べると本篇の謎解きは、決して完璧ではなものの、シリーズ全体を通してもいちばん丁寧で納得がいく。しかも恐らくは、シリーズをずっと鑑賞してきた人ほど先に読み解ける可能性は高いし、咄嗟に理解しやすいはずだ。それでいて、本篇だけ鑑賞したとしても、ある程度の手懸かりは用意されており、匙加減もいい。

 細かな描写を抜き出すと、無茶は多いし勢いに任せてかなり無思慮に組み込んでしまったものも見受けられる。特に終盤、封鎖された新湾岸署のあたりでの青島の行動は印象的だが、雰囲気に誤魔化された感は否めない。それもまた、捉え方によって感動の場面にも笑いどころにもなる、という解釈の幅の広さにも繋がっているが、他のパートに較べると意図せざる“幅”のようにも見受けられ、緩みを感じる。

 だが、そうした緩さもまた、このシリーズの魅力の一端を担っているのは間違いない。キャリア組なのに試験勉強に明け暮れていた真下の存在や、いつまでも異動しない署長・副署長・刑事課長トリオ、通称“スリーアミーゴス”も不自然と言えば不自然だ。だが、意識しているしていないに拘わらず、ずっとシリーズに親しんできた者にはそういった遊びや緩さも愉しく映る。単体での完成度、緻密さを求める向きは顔をしかめるだろうが、本篇の場合はきちんと魅力に繋がり、そういう緩さを残していることがファンサービスにもなっている。

 つまるところ本篇は、これまで以上に徹底して、シリーズのファンに照準を絞った作りとなっている。そういう意図を、映画に求められる理想と照らし合わせて否定したり咎めたりするのは、あまりにファンを軽視しすぎだろう。望まれて戻ってきたのだから、新たなキャラクターやノウハウの蓄積を存分に吐き出して、とことん愉しんでもらう。そういう姿勢を貫いていること自体は、否定されることではないと思う。

 無論、こういう映画ばかりになってしまったら、それはそれで詰まらないし、映画界にとって喜ばしいことではない。だが、現在まで多くの支持を獲得し、人気を繋いできたこのシリーズには、少なくともこういう映画を作りあげる資格があるし、作る以上は要望に応えるのは義務だ。間違いなく本篇は、きっちりと己の役目を果たしている。

 様々な要因によるブランクを越えてようやく陽の目を見た本篇は、シリーズのメイン・キャラクターや面白さを、時の経過を反映しつつも保持し、更に新しい布石をあからさまに用意する形で幕を下ろしている。如何せん、スタッフもキャストも売れっ子となってしまっただけに、すぐに、とは行かないだろうが、今回ほど空白を生むことなく、続篇がお目見えすることを期待してもいいだろう――むしろ、これだけ思わせぶりにしておいて、また7年も待たせるなんてことになるのはあんまりだ。

関連作品:

踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!

交渉人真下正義

容疑者室井慎次

誰も守ってくれない

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