「うちの教室、委員長の幽霊が出んだよ」
「……別に死んだことないよな、お前のクラスの学級委員長」
「酷いこと言うなよ。うちの委員長は二年間、不動だぞ」
「それはそれで問題あるんジャマイカ」
「生前どういう肩書だったのかは解らねぇけど、うちのクラスでは委員長で通ってる。とにかくお節介なんだ」
「お節介?」
「俺が放課後の掃除当番だったとき、全員で『こんなんめんどくせー、ブッチしちまおうぜ!』ってなってさ、床掃かないで、寄せてあった机、戻して帰ったんだわ」
「ちゃんと仕事しろよ」
「でもさ、次の日教室に来たら、机がまた後ろに寄せてあるんだよ! お陰で、ぜんぜん掃除してなかったのがバレて、先生に大目玉喰らってさぁ……」
「自業自得だな」
「なんか、ムカつくだろ。5人がかりで一所懸命片付けたのにさぁ、わざわざ戻すなんてよぉ!」
「片付けた、って机を並べなおしただけだろ」
「いったいどいつの仕業だ、って思ったんだけど、おかしいんだよ。その日はなんか、部活も委員会もぜんぶ早く切り上げてて、俺たちが片付けた頃にはみんな帰ってたんだってさ」
「朝、最初に来た奴がやったんじゃないか? 先生とか……」
「先生はみんな忙しくて、そんな面倒なことするくらいなら俺たち呼びつけて怒鳴りつけるだろ。
それに、その日最初に登校したの、俺だったし。俺が『なんじゃこりゃあああ』って叫んだの聞かれてバレたんだし」
「お前は真面目なのか不真面目なのか、どっちだ」
「なんとかとっ捕まえてやりたかったけどさ、手掛かりもないんで放ったらかしてたんだよ。
で、それからしばらくして、ホームルームがあったんだよ。何だったか、詳しい内容は覚えてねぇけど、妙に揉めてさ。俺と、男の学級委員が掴み合いになりそうなくらい険悪な雰囲気になって」
「ホームルームは真面目に参加してるのかお前」
「そしたら、黒板がいきなり“バン!”って鳴ったんだよ。全員、びくっ、て跳び上がって、黒板のほうを見たんだけど……誰もいなかったんだよ。担任は議題だけ出して職員室かどっかに消えてるし、女の学級委員は俺たちの仲裁に入ろうとしてて、黒板から離れてたんだ」
「……でも、誰も叩いてないのに鳴るわけないだろ、黒板が。遠くから何かをぶつけたとか、やった奴が黙ってたとか」
「そんな感じはしねぇんだよ……みんなマジで驚いて、女子なんか怯えてるのもいたし。前にもこういうことあった、この教室おかしい、って騒ぎ出してよぉ、そのあとは会議どころじゃなかったんだぜ」
「前にもあった……って、誰もいないのに黒板が鳴ったり、机が勝手に動かされたり、って奴のことか?」
「いや、そこまで派手なのは珍しかったみてぇだけどよ、うちの教室じゃ前から変なことが起きてたみてぇだ。黒板の、日直を書くとこ、書き換えるの忘れたと思って教室に戻ると、見覚えのない筆跡で書き直してあったとか、女子が固まって話をしてると、いつの間にか知らない生徒が紛れ込んで普通に会話しててよ、終わったらすっ、と姿を消してる、っていうんだ……髪が長くて、綺麗な娘だったのは間違いないっていうけどよ。
とにかく、やることがお節介だ、って言うんだ。担任が少し早く来る、ってとき、うちは他のクラスより3分ぐらい早くチャイム鳴った、ってことがあったんだけどよ、あれもそいつの仕業だ、って噂だし、アンケートの提出忘れると、夢に出てずーっと叱られることもあんだってよ!」
「試してみたのか?」
「ばっ……馬鹿言ってんじゃねえよ! なんでそんなん……夢に出られて嬉しいかってんだ!」
「何をムキになってるんだ」
「あ、いや……と、とにかく、どうも気になって、落ち着かなくなってさあ……俺、何とかその委員長をとっ捕まえてやろうって思ってよ、罠をしかけてみたんだ。
掃除当番が回ってきたとき、俺一人で引き受ける、って言って、他の奴を帰して、実際にはなにもしねぇで机を戻して……それで、ロッカーの中に入って待ち伏せしてみたんだ」
「……怖くなかったのか?」
「あ? なんで?」
「……いや、いい。続けてくれ」
「なんだよ……とにかく、準備済ませて、待ってたんだけどよ、全然なんにも起きなくてよ。イライラして、教室に出て待ち構えてたんだわ」
「待ち伏せの意味がないぞ」
「でもよ、あんまりカリカリして頭に血ぃ昇らせたのが悪かったみてぇで、椅子に座ってるあいだにウトウトしてきてよ。
そしたらよぉ、耳許で綺麗な声がしたんだ。『起きなさい、閉じ込められるわよ』って。
はっ、となってあたりを見回したけど、やっぱり姿は見えねぇんだよ。でもよ、一瞬だけ廊下側の窓にシルエットが浮かんでさ、それが横に進んで消えちまった。慌てて廊下に出てみたけど、やっぱり捕まらなかった」
「…………」
「でだ、俺としちゃあ、何とかしてとっ捕まえてやりてぇんだけどよ……なんか、いいアイディアねぇか? お前なら、今の話でなんか思いつかねぇか?」
「まあ……思いついた、というよりは、発見はあった」
「おぉ! やっぱりそうか! なんだなんだ? 言ってみろよ、遠慮しねぇで!」
「黒部、お前さ」
「おう」
「委員長に、惚れてるみたいだな」
「……………………はぁ? 寝惚けてんじゃねぇよ、誰があんな愛想のない女に」
「見えてるほうじゃない。見えない奴の話だ」
「……………………」
「…………」
「……」
「あさってを見つめて黙るのはやめてくれ」
「……お、おう」
「……すぐには何も思いつかないけど、考えといてやろうか?」
「い……いや、いいわ。俺……」
「…………どうした?」
「……………………告白……したほうが、いいのか……?」
「…………………………健闘を祈る」
その後、黒部とは距離をおいているが、消息をまっったく聞かないのは、悲しむべきなんだろうか、喜ぶべきなんだろうか。
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